3−5「死体の山と祝詞」
「よー、ドグラ、お疲れ。協力ありがとな。」
そう言いつつ僕らをナビしたスマートフォンのデータをいじるのは黒いシャツに黄色のネクタイの細身の男…会社の情報部に所属しているというエージェント・江戸川で、彼は中身の大部分を消去したスマホを里中さんに渡すと胡散臭そうにニヤリと笑った。
「何ぶん、この手の回収作業には何も知らない新人社員の方が都合が良くてな。そこの小菅や里中みたいな人間がうってつけだったというわけだ…ま、お前さんは10年前にも参加しているから多少のことは対応できると踏んでいたがね。」
そうして、僕らから数メートルほど先。
道の真ん中で折り重なるように倒れた死体の山をちらりと見る。
その周囲にはしめ縄が張られ、数人の神主たちが取り囲み祝詞をあげていた。
供養されている遺体は大部分が白骨化しており、未だに黒い根が取り付いているものもあったが、それも神主たちの祝詞と共に溶けるように消えさりその下から彼等が着ていたであろう元の服の地の色が見えていくのがわかった。
その江戸川の様子に、主任はイラつきながら噛み付く。
「…12年前よ。情報部で人事を心がけるには、部下がいつどの期間にいたかを正確に把握しておけと口すっぱくして言っていたのは、あんたじゃなかった?」
江戸川はそんな主任の様子に肩をすくめる。
「あーあ、12年も手塩にかけて育てていたのに自立しちまうとこうも可愛げがなくなっちまうのか?…まあ、それはそれ。ドグラ、これが何だかわかるか?」
主任は死体の山を一瞥すると、「あー、クッソ。完全に思い出したわ」と言いながら、面倒くさそうに頭をかく。
「分類は『丁の25番』、通称『
そう言うと主任は死体が大量に倒れこんでいる道の端…そこにある縦長のモニュメントのような石を指差した。
江戸川は、それを見て満足そうに頷く。
「…そうだ。で、あの石こそが山の境界に位置する道祖神なわけだが、あの場を境にして俺たちは地元の神主と協力して周期ごとに山に集まった遺体を回収し、元いた家族のところへと返している。で、なんで新人を使うかっていうと…」
そこまで言ったところで主任が後を継ぐ。
「損失を最小限にするため…山に入った人間は記憶を探られ負の感情を刺激される、失敗すれば車ごと完全に山に取り込まれる可能性もあるから、会社の情報を最低限しか持っていない新人社員にお鉢が回ると…そう言いたいんでしょう?」
嫌悪感をむき出しにしながら、噛み付く主任。
江戸川はそれに小さく笑う。
「…ま、お前もわかっていると思うが、これも社の方針だからな。それに対してお前が何を思うかは自由だ。」
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