3−2「逃走と走行」

加速したはずみで僕らの体はグイと後ろに引っ張られる。


「…くっそ、何で気がつかなかったのか。里中ちゃん、今年で厄年でしょ。」


ハンドルを切る主任に里中さんは目をしばたたかせる。


「え…なんで知ってるんですか?」


目の前の急カーブを華麗なハンドルさばきでこなし、主任は声をあげる。


「社員の生年月日を知ることはこの会社では上に行くほど必須だからね。物忌みとか厄年とか以外とバカにできないのよ、会社ここは…それより小菅くん!里中ちゃんの手をしっかり握って車から出ないようにしてあげて、社用車はいろんな意味で防御に特化してるけれど中の人間の行動までは制限できないから!」


…正直、主任が何を言っているのか僕にはわからない。

でも、追っ手という言葉に後ろを見てぎょっとする。


黒い服を着た人々。

こちらに向かって走ってくる人たち。

先ほどまで手を振っていた人たち。


…だが、その顔は明らかに生者のものではなかった。


土気色の肌。灰色の生気のない顔。

その眼窩や口元から何かがはみ出している。


よく見れば服と思っていたものさえ違う…それは、黒い根。

服と違うほど体に巻きついた大量の腐った黒い植物の根。


それらに巻きつかれたがこちらに向かって迫ってくる。


(見られてた感じはこれか?でも、こんなに沢山いるのに…?)


戸惑いの中、主任が声をあげる。


「早く、里中ちゃんから目を離さない!」


瞬間、僕は隣に座る彼女の顔が青くなっていることに気づいた。

うつむく顔からはバタバタと汗が垂れ落ち、苦しいのか胸を押さえている。


しかも、その片方の手が後部座席のドア。

ドアのロック部分に伸びていて…


僕はとっさに彼女を止めようと、その震える腕に手を伸ばした…

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