2−2「パーキングに来た観光バス」
フードコートの店員は顔がよく見えない。
だが何かを作っているらしく店内からは常に湯気があがっている。
その後も僕は黙々と清掃を続け、昼には清掃作業の半分が終わった。
同時に報告を受けた撤去班が中を確認し、僕らを含め全員がドアから外に出る。
そして、撤去班の一人が最後のドアを手動で閉めると、おかしなことに先ほどの店内の活気はあっという間になくなり、中はしんと静まり返った。
電灯の消えた室内。
見れば、先ほどまでいた人や食べ物も一切無くなっている。
「…ここは元々、民間経営のパーキングエリアだったの。けれど、不況のあおりを受けて10年以上前に閉鎖されてね。本来なら電気もガスも水道すら通っていないはずなんだけど、ああして人が来るとフードコートに活気が湧いて客に食べ物を進めてくるのよ。」
社用車の車内、主任はコンビニで買ってきたレタスチキンサンドにかぶりつく。
…コンクリートにヒビの入った山中にあるパーキングの駐車場。
立ち入り禁止のコーンが建物を囲うように置かれ、建物も随分年季が入っているのか、ツタがところどころにはびこっていた。
その手前には社用のテントがいくつか張られ、行き交う救護班やモニターを監視する撤去班の様子が見られた。
「店内には幾つか監視カメラも設置しているから清掃班に変な動きがあった場合すぐに動けるようにできているの。実際、ちょっと危なかったんじゃない?小菅くんは最近ラーメンを食べていなかったのかな?まだ食べたい感じがあるなら、寮の近くにある美味しいお店を紹介してあげるけど?」
主任の言葉に僕は恥ずかしくなり、黙ってコンビニの鮭おにぎりにかじりつく。でも彼女の言う通り、口の中はすでに豚骨ラーメンが食べたくなっているので、やや物足りない感じは否めない。
「あるある。お昼前にあれをやられたら堪んないからね。向こうもこっちの嗜好を読んでくるようだし、店内に並ぶお店も私たちに合わせてくるのよ。こっちもクレープが食べたくて堪んないもの…帰りにコンビニで買ってくるか。」
そう言って、どこか物足りなさげにパックジュースを飲む主任。
(…なんだ、主任も一緒なのか。)
僕は少し安堵し、夕飯は主任が教えてくれたラーメンにしてみようかと考える。
幸い、今日は寮の隣人でエージェントでもあるジェームズが夕食を作ってくれる曜日ではないので安心してラーメンを食べに行ける…いや、もちろん。彼の料理も美味しい。美味しいのだが、栄養とかバランスとか見栄えとか、そういう点でジェームズはどうもジャンキーな食べ物には眉をひそめる傾向があり前に僕がハンバーガーを昼食に食べているところを発見された日には正座をさせられ栄養バランスについて長々と説明を食らった経験があったので、その後はなるべく避けるようにしてきていたのだ。
「…うんうん、ジェームズは仲良くなったらなったで面倒だからね。いらんとこまで世話焼いてくるし、小菅くんはそれでも上手に付き合ってる方なのよ。」
そう言って主任は慰めとも諦めともつかない言葉をかけてくる。
そんな主任に僕も「まあ、そうですね…」と言葉を濁すが、その言葉を言うか言わないうちに不意にフロントガラスの前に何かが立ちふさがった。
それは、「〇〇観光ツアー御一行様」と表示の出された大型の観光バス。
どこから出現したかもわからないような大型車両は駐車場に引かれたバス専用の駐車線に止まると突然ドアを開け、バスガイドを始め中に乗っている人を次々と吐き出し始めた…
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