第116話 水着のお披露目
今夜の天体観測に打ってつけの場所を見つけた僕は、地面に落ちていた太い木の枝を使い、土の上に線を引きながら元来た道を引き返す事にした。
こうして線を引いておけば、夜に懐中電灯を使って線を辿り、この場所を目指せるからだ。
暫く時間が経てばこんな線はあっさり消えるだろうけど、今夜までの間くらいなら何とか持ってくれるはず……と思いたい。
本当はもっとちゃんとした目印を道に撒いたりすべきなのだろうが、丁度良い目印になりそうな物がないからな。
地面に線を引くために腰を落としてゆっくり移動していた事もあり、僕が元のキャンプ地に戻るまで多少時間が掛かってしまった。
僕が戻った時には、案の定蜂須と蝶野会長の着替えは終わっていたようで、水着姿の2人がこちらに近付いてくる。
彼女達がどのくらい待っていたかは分からないが、黙っていなくなったせいで心配を掛けた可能性はあるだろう。
そのため、彼女達が何か言う前に、僕は速やかに頭を下げた。
「ごめん、急にいなくなって。ちょっと周りを探索していたんだ。」
「全くよ。って言いたいところだけど、こっちも着替えが終わるまで大概待たせちゃったしね。こっちこそごめんなさい。」
「私もすまなかったな。其方を待たせている事に、もっと早く気が付くべきだった。」
互いに謝罪を交わし合った僕達は、みんな一斉に頭を上げ、改めて各々の水着姿を視界に収める事となった。
友人の少ない陰キャな僕は、女子の水着姿なんてスクール水着以外はリアルで見た事がなかったんだが……いやはや、これは凄いとしか言いようがないな。
蜂須は派手な彼女のイメージによく合う赤いビキニで、白い素肌や華奢な体を惜しげもなく晒している。
括れたお腹周りや、程よく肉がついた太もも、慎ましやかではあるが多少膨らんだ胸に、キュッと引き締まったお尻。
決して肉付きが良い訳ではなく、スレンダーな体型をしてはいるが、それでも目を惹きつけられてしまう魅力がある。
まして、それが好きな女の子の体なのだから猶更だ。
「ど、どうしたのよ、あんた。あたしの水着姿をガン見してるけど、何か変?」
「え!? あ、いや、よく似合っているなぁ、と……」
「は、はぁっ!?」
不味い、やらかした!
ついうっかり、とんでもない事を口走ってしまったぞ!
しかしながら、今夜告白を企てているのに、ここで今の発言を撤回すると余計にややこしくなる。
今夜に向けての伏線を撒いておくくらいの事は、やっておくべきかもしれない。
いきなり告白を仕掛けても、ただ驚かせてしまうだけだろうからな。
それに、今この場で蜂須がどう反応するか次第で、告白の成功率などもある程度は見えてくるんじゃなかろうか。
だったら、ええい、ままよ!
「その赤い水着、綾音によく似合ってると思うぞ。金髪と相まって色が映えているし、えっと、綺麗だなと思う、けど。」
「っ! あ、あんた、急に何を言い出すのよ!?」
「まあ、感想を素直に口に出しただけというかだな……とりあえず、そんな感じだ。」
「ちょっ、だ、だからっていきなりそんな事を言い出すとか、び、びっくりするじゃないのよ! あんた、あたしの……別に……ないんでしょ……?」
蜂須が顔を真っ赤にして、声を荒げる。
ただ、心底怒っているという雰囲気ではなく、表情には恥じらいの色が浮かんでいた。
台詞の最後の辺りは声が尻すぼみになっていたためよく聞こえなかったのだが、少なくとも、嫌がられている訳ではなさそうに見える。
ただ、今までリア充とは対極の人生を歩いてきた僕には、実際にどうであるかまでは分からない。
告白の成否を左右する材料を、ほんの少しでも得られるかもと思っていたんだがなぁ。
結局のところ、予定通り今夜ぶつかってみるまでは、どう転ぶかは予測不能という事だ。
「む~……! 蜜井くん、私は!? 私の水着の感想はないの!?」
「ちょっ、会長!? いきなり大声を出さないでくださいよ……。」
耳元で怒鳴られたものだから、鼓膜がキーンと鳴ったぞ。
ってか、あんた一度僕に振られてるんだから、水着の感想など普通はノーセンキューだと思うんだけどな。
自分を振った男から「水着似合ってるね」なんて褒められても、複雑な気持ちにならないか?
そもそも、蝶野会長の水着姿があまりに際どかったから、僕は敢えて彼女を視界に入れないようにしていたんだがなぁ。
こうして声を掛けられてしまった以上、面と向かって無視するような真似を続ける事は出来ない。
諦めて会長に視線を向け、頭からつま先まで、ザッと流し見して――。
「うん、似合ってますよ。さて、そろそろ……」
「ちょっと! 私の感想だけ、随分と適当過ぎない!?」
僕の対応があんまりだったせいか、蝶野会長の中二キャラがさっきから剥がれているな……。
でも、正直な感想を口にするのはやはり憚られるよなぁ。
会長が着ている水着は黒いビキニで、腰には透けたパレオを巻いている。
このため、蜂須に比べれば下半身の露出はやや抑えられており、却って上半身、というか胸に視線を引き寄せる恰好に仕上がっているのだ。
まるでメロンか何かと見紛うサイズの双丘は、黒い布地によって大事な部分こそ隠されているが、激しく動き回れば不意に零れ落ちてしまうかもしれない。
見えそうで見えない、その豊かな膨らみが、男の本能を強烈に揺さ振ってくる。
しかし、本当に牛みたいな大きさだな……。
蜂須がなまじスレンダーな体型をしているから、こうして並ぶと差が余計に際立つ。
とりあえず、これ以上会長の肢体を長時間直視するのは危険だ。
「僕は何も遊び道具とかを持ってきてないんですけど、2人は何か持ってきてますか?」
「凄く誤魔化された感じが拭えないんだけど……私は何も持ってきてないよ。」
「ビーチボールとかは川に流されるかもしれないから持ってこない、って話になってたわよね? あたしが昔の友達と一緒に行ったプールは遊園地内の施設だったから、ボール以外の物で遊んだ記憶はないわよ? ウォータースライダーとかで遊んでいたしね。」
うーん、やっぱりそうだよなぁ。
そもそも荷物になるような遊び道具は持ってこれないって、事前に打ち合わせで話していたもんな。
川に足を入れてみると、水面は僕の股下辺りの位置まで来ており、一応泳げる程度の深さはありそうだ。
これなら、とりあえず泳いで遊ぶ事は最低限出来るだろう。
「遊び道具を持ってきていない以上、泳ぐしかないよな。」
「……こんな事言うのは何だけど、あたし、今日はあまり遊ぶ気になれないのよ。あたしは適当に日光浴でもしてるから、あんた達だけで泳いで競争でもしてきたら?」
気まずそうな顔で、蜂須が僕から視線を逸らしながらそう答える。
反応から察するに、もしかして彼女は泳ぐのが苦手なんだろうか?
そういえば、球技大会の時に、蜂須は運動全般が苦手であるといった事をギャル連中が口走っていたっけ。
普通のプールで泳ぐのが苦手であるのなら、流れのある川で泳ぐのを躊躇するのも当然の話だ。
浅い川であるとはいえ、溺れない保証はないからな。
「だったら、私達2人だけで泳ごうか、蜜井くん。」
「えーと……はぁ、分かりました。」
一瞬断ろうかと思ったけど、ここで誘いを否定してしまったら本格的に水着に着替えた意味がなくなってしまう。
それに、蜂須は川辺に敷いたシートの上に座り、既に本を読み始めている。
この子、意外とマイペースな一面があるんだな……。
彼女は完全に泳ぐつもりはないらしいし、ここは僕達2人だけで遊ぶとしよう。
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