第2章 蟲の季節

第4話 とある日の授業風景

 4月も残すところあと数日となった今日、僕は朝から憂鬱な気分に浸っていた。

 午後から雨が降らないだろうか、と教室の窓の外を何度眺めてみても、僕の目に映るのは、雲1つない澄み切った青空だけ。

 天気予報でも、今日は一日中快晴だと言っていたので、雨は期待できそうもない。


 は、僕のような運動が苦手な奴にとってはただひたすら辛いだけなので、何とかして欲しいところだ。

 いっその事、生徒会に要望でも出すか……などという案が脳裏を一瞬だけ過ったが、今から要望を出したところで今日のイベントが中止になる訳でもない。


 第一、生徒会に要望を出しに行くとなると、またあの中二病生徒会長と顔を合わせる事になるはずだ。

 彼女は、別に悪い人ではないのだろうが、あまり関わり合いになりたくないタイプの人である事は確かなので、自分から生徒会室に行くのはなるべく避けたい。


 とりあえず、今日の午後のイベントが最早どうにもならないのは確定的であるため、僕はそこで思考に一区切りを付けて、視線を教科書の方へ戻す。

 今は数学の授業中なので、あまり余計な考え事に耽っているのは宜しくない。

 この後、先生に当てられてもきちんと答えられるよう、今開いている教科書のページの問題を解かなければ。

 僕が問題に手を着け始めた矢先、間の悪い事に先生が声を発した。


「では、このページの問題を……そうだな、蜂須、解いてみろ。」

「はい。」


 ふぅ、危なかったな……。

 先生の視線が横に1席ズレていたら、当てられていたのは僕の方だった。

 黒板の前で問題が解けずに恥を掻くなんて、絶対に嫌だったからな。

 全く、ヒヤヒヤさせてくれるものだ。


 安堵する僕をよそに、先生に当てられた真面目系金髪ギャルの蜂須は、すたすたと黒板の前まで歩いていくと、迷いのない手つきで黒板に計算式を書き始める。

 そして、あっさり問題を解き終えた彼女は、先生の方へ向き直った。


「出来ました。」

「うむ、正解だ。さすがだな、蜂須。これでもっと恰好がまともなら、本当に言う事はないんだが……。」

「……。」


 先生のボヤきをスルーして、蜂須は金髪サイドポニーを揺らしながら颯爽とした足取りで席に戻った。

 この応用問題をあっさり解いてみせた事や先生のボヤきから察するに、蜂須が成績優秀であるという噂は事実なのだろう。


 なのに、彼女は何故こういう不良ギャル系の恰好をしているのか。

 まともな恰好をして先生からポイントを稼いでおけば、大学の推薦だって狙えるかもしれないのに。

 いつもつるんでいるギャルの友人達に合わせているのだろうか。


 普通に考えれば、仲間に合わせる事よりも、成績や将来の進学を重視すべきだと思うけどな。

 カースト最上位様の考える事は、僕にはいまいち理解できない。


「よし、じゃあ授業はここまで。午後からは球技大会があるから、昼食を食べ終わったらすぐに着替えてグラウンドに集合する事。いいな?」

「はーい!」


 授業の終了を告げるチャイムが鳴ったため、先生はこの後の予定を改めて僕らに周知してから教室を出ていく。

 先生がいなくなるのを見届けた僕は、急いで鞄から弁当の包みを取り出した。


 ――ああ、憂鬱だ。


 今日の午後の授業の時間を潰して開催される、クラス対抗の球技大会。

 僕のような運動が不得手な生徒にとって、こういう体育系の行事は苦痛でしかない。

 個人競技ならともかく、集団で戦う競技だと、僕みたいな奴が足を引っ張るだけで終わるのが目に見えているからだ。

 その上、足を引っ張った件に関してカースト上位勢の奴らに責められたりする事もままあったりするのだから、非常にタチが悪い。


 せめて、僕がもう少し運動神経が良くて、尚且つぼっちキャラじゃなかったら、こういう行事もそこまで苦痛じゃなかったんだけどな。

 何とかして、目立たないようにさっさと退場できる事を祈る他ないだろう。


 そんな事を思いながら昼食を済ませた僕は、男子用の更衣室として指定された教室で体操服への着替えを済ませ、予鈴と同時にグラウンドに出た。

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