癒された

 裁縫ギルドに泊まり込みで修行をするというアルリナの事をよろしくお願いしますと受付のお姉さんに何度も何度も頭を下げて、しつこいぐらいにお願いしていたらアルリナにケツを蹴られて裁縫ギルドから追い出されてしまった追放系異世界TS転生者のロトルルです。


 今は公園のベンチで項垂れている最中です。


「はぁ……ツラいわ……」


 半身が無くなったレベルで体が重いです。


「アルリナに依存し過ぎていたようですね……ダメだなぁ私……」


 あぁ……何にもやる気が起きない……虚無虚無プリンですわ……。


「みーつけた」


 声を掛けられた方へ見上げて見ると、シシドウさんたちとよく飲み会をしていた、全体的に白っぽい衣装を着ているどうみても清楚系ヒーラーのお姉さんでした。名前は知りません。


「あぁ、知り合いだけど名前を知らないお姉さん」

「う、うん。まだ名乗って無かったっけ? 私はセイラって言います。よろしくね」

「改めましてロトルルと言います。よろしくお願いします」


 握手を交わすとセイラさんが隣に腰掛けて来ました。


「元気が無いみたいだけど、何かあったのかな?」

「……すごく大切な人と、別れる事になってしまいまして……」

「そう……」


 ふわっと爽やかな香りがすると思ったらセイラさんに抱き締められていました。ええっと、どういう事でしょうか?


「辛かったね……今は沢山泣いて良いんだよ……私が全部受け止めてあげるね」

「えっと……?」

「辛いね……悲しいね……よしよし、良い子良い子……」


 何かすごく変な勘違いをされてしまっている気がしますが、このふにゅふにゅとした胸の感触は最高ですし、頭を撫で撫でされるのも最高ですし、可愛らしい声で囁かれるのも最高なので、しばらくこのままで良いんじゃないでしょうか? いや、良いに決まっています!


「ロ、ト、ル、ル、さ、ん?」

「はっ、その声はアルリナ!? 何故ここに!?」


 やましい事は何一つした覚えはありませんが、急いでセイラさんの天使の抱擁から逃れました。


「忘れ物を届けに探しに来てみれば、そういう事してるんだもん。海よりも深いわたしの心でも、許せる事と許せない事があるんだよ? ねぇロトルル? その女誰?」


 今にも人を殺せそうな殺気を放って来ているアルリナさんがギロリとセイラさんを睨みつけました。

 非常に不味い状況です。セイラさんは完全にとばっちりなのでなんとかして守らねば!


「こちらはセイラさん。アルリナと別れて傷心中の私を慰めてくれていた、すごく心の優しい方です」

「ど、どうも」

「へぇ……ふぅん……まぁ、嘘は言っていないみたいね……でもさぁ……あんなに感動的な別れ方をしたすぐ後なのに他の女と抱き合ってる所なんて見せられたらさぁ……心穏やかでいられるはず無いわよね? ねぇ?」


 ケツを蹴られて追い出されたシーンでは無く、この場合はキスシーンの時の事を言っているのでしょう。……それでも感動的かと言われると、ちょっと違う気もしますが。


 そんな事はどうでもよくて、今は嫉妬に狂ったアルリナをどうなだめてあげられるかを考えるのが先決です。


「こちらで何卒ご容赦を!」


 ストレージから宝石ブドウを取り出してアルリナに捧げました。

 結局金目の物しか思い付きませんでした。


「許す!」


 チョロいなぁ。チョロすぎるよアルリナさん。妹として物凄く心配だわ。


 忘れ物の虫カゴをアルリナから受け取り、私のプレゼントした宝石ブドウを太陽に翳して、その美しさを愛でながら裁縫ギルドへと戻って行った強欲と嫉妬の姉、アルリナを生暖かい目で見送りました。


「すごい子だったね……」

「先程話した大切な人がアレです」

「え、死に別れたんじゃ?」

「裁縫ギルドでしばらく修行するというので、その間は別れて行動するという話です」

「なんだぁ、勘違いかぁ……でも生きてて良かった」


 え、何この子、良い子過ぎない? 惚れちゃうよ? 一目惚れしてたけど、さらに惚れちゃうよ?


「ハッ!? 悪寒が!? 背筋をゾクッと!?」


 アルリナ!? ニュータイプに目覚めたとでも言うのか!? ええい、思念を飛ばして来るんじゃあない!


「大丈夫? 熱でも出ちゃったかな?」


 セイラさんがさも当然の如く、おでこ同士をコツンと当てて来たので、私は成す術も無く堕とされてしまいました。


「はぅ、しゅき……」

「ちょっと、熱っぽいね。ヒーリング」


 私の体を光が包み込むと、心も体も癒されて、邪念すらも浄化されたような清々しい気持ちになりました。アルリナの思念は邪念だった……?


「ありがとうございます。すっかり元気になりました!」

「ふふふ、それは良かった」


 あぁ、なんて可愛らしい笑顔なんだ。守りたいこの笑顔!


「それでスキル合成の話ですがセイラさんならタダで良いですよ」

「え? そんな話したっけ?」

「あれ? ダイゲンさんから話を聞いたのでは?」

「え、うん。そうだけど、あ、そういう事か! ごめんね理解が遅くて」

「いえ、私も過程をすっ飛ばして話してしまってすいません。それでですね、あまり人に見られない所とかあればそこでしたいのですが、どこかありますか?」

「うーん、家だと家族が居るから、ロトルルちゃんの宿屋じゃダメ?」

「今、宿屋取ってないんですよ……ならルリコさんの宿屋に行きましょうか」

「ルリコもロトルルちゃんのこと探してたけどもう会ったの?」

「ええ、漁師になる事を勧めてスキルを合成しましたよ」

「漁師……?」


 という事で、ルリコさんの宿屋に行きましょう。

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