新たな獣が目覚めた

 金髪ゴリラのバケモノから辛くも逃げ出せた私は、転移ゲートを開いて裁縫ギルドへと戻ってきました。

 裏路地にゲートを開いたので誰にも見つかっていませんよ。


「あ、どこ行ってたのよ! こんな貴重な物を置いて行くなんて危機感無さすぎよ!」

「私的にはもう納品したつもりでしたけど?」

「……ダメよ。これでは納品出来ません」

「えー、じゃあ、錬金スキルで金属変換して鉄にしますけど、構いませんね?」

「も、もっとダメ!! そんな勿体無い事したら許さないわよ!!」

「我儘な人ですね。ではやはり納品と言うことで」

「くぅーーー! 報酬金は変わりませんからね!!」


 その場で地団駄を踏んでぷりぷりとお姉さんが怒っています。可愛いですねぇ。

 私の金銭感覚の無さを怒ってくれているのもポイント高いです。将来はきっと良いお嫁さんになる事でしょう。


「また何かしてる……」

「アルリナ、もう生地が出来たんですか?」

「ええ、この通り」


 アルリナが十数枚のコットン生地を抱えている気がするのですが、布作りってそんなに簡単でしたっけ? これって異世界常識?


「こんなに沢山、どうやって作ったんですか?」

「え? コットン糸を機械に入れて取手を回したらすぐに出来たわよ?」

「なるほど……」


 どう考えても異世界アイテムですね。それとも前世の世界にもそういう機械はあったのでしょうか? 前世でも裁縫とか一切やった事が無いのでさっぱり分かりません。


 私の縫い針依頼の報酬金1万5000エルと裁縫師レベルを5にアップさせ、アルリナのコットン生地依頼の報酬金1500エルと裁縫師レベルを3にアップさせました。


「この子どうにかならない?」

「無理です」

「……あなたも苦労しているのね」


 受付のお姉さんとアルリナが何やら話していますが、私のこの性格はどうにも出来ませんよ。


 お姉さんに逢うてはお姉さんを褒め、また別のお姉さんに逢うてはお姉さんをいぢめる。全ては私の思うがままに。なんてね。


 アルリナとお姉さんが私についての苦労話を終えるのを、ストレージから取り出した鉄塊を金属変換しながらお手玉して待っていたら、二人してジト目で私を見て来たのでウインクして返してあげました。

 それを見てとても深い溜息を吐かれたので、二人の幸せが逃げないように大きく息を吸って二人のグッドスメルを嗅ごうとしましたが、少し離れた距離だったのでよく分かりませんでした。


「ねえ、ロトルル」

「はい、何でしょう?」

「しばらくここで働く事にしたからロトルルはどうする?」

「え、しばらくとは?」

「んー、とりあえず裁縫師レベルが30になるまでかな? そこまで上げたら色んな服が作れるようになるみたいだし」

「なるほど、良いじゃないですか。それで何日ぐらいでレベル30になれるものなのでしょうか?」


 私がお姉さんに視線を送って聞いてみると「半年から1年ぐらいかしら?」と返答が返って来ました。マジですか……。


「つまり、アルリナが修行中の間、私が旅をしたいと言ってもアルリナはここに残りたいと、そういう事でしょうか?」

「そういう事ね。それに半年ぐらいあっという間だって」

「ええー、ううー、はぁぁ……分かりました。先に行くので、着いたら連絡します」

「ロトルルなら大丈夫だと思うけど気を付けてね?」

「分かってますよー。じゃあ、うちの姉をよろしくお願いしますね」

「ええ、必ず立派な裁縫師にしてみせるから安心して任せなさい!」


 という事で訳の分からない内に姉が裁縫ギルドにNTRれてしまいました。


「ってなんでやねん! アルリナちょっと来てください!」

「痛っ、ちょっと、ロトルル、痛いってば!」


 アルリナの腕を引っ張って裏路地に入り、壁ドンをしました。一度やってみたかったんですよね。シチュエーション的にもバッチリでしょ?


 それはそれとしてアルリナが簡単にNTRれてしまったのは許せません。


「あっ、な、なによ……」


 壁ドンした瞬間、一瞬アルリナの体がビクッとして、少し怯えた表情になって最高に可愛かったです。このまま食べちゃっても良いかな?


「アルリナが自立したいという思いは分かっているつもりですが、納得は出来ません。家族はいつも一緒と私、言いましたよね?」

「……だって、可愛い服作りたかったんだもん。ロトルルにも私が作った服を着せてあげたいから……それで……」

「ふーん。そんな可愛いこと言っちゃうんだ。じゃあ、もういいです。過保護な妹は大切な姉を守るためにありとあらゆる事をしますけど、それで構いませんよね?」

「何をするの?」

「スキルの盛り合わせ〜エアロアダマンタイトを添えて〜」

「何その高級料理みたいな名前……」


 ストレージから各種有能なスキルを持ったブドウと指輪を取り出して、アルリナに液化合成して行きます。


「先ずはストレージ、鑑定、仕事運、全能力アップ、全耐性アップと」

「そんなにスキルあっても使い切れないよ!」

「まぁまぁ、次はエアロアダマンタイトシリコーンを手に合成します」

「エアロ、なに?」


 ストレージからエアロアダマンタイトシリコーンの塊を取り出してアルリナの手に合成しました。


「ああ!? 何してるの!?」

「針が刺さると危ないから」

「そんな理由で金属っぽい物を合成しないで!」

「ちなみに私の体は全身エアロアダマンタイトを合成してあります」

「怖っ! ロトルル怖っ! 人やめてるじゃん!!」

「えへへ」

「笑い事じゃないよ!?」


 アルリナの強化は終わったので後はお金ですね。


 ストレージから2000万エル近く詰まった現金袋を取り出してアルリナのストレージに入れるように言いました。


「一先ずこれぐらいで」

「……ほんと、ロトルルって自分勝手だよね」

「大切な人には傷付いて欲しく無いんですよ」

「これじゃまるっきりシスコンじゃない」

「シスコンで良いですよ。アルリナが大切で愛おしくて大好きです」

「……私も、ロトルルが大好き」


 アルリナがそっと顔を近付けて来たので私も目を瞑ってキス顔で待っていると、鼻を摘まれてしまいました。


「にゃにお?」

「ねぇ、ロトルル。わたし結構キレてるんだよ? 急に人外にされたり、大切な妹が金属のバケモノになってたり、ほんと頭に来てるの……だから、これはお仕置きね」

「ンムッ!?」


 鼻を摘まれたままキスなんて窒息してしまいます。だがそれが良い。


「ンー」

「ムームー」

「ンーーー」

「ムームーッ!」

「ンーーーーーーー」

「ンッ! ンーッ!!」

「ンーーーーーーーーーーー」

「…………」


 キスの心地良さと酸素不足で脳内物質がドパドパ出て、また新たなる性癖を刻み込まれたロトルルなのであった。


「はっ!? 夢か」

「一瞬気を失ってただけよ。次に何かおかしな事をしたらもっとすごいお仕置きをするから覚悟する事ね」

「もっと、すごい……ゴクリッ」

「わたし無しじゃ、生きられない体にしてあげる」

「Oh……」


 私の身勝手な行動でアルリナの奥深くに潜んでいた獣を解き放ってしまったやもしれません。


 へっ、ヤンデレの姉なんて望むところですよ。

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