土遊びした

 またまたしばらくすると悪ガキの父親さんだけがやって来ましたよ。


「少し私と話をしないかい?」

「何でしょうか?」

「この木についてだが、君は植物系のスキルを持っているのかな? だとしたら私達の畑の手入れを手伝ってもらえると助かるのだが。もちろん報酬もちゃんと出す。どうだろうか?」

「仕事の依頼ですか……」


 ふーむ、特にする事も無いし別に良いかな?


「分かりました。報酬は収穫した作物で良いですか?」

「ああ、それで良いならこちらも助かるよ。何せ貧乏農家なものでね」


 まぁ、こんな街外れに住んでる人が金持ちな訳無いもんね。

(などと大変失礼な事を考えるロトルルなのであった by前世)


 窓から飛び降りて飛行スキルで着地すると父親さんがギョッとして驚いてました。

 そう言えば名前を聞いていませんでしたね。


「私はロトルルと言います」

「あ、あぁ、私はタンヒだ。よろしく頼む」


 握手を交わして畑へと向かいます。


「この畑なんだがこの場所だけ成長が悪くてね。何とかなるかい?」

「ちょっと見てみますね」


 土を鑑定するとカビ菌が大繁殖しているようでした。


 一見するとカビなんてどこにも生えていないように見えますが、そこは異世界、植物の栄養だけを食べる異世界カビが人間に気付かれないように悪さをしているみたいです。

 実っている野菜の方では繁殖せず土の中だけで悪さをするズル賢さを持ち合わせているカビが居るなんて異世界は怖いですねぇ。もしかしてカビ系モンスターとか居たりします?

 想像したら怖くなってきちゃった。


「ふむふむ、カビが繁殖しているようなのでこの辺り一帯は諦めてください」

「……そうかい。では無事な畑の方も頼むよ」

「と言いたい所ですが大丈夫です。この畑も使えるようにします」


 という事でカビで汚染された畑を作物ごと液状化させてファイアボールを突っ込み沸騰させ、カビを殲滅。調合スキルで水分を適度に抜いて肥やしポーションを撒いて健康的な土に戻しました。


「これで大丈夫です。あとは肥料を混ぜて耕して種を蒔くだけです。それはタンヒさんにお願いしますね」


 農業スキルも土魔法も覚えていないので耕したりは出来ないんですよねぇ。

 ビニールハウスを作れって言われれば錬金スキルで作れますけど。

 土を盛ったり、種を植えたりするのは手作業なので微妙に面倒です。


「……あ、あぁ、そうだな。クワを持ってくるから、その間に他の畑も問題無いか見て回ってくれないか?」

「分かりました。収穫出来そうな作物があったら貰って良いですかね?」

「あぁ、構わんよ。好きなだけ持って行ってくれ」

「ありがとうございます」


 ざっと見回しましたが他の畑は大丈夫そうなので、どの畑から収穫していこうかな?


「メロン! 君に決めた!」


 と言ってもまだまだ小さい、実ったばかりのメロンです。

 一応もう一度鑑定で土を調べて問題無い事を確認してからハイ肥料ポーションを霧吹きで散布し、大玉にして収穫しました。


「ちょっと食べちゃお」


 ストレージからアダマンタイト万能包丁とまな板を取り出して大玉メロンを半分にし、もう半分はストレージに収納。

 ストレージからさらにスプーンを取り出していただきます。


「ジュルジュル、ウマウマ、あまぁい!」


 お店で買ったら1万エル以上はする美味しさです。

 満足するまで食べて残りはストレージへ。


 次の作物へ向かいましょう。


「ニンジン、ピーマン、キャベツ、ネギ、カブ、ダイコン、ブドウ、スイカ、オレンジ、イチゴ……手広くやり過ぎでしょうに」


 畑の知識なんてほとんどないですけど、これだと土の栄養が無くなってしまうような気がします。

 まぁ、私ならポーションで何とでも出来ますけどね。


 実っていた作物を全てストレージに回収しました。

 後でじっくりと調合、合成、錬金していきましょう。


「どうだい他の畑の様子は?」


 タンヒさんがクワを持って戻って来ました。


「土の栄養が心配ですけど、他は問題無いみたいです。ハイ肥料ポーションを持っているので一本10万エルで売りますよ」

「そのハイ肥料ポーションという物が良い物なのは君を見ていればなんとなく分かるが貧乏なものでね。買いたいのはやまやまなんだが、すまんね」

「そうですか。一応お試しで効能だけでも見といてください」


 そう言って、見掛けで分かりやすい様に小さいスイカに霧吹きし巨大化させると、タンヒさんが口をあんぐりと開けて、すごく驚いてくれました。


「……すごいな。それがあれば農業に革命が起こるぞ」

「ハイポーションに肥料を混ぜてるだけですけどね」


 混ぜただけではこうはなりませんけど。

 少なくとも合成スキルが無いと出来ません。


「君は贅沢な使い方をするんだね……ハイポーションに肥料を混ぜようなんて、考えても実行に移すような人は君以外には居そうにないよ」

「買いたくなりましたか?」

「あぁ、けど、やはり金は無いんだ。すまんな」

「そうですか。残念です」


 確かに貧乏だと10万エルは高いけど、どう考えてもチートアイテムなんだし私なら借金してでも買いますよ。

 ハイ肥料ポーションで育てた作物を売った金で追加購入、収入が安定した所で定期購入割引を持ち掛けてゆくゆくは農業王へと駆け上って行くビジョンが私には見えました。


 ……でも待てよ、それって私に生殺与奪権握られてる事になるから、もし仮に私が極悪非道な悪役令嬢だったとしたら奴隷ルート確定じゃない?


 私は別に極悪非道な悪役令嬢では無いのでそんな酷い事はしませんけど、相手にしてみたら訳の分からないぽっと出の美少女と取引するなんて出来そうにありませんでしたね。失礼。


 まぁ、私目線ではチャンスを逃した事に変わりはありませんので、これ以上深入りする事も無いですから挨拶してそのまま帰りました。

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