第25話

――なにがあったの?


――とりあえず、ちょっと待って。


――大丈夫?


――大丈夫だから、ちょっと待って。


そういうとミキは何も語らなくなった。


どうしたんだろうと考えていると、ミキと同じように頭の中に言葉を伝えて来た者があった。


――おまえかあ。俺のミキにちょっかい出しているやつは!


声が直接聞こえたわけでもないのに、そいつが怒りに満ちていることは俺にもわかった。


――俺のミキ?


――そうだ。俺のミキだ、このやろう。


その会話にミキが加わってきた。


――なに言ってるのよ。わたしはあんたのものなんかじゃないわよ。何度も断っているでしょう。


――ミキ、こいつ誰なの?


――廃病院にしつこくつきまとってくるやつがいるって言ってたでしょ。こいつよ。ほんとしつこいんだから。ここまでつきまとってくるなんて。


――なにを言う。俺とミキが結ばれることは、生まれる前から決まっていたんだ。天が定めた運命なのだ。それなのにこんな男と浮気をするなんて。情けないぞ。


――あんたこそなに言ってるのよ。生まれる前から決まってるって、もう死んでるじゃないのよ。それに浮気って、わたしはあんたとつきあったことなんて一度もないわよ。何度も断ったのに、まだわからないの。死ぬときに頭でも打ったんじゃないの。


――こいつがミキにつきまとっているやつか。おい、ミキが嫌がっているだろう。やめろ。とっとともといた場所に帰れ。このストーカーが。


――嫌がっているだとう。ミキはただ照れているだけなんだ。ミキは恥ずかしがりなんだ。俺にはわかる。本当は俺のことが好きで好きでたまらないんだ。わかる。わかるぞ。間違いない。


だめだこいつ。


ストーカー特有の、全部都合のいいように解釈するというやつか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る