第6話

結局のところ、その夜はなにもなかった。


あったのは次の日の夜のことだった。


学生用の狭いぼろアパートで一人ぼんやりとしていると、なにかが聞こえてきた。


いや、聞こえてきたわけではない。


それは音とか声といった類のものではなくて、耳で聞いたわけではないのだから。


頭の中に直接聞こえてきた。


いや、それも正しくない。


音とか声とかいったものではないのだから。


頭の中に直に意志を伝えてきた。といった感じか。


声が聞こえないのに脳が聞こえていると判断した、というかなんだか説明しがたいものなのだが、頭の中に入って来たのは言葉であることは間違いない。


それはこう言っていた。


――やっと会えた。


――やっと会えた?


戸惑っていると言葉がまた入って来た。


――わたしよ、わたし。あの廃病院にいたの。


――!


あのときに感じたなにかか。


その正体が一日置いて俺のアパートまで来ている。


当然のことながら恐怖を覚えた。


――怖がらないで。わたし、あなたに危害なんてくわえないから。

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