第5話

さっき感じた何かもいまはいないような気がする。


確証はないが。


そのまま河本を待った。


すると向かいにあるもう一つの出入り口のドアが開き、河本が顔を出した。


「よお」


俺を見て壁を見た。


「なんだこれは。夜露死苦だなんて。芸がないにもほどがある」


全くもって同感だ。


なにも言わずに河本を見ていると、河本が俺を見て少し急いだ調子で言った。


「もう帰るか」


その言葉を最初から待っていた。


「そうしよう」


俺がそう言うと河本は振り返り、小走りで階段に向かった。


なんだか慌てているように見えた。


その理由は俺にはわからなかったが。


外に出て車に乗り込もうとしたときに、また何かを感じた。


それは俺たちが帰るのを止めているように思えた。


もちろん無視してそのまま帰ったのだが。


その日は俺の安アパートになにか出てくるんじゃないかと気が気でなかった。


またなにか感じるのではないかと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る