第6話 小さくなるつもりはない
今日の夕飯は、ご飯と味噌汁、それに焼き魚。典型的な和食。父・母・祖母も含めた全員の分を私が作った。祖母は私がマトモに料理ができることを喜び、父は無言を貫くも、黙っておかわりをし、母は助かったわ、と言う。
家庭科の調理実習で学んだ、簡単な知識だけで作れてしまうようなものを振る舞っただけで、私はこんなにも喜ばれる。――今までどれだけ家の手伝いをしない「どら娘」をやっていたか、想像つくだろう。しかし、家族総出で店を回している今、家事の全てを母に丸投げするのはよろしくない気がした。
結局、祖母と父と酔っぱらいの客の間に何があったか聞けていない。母は事情を知っているのだろうか。
「そういえば、今日は学校どうだったの」
「あー、まあ、挨拶して、教科書を配られただけだから、特に何の感想も」
美琴の話はしなかった。もちろん、浜辺くんとマイルドヤンキーたちの話も(これだけは絶対にダメ)。
あまりに素っ気ない。しかし、特段言うべきこともない。世の中の中学生女子は、もっとキラキラした生活を送っているのだろう。親や、SNS越しの友人に語っても語り足りないほどの青春を。
私がこんなのになってしまったのは、絶対に「都落ち」したせいではない。だから、父のせいでもないし、環境のせいでもない。私のせいだ。私の、石橋を叩いて壊す性格が全てを邪魔してくる。でもね、――うっかり浜辺くんと関わってしまったことと、美琴に話しかけられたことで、また一つ扉が開いたような気がしたんだ。
小学生の頃の忌々しい記憶を引きずったまま、高校生になるなんてダサすぎる。だから私は、何としてでもこの土地で輝いてみせる。
その晩、私は明日の学校の準備をしたあと、通信添削の教材を開いていた。
『D塾通信添削コース 高校受験講座 トップクラス』――数ヵ月前まで、まさか縁があるとは思っていなかった、高校受験。中学受験と高校受験の両方をするなんて、本当に二度手間だと思うけれど、状況が状況なので仕方がない。私の志望校は、最寄りの県立A高校。東京にいた頃通っていた中高一貫校に比べて、偏差値こそ低いものの、油断は禁物である。仮にも県のトップ校だし、万が一落ちたら大惨事。高校浪人だけは避けたい。
通信添削の課題が終わった頃には、夜11時を過ぎていたけれど、私の1日はまだ終わらない。転校前に購入した、高校数学IAの問題集を取り出す。
――もちろん、一生この土地の中で納まるなんてごめんだから。東京の友人に遅れをとるつもりなんて、毛頭ないからさ。
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