第4話 触らぬ神に祟りなし
放課後、物珍しさに私の周りに群がる生徒たち。注目を浴びるのは、怖い。しかし、これを上手く乗りきれば、私の明るい青春はすぐそこにある。
「ねー、菅原さん。東京の学校ってどんな感じだったの」
「どんなっつっても、変わらないですよ、ただ、制服はもっとダサかった」
「渋谷109とかよく行ったの?」
「夏休みに友だちと行ったことはありますよ、でも学校帰りは寄り道禁止だったから、あまり行けずじまいだった」
「そういえばさっき足引きずってたけど、怪我してるの?」
「バレました? 登校途中に階段から転げ落ちたんよね」
さすがに、今朝の出来事は隠しておこうと思った。マイルドヤンキーに飛び蹴りして捻挫したなんて口にしたら、変なキャラ付けされそう。
「そっかあ……本当はこのあと、カラオケにでも誘おうと思ってたんだけど、怪我してるなら早く帰った方がいいかもね」
「え、行きたい……来週とかじゃダメですか?」
「じゃあ、来週にしよう!」
ノリが悪いのはNG。でも生意気なのもダメ。目立ちすぎは死への第一歩。中庸を行くのは、昔から得意だ。知らないメンバーとのカラオケ、という憂鬱な行事を1週間後に先伸ばししたところで、私の騒がしい転校初日は終わった。
足を引きずりながら自宅へ戻ると、何やら店先で騒ぎが起きていた。
「本当に申し訳ないです。どうか許してやってください、母はもうボケてるんですよ」
「誰がボケとるんじゃい、酒でボケとるんはあっちやろ!」
「おい!」
父と祖母の怒鳴り声。店先では赤い顔をした男が、祖母を睨み付けている。おそらく、祖母と客がトラブって、父が止めにはいるも、なぜかそこで親子喧嘩が勃発しているといったところだろうか。
逃げよ。触らぬ神に祟りなし。今日学んだことだ。
配布された教科書が全てつまった鞄は重く、怪我をした足で長距離歩くのには負担だった。なんとかたどり着いた公園のベンチに腰かける。はあ、とため息をつく。
私は上手くやれただろうか。
転校生っぽい行事に対する憧れだとか、中庸を狙うのは得意だとか、そんなのは強がりにすぎない。
私は、ただの不器用人間。友だちを作るのも苦手だし、危険を回避するのも苦手だ。そうでなければ、浜辺くんたちの諍いに首を突っ込んだりはしない。そうでなければ、――
思い出すのはやめておこう。
通学鞄を開き、国語の教科書を取り出した。古代文明について語る評論に、徒然草、孔子の物語。特に古文は、前の中学校で一通り学び終えてしまっている。同じようなことが書いてある教科書を買うのは、些か無意味に思えたけれど、残念ながら採用している教科書が違うから仕方がない。
「ねえ、今日うちのクラスに入ってきた菅原さんでしょ」
唐突に声をかけられたから、咄嗟に教科書を鞄の中に隠そうとした。
目の前には、ふわふわの髪をした可愛らしい少女。私より幾分背が高い。
「覚えてるわけないだろうから、一応自己紹介しておくね。私、山本 美琴。菅原さんと同じクラスの」
触らぬ神……?
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