第2話 擬態する
コツコツ貯めていたお小遣いとお年玉の使い道が、あまりにもショボい。お金が大切だっていうことは、父のリストラでしっかりと学んだハズなのに、私は転校前にコンタクトを買った。あとは、色つきリップとヘアオイル。ボサボサ髪にメガネをかけた、芋女子をしていても許された女子校時代が恋しい。
登校初日。私は「ちょっとお洒落な中学生」に擬態する。真新しいセーラー服は、前の学校のSNSを賑わすほどダサいそれよりは、絶対にマシ。真っ黒だけど、さら艶なセミロングヘアに、メガネを取っ払った顔。今日の私は、この2年間で一番可愛い。
都落ち先のA県B市は、父の実家の酒屋のある田舎町だった。夏休みの度に、両親に連れられて帰省していたから、周辺の土地柄はよく知っている。――ただ、自分がいざ住むとなると、色々と不都合が出てくる。そもそも駅が徒歩圏内にないのが痛い。
学校自体は、家から徒歩20分。前の中学は、電車を乗り継いで1時間ほど掛かっていたから、それに比べれば楽になった。うん、それだけは良いところだ。坂道が少ないのも助かる。知ってた? 首都圏って、意外と急な坂が多いんだよ。
時間に余裕を持って家を出た。朝の風は心地が良い。排気ガスと、満員電車に揺られる社会人たちの呪詛にまみれた空気で生活するより余程健康的じゃない? 私の青春生活を送る舞台として、意外と悪くないかもしれない。
「ほら、飛べや。飛んでみろや」
……治安の悪そうな声が聞こえてくる以外はね。
「お前、生意気なんだよ。こないだの合唱祭でちょっと注目浴びたからってよ」
「そーだよ、土下座しろよ」
カツアゲに合うわ、生意気だと罵られるわ、明らかにかわいそうな目に遭っている男の子。たぶん、うちの学校の制服。
「……ごめんなさい」
「なんだって? 聞こえねーんだよ」
そう言って、ひとりがかわいそうな男の子を蹴飛ばす。え、酷くない? 理不尽ぽくない? これ、もしやり返しても、正当防衛じゃない? そう感じた数秒後に、何故か私は走り出していた。
人生初の飛び蹴りは、着地に失敗した。
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