第5章 第14話

『セレ、リッピーと2対1ってきついなぁ。』

「何言ってるのよ。1対1だと勝てる訳無いじゃない!」

「そうだそうだー」


「それにこれからは、あなたの事しっかり研究してる相手が大勢で来るかもしれないのよ?」

「そうだそうだー」


「私たち2人程度できついなんて言ってるようじゃ話にならないわよ。」

「そうだそうだー」

真面目な顔のSeregranceと悪ノリするドリッピー。

妬いてる訳ではないが、この2人いつの間にこんな仲良くなったんだ?



闘技場に入り直し、2対1の対戦開始の準備を済ませる。


『分かってるって。さて、準備良いよ。』

「スピさん、ちゃんとアクセサリ装備したー?」

『してるしてる。大丈夫。』

「してるのねー。アンクレットだと、防具に隠れて全然見えないねぇ。」

『良い事だよ。やたらと目立つアクセサリで変に警戒されるより。』

「こっちも準備いいわよ。始めましょうか。」

ドリッピーはいつもの大盾。半身で正面に構えているので武器は見えない。

Seregranceは弓。最初から遠近の連携で攻めてくるようだ。


[3]

[2]

[1]

[Start!]


開始の合図と共に、盾を構えつつ右前方にダッシュ。

まっすぐ突っ込むと矢の餌食だ。


ドリッピーまでの距離を4分の1ほど詰めたところで、

今度は左斜め前方に切り替えジグザグに進む。

Seregranceの矢が2本程近くを掠めて行ったが、うまく的を絞れないようだ。


このままドリッピーに肉薄できるが、本当は先にSeregranceとの近接戦に持ち込みたい。

ドリッピーを矢の斜線上に置いたとしても、矢がすり抜けてくるはずだ。

まともな弓使いのヤバさは、この間の対戦で思い知った。


走りながら一瞬考え、ドリッピーの盾を殴りつける。

ドリッピーの防御硬直中に、自分は弾かれ硬直をキャンセルして

一気にSeregranceに駆け寄ってしまおうという算段だ。


少し長い踏み込みステップから横振りでメイスを叩きつける。


ギャインッ


『のわっ』

一瞬で強防御体勢に構えたドリッピーの盾が、完璧なタイミングでメイスを捉え、

のけぞりによって体が弾かれる。

そのまま即座にバックステップするが


ザシュッ


そこにSeregranceからの矢が刺さる。


『リッピーの盾スキル忘れてたよっ!』

「ふっふーん!あんな見え見えの攻撃、のけぞらせてくれって言ってるようなもんだよー。」


ガインッ


仕切りなおす間もなく飛んでくるSeregranceの矢を盾で受け止める。

「ほらほら、おしゃべりしてるとハチの巣にするわよ。」

『セレさん、容赦ないっすね。』


作戦変更だ。

武器を槍に持ち替え、即座にドリッピーの足元に突きを繰り出す。

盾から遠い足を狙って、2回、3回、4回と連続して下段。

細かく左右にステップを切って、矢の射線を逸らすことも忘れない。

ドリッピーの意識が下に向いた所で、大剣に持ち替え上段からの振り下ろし!


ザシュッ


「おわーっ」


クリティカルヒットとは行かなかったが、盾が間に合わずドリッピーの肩口にヒット!

即座に横にステップし、再び槍に持ち替える。


「ちょっ、スピさん、それえげつないよ!

 後、ダメージも酷い!半分以上持っていかれてる!」

『本気の対戦だしな!使えるテクニックは全部使うぞ!

 ちなみに武器はこれでも数ランク下を使ってる。』

「まじかっ!スピさんと敵対してなくて良かった…よっ!」


中距離では分が悪いと見たか、今度はドリッピーが突っ込んでくる。

斜めに振り下ろしてきた武器に合わせ、槍を跳ね上げる。


狙い通りっ!武器の打ち合いでも硬直はあるし、うまくすれば武器を弾ける。

Seregranceも、ここでいきなり自分がターゲットになるとは思っていまい!


武器の打合い硬直をキャンセルすべく、槍の跳ね上げ動作に身を任せタイミングを図る。


…今だっ!


キンッ


目の前が白くなる。

あれ、Seregranceに射られた!?

一瞬混乱して正面を見ると、Seregranceが正に矢を放とうとしている。

いや、違う。こんな連射速度は無い。


なんとか盾を構えつつ後ろを振り返ると、首を傾げつつ再び切りかかろうとするドリッピー。

いつの間に前後が入れ替わったんだ!?

さらに混乱しつつ、体勢の悪いまま後ろ手で武器を合わせに行く。


ガキンッ

ザシュッ


真正面にドリッピーの武器を捉え、きっちり合わせる事ができたが、

背面からSeregranceの矢が刺さっている。


『ちょ、ちょっと待った。2人ともどうやってんの!?』

「もんどーむよー!」


俺の混乱を勝機と見たか、ドリッピーが攻勢をしかけてくる!


タタタタッ


そこに駆け寄る足音。


「もんどーむよー!」


げっ、Seregranceも片手剣に持ち替えて詰め寄ってきている。

わざわざドリッピーの声色を真似ながら。


前後に挟まれ猛攻を受ける。

武器を盾を使っていなしつつ、隙を見つけて攻撃しようとするも、

たまに2人が一瞬で前後に入れ替わる事があり、混乱してしまう。


防いでるつもりの攻撃を防げていない事もあり、

タイムアップを迎えることなく俺の体は床を舐め、幽霊になるのであった。

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