第3章 第3話

一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、さらに背中から一撃を喰らって気付く。

ああ、今PKを仕掛けられたのか。

しまった、油断していた。武器はあれど、ろくな防具を装備してきていない。

せっかく小夜香が防具も強化してくれていたのに。


「いやー、わりーねー。対人ってさー、スキルも奪えんのよ。

 まー、成功率は低いんだけどさー…

 ぷっ…ぶふっ…ぶはははは!」

斬りかかってきたリックがこらえ切れなくなったらしく、大声で笑いだす。

「いやー、さすがにお前の戦績だったら

 スキル奪取も成功すんだろ、うはははは」

あー、なるほど。対人戦の勝利のリターンとして、相手の装備やスキルを奪えるんだったっけ。


とりあえず、状況は把握できたので横っ飛びで前後に挟まれた状況から脱出する。

視界の右上に目をやると、スキル使用中のアイコンが点灯から点滅に変わるところだった。

まだスキルを再使用しなくてもいける。


ひとまず、さっき付与してやったリックの武器から火を消し、自分の武器に付与する。

「おっと、思ったより反応いいね。ゴミ戦績なくせに。」

隣でシンカーがつぶやく。

武器は2人とも大剣。大剣同士であれば相性問題は無い。

「ここでは初心者狩りに気をつけろって言われなかったか?

 まぁ、俺らみたいなのがいるからなんだが、

 こんだけ美味い初心者も珍しいぜ。」

ニヤニヤしながらリックが言う。

「むしろ、俺らの攻撃3発くらって良く生きてるよ。

 けど、もう瀕死だろ?命乞いでもしてみるか?

 …見逃してやらねーけどな!」

正面から大剣を振り下ろしてくるリック。

片膝をついて自分の大剣の腹で受け、弾き返す。

大剣を使った強防御態勢だ。タイミング良く弾き返すと相手を怯ませることが出来る。

そのまま立ち上がり、リックに斬りかかる。


ガキンッ

ザシュッ


2つの音が交錯する。

俺の攻撃はリックに防がれ、シンカーに横から斬られていた。

「あれ、まだ死なないんだ。意外とHPあるね。」


再び飛びのき距離を開く。

対人戦は結構研究してきたつもりだったが、そういや1対1ばかりだった。

2対1になるだけで、こうも勝手が違うのか。


武器も+30なので、当たればそれなりのダメージのはずだが、防がれては意味が無い。

さて、どうしたものか。


ちなみにHPはあまり減っていない。

ろくな防具とは言ったものの、あくまで自作レベルというだけで全身+30は揃っている。

第1エリアで言えば破格の防御力だ。

…小夜香の作った防具が桁違いすぎるだけだからな。


とは言え、俺の攻撃が一方的に防がれ続け、相手の攻撃を喰らい続けるのも嬉しくない。

余裕のあるうちに立ち回りを考えないとな…


距離を取ったままシンカーを正面に相対する。

リックはいかにも直情型っぽい雰囲気を出している。無視してみると簡単に隙が出来そうな気がする。

何回か攻撃をもらっても良いので、リックを放置してみよう。


シンカーに駆け寄り、下段から斬り上げる。

相手はダッキングの要領で左下に体ごと沈み込み躱しながら、水平に足を薙いで来る。

その大剣を、態勢が崩れたまま無理やりジャンプで飛び越える。

そのまま前転して距離を取りなおす。

この辺りは、現実でやろうと思ったら無理なアクションだが、さすがゲーム。


リックが駆け寄ってくるのが背中越しにも分かる。

振り返ると、すでに大上段。ですよね。

前転後の膝を着いた姿勢から、再び大剣の腹で剣を受け弾き返す。


そのままリックを放置してシンカーに斬りかかる。

下段の切り払い。避けられることは想定済み。

その勢いのまま体を1回転させ、中段の切り払いに繋げる。


ガキンッ


今度は大剣で受け止められた。

んー、やっぱ本気の対人戦だと全然違うな。

っと、そろそろリックか。

後ろを振り返ることもないまま、頭上に大剣をかかげる。


ガキンッ


当たりっ!

かかげた大剣は、振り下ろされたであろうリックの攻撃を受け止める。

だが、このまま密集状態では居たくない。

乱暴に大剣を振り回しつつ距離を取りなおす。


「…ふーん。君、結構考えるタイプなのかな。」

シンカーがリックに叫ぶ。

「リック、こいつ思ったより戦えるぞ!舐めてかかるな!」

「あぁん?こんな雑魚戦績でつえー訳ねーだろ!

 ジタバタしてんのが、たまたまハマってるだけだ!」


なるほど、シンカーが主導でコンビネーション作ってるのか。

じゃぁ、まずはリックから始末させてもらおう。

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