第3章 第2話

考えているうちに、気が付くと夕暮れも過ぎ、夜になりかけていた。

そろそろ暗くてモンスターの姿も見づらい。

やみくもに走り回ったおかげで、街もはるか遠く。

ひとまず明かりをつけるか。

『command use skill slot number two end』


自分の頭上に、追従型の火を起こす。

とりあえずこれで歩いてれば、周囲は明るいままだ。

『いったん街に戻るか。そろそろ3時間経つし、小夜香にも相談かな。』


街が近づいた頃

「すいませーん。」

フィールドで声をかけられる。

がたいの良い大男と、俺と同じ程度の背丈の痩せた男。

頭上にはRickとThinkerと名前があり、

それぞれ95勝3敗、102勝1敗という戦績が表示されている。

リック、シンカーと読むのだろう。


『あ、俺ですか?』

「それって、もしかして発火能力ですか?」

リックが、頭上の火を指さしながら聞いてくる。

あからさまに浮かんでいる火。ごまかしようもない。

『あ、そうなんですよ。初心者エリアで手に入れちゃって。』

「やっぱりそうですよね。

 スキル所有アイコン表示されてないですけど、

 自分のスキルなんですか?」

『所有アイコン?』

「名前の横に星型のマークがあるんだけど、

 おにーさんのアイコン表示されてないんですよね。」

『あ、ほんとだ。でも、ほら。こんな感じで使えますよ。』


音声コマンドは使わずに、メニューを操作してスキルを使う。

これも、音声コマンドに skill slot no2という単語が含まれているのを聞かれないためだ。

俺だけが知ると思われる要素は極力隠していかなければ、今後の攻略に差支えが出る可能性がある。

そして、頭上の火を消して、再度点けて見せる。


「おー、すげーっすね!

 じゃぁ、アイコンはバグかなんかなのかな?

 やっぱ便利ですか?」

『うーん、どうでしょう。

 まだ手に入れたばっかりなんで、

 よく分かってないんですよねー』

あらかじめ考えておいた答え。

見ず知らずのプレイヤーに、初心者エリアを出たばかりの状態で長く使いこんでいる事を知られても良い事は無い。


「そうなんですね。

 武器にも付与できるって聞いてるんですけど、

 他人の武器でもいけるんですか?

 夜になるとモンスターが多く沸くんで、

 もしボーナス貰えるならありがたいなーと思って。」

『あー、付与できるんですけど、

 俺の視線の届く距離から出ちゃうと消えるっぽいですね。』

「そうなんですか。

 じゃぁ、ちょっとの間だけでも良いんで火もらえませんか?」

まぁ、減るもんじゃないし、着いてきてくれと言われる訳でも無さそうだし、良いか。

『いいですよ。』


『あれ?もう1人は』


キィンッ


いきなり目の前が真っ白になった。

「あんがとさんっ!」

今度は正面から肩口が切り裂かれるエフェクトが見えた。

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