第1章 第6話

「ここは初心者エリア。チュートリアルの続きではありますが、

 他のプレイヤーとのコミュニケーションが始まります。

 まずは、街の中を探索してみましょう。」


待て待て。まずは落ち着け。状況を整理しよう。

俺はリハビリで病院に来た。うん、間違いない。

予約時間の20分前にちゃんとたどり着いて、受付を済ませた。

そして、待ち時間を過ごそうと、ソファーに腰をかけたところだ。


ということは、腰を掛けた瞬間にまた意識を失ったのだろうか。

少なくとも、大通りのど真ん中で倒れたりしてなさそうで一安心…じゃない!

一体俺の身体はどうなっているんだ!?


夢の中身もどうだ。以前の夢ではチュートリアルだった。

今回はその続きと言っている…やはりゲームなんだろうか。


「街には、プレイヤーの皆さんが集まる広場、

 冒険に役立つアイテムを売っている商店、

 プレイヤー同士が対戦できる闘技場や、

 一緒にダンジョンを攻略する仲間を探す紹介所等があります。

 さぁ、まずは広場に向かいましょう。」


視界に薄っすらと透けた矢印が現れる。

おそらくこの矢印の方向に進めば広場なんだろうが…どういうことだ。


Dance with The Weaponというゲームは確かに実在した。

だがこれまでに一度もプレイしたこともなければ、

そもそもそんなゲームが存在することすら知らなかった。

夢を見ているにしては、あまりにもリアルすぎる。


しかも、以前調べたときに分かったことだが、

家庭用ゲーム機でもパソコンでもプレイできるゲームなのだが、

専用のセンサーが必要なのだ。


「さぁ、まずは広場に向かいましょう。」

プレイ前に両手、両足、頭にセンサーが内蔵されたバンドを巻き付けて

そのセンサーが体の情報を読み取ることでゲームのキャラクターが動く

という説明がされていた。

そんなセンサー持っていなければ、当然今巻いている訳でもない。

だが、自分の身体は自由に動いている。


…一人で考えても分かることじゃないか。

はぁ…しょうがない。抜け出し方も分からないし、またしばらく付き合うか。


諦めと主に改めて辺りを見回す。

以前と違って石畳の地面だ。触ってみると…感触が良く分からない。

見た目はゴツゴツしているのだが、引っ掛かりを感じない。

まるで石畳の写真が印刷された、真っ平な床の上にいるみたいだ。


現れた矢印が示す先、目の前には木で組まれた柵と門がある。

門の中が初心者エリアということだろうか。

ちらほらと人影も見える。

さっきの声が、プレイヤーが集まるとか言ってたな。


「さぁ、まずは広場に向かいましょう。」

『はいはい、分かりましたよ。』

相変わらずどこから聞こえてくるか分からない声に答え、門をくぐる。


石畳をまっすぐ歩くと、広場に着いた。

掲示板がぽつんとあるだけで後は何もない。

本当に広い場所なだけの広場だ。

「ここが初心者の街の広場です。

 掲示板には自由に書き込みができ、

 一緒に冒険するプレイヤーを募集したり、

 対戦を呼び掛けたりすることもできます。

 では、次に商店で買い物をしてみましょう。」


謎の声に一通り街中を歩き回らされた。

「それでは、いよいよプレイヤーと対戦してみましょう。」


シュワンッ


[初心者クエスト:プレイヤーに勝て!]


「クエストが始まりました。様々なクエストが存在しますが、

 条件をクリアすることで、お金やアイテム等が手に入ります。

 クリアの条件や遂行方法は、メニューから確認できますよ。」


どれどれ。

メニューを開く。[装備][アイテム][ステータス][システム]。

この中だと[システム]だろうか。

細かい説明をしてくれない辺り、ところどころ雑なチュートリアルだ。


[システム] に触れる。

[システムメニュー] が表示され

[クエスト][設定][フレンド][パーティー][ログアウト]

と表示されている。

しかし [フレンド][パーティー][ログアウト] は半透明だ。

触ってみるが、案の定何も反応しない。


フレンドとかパーティはこの後使えるようになるんだろうが、

ログアウトまでさせてくれないとは、なかなかスパルタなチュートリアルだな…

『腹が減っても飯は食えないってことか。』

ゲームの説明書には、始める前に食事を済ませておけと書いてあるんだろうか。


ここがゲームの世界だろうという考えを、少しづつ受け入れ始めているのを実感しながら、

誰にという訳でもなくつぶやく。

しかし少し希望が見えた。

ログアウト出来るようになれば、自分の意思で目覚められるということじゃないか。


よし!さっさとクエスト終わらせて、ログアウトできるようになるまで進めてしまおう。

意気揚々と闘技場を訪れ

[熟練度が足りません]

『うわ、めんどくせー…』

闘技場に入るには、最低合計熟練度というものが必要らしく、

入場すらさせてもらえなかった…

「闘技場の隣にはカカシ道場があります。

 まずはそこで様々な技術の熟練度を上げてみましょう。」

『はいはい、さっさと上げて対戦させてもらいますよ。』

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