第1章 第5話
見覚えのある…ここは…病院か?
えーと…たしかチュートリアルを…いや、そもそも…
そうだ。病院に向かっていたんだった。
ということは、よく覚えていないが病院に辿りついて検査でもしてる最中か。
まいったな。通院途中の記憶もないし、えらくリアルな夢も見た。
事故の後遺症だとしたら厄介な話だ…
「目が覚められたみたいですね。」
『ああ、高山先生。
すいません、検査中に熟睡してしまったみたいで。』
「うーん…熟睡とはちょっと違いそうですが…
ひとまず目覚められて安心しました。
あなたが意識不明で担ぎ込まれて来た時は、
本当に焦りましたよ。
巡回中だったおまわりさんに感謝ですね。」
『…うん?どういうことですか?』
「やはり記憶はないでしょうねぇ…
私も聞いただけの部分もありますが。
ご自宅近くの遊歩道で意識を失って倒れていたところを
たまたま巡回中のおまわりさんが見つけ、
救急車を手配してくれたそうです。
一番近くの病院がうちだったので、
そのまま脳波をモニタしながら
ベッドに寝てもらっていたという訳です。」
遊歩道…ちょうど記憶が途切れている場所だ…
『僕は一体どれくらい意識を失っていたんですか?』
「運び込まれて2時間半ですね。
今は、お昼の2時を回ったところです。」
家を出たのが10時半ごろ。ゆっくり歩いて遊歩道まで30分程度。
3時間くらい意識を失っていたということか…
『そういえば、熟睡とはちょっと違うと言われていたのは、
意識を失っていたからですか?』
「いえ、それもまたちょっと違うんです。
あなたの脳波はモニタリングしている間、常に覚醒していて、
軽い興奮状態にあることを示していました。
意識を失ったり、熟睡している時とは明らかに違っています。
レム睡眠で夢を見ているとしても、こんなに長くは続かない。
何か特殊な状況にあったと推測しています。」
特殊な状況…あのよく分からないゲームの世界の夢を見ていたことだろうか。
高山医師に、夢の内容を伝えてみた。
「ゲーム…ですか。そのゲームは過去に遊んだことは?」
『いえ、夢のわりに鮮明に覚えているんですが、
タイトルも聞いたこと無いですし、
まして体感型のVRゲームなんて触った事すらありません。
その割にえらくリアルな夢を見たもので驚いてます。』
「しかもご丁寧にチュートリアルなんですねぇ…
脳波の動きは、そのゲームをプレイしているのと
同じ状況だったと考えると納得の行くものではありますが、
それが夢の中というのはにわかには信じがたいですね…
ちなみにゲームの名前は分かるんですか?」
『えーと…たしかダンシングウェポンとか、
そんな感じだったと思います。』
「調べてみましょうか。」
『えっ!?』
夢の中のことだと思い込んでいて、実在するのか調べようなんて考えてもいなかった。
スマートフォンを取りだして調べようとして、ふと高山医師に目を送る。
「ああ、ここなら脳波のモニタ程度ですし、
携帯電話を扱っても大丈夫ですよ。」
タイトルをしっかりと思い出せないから、なんと検索したものか。
[VR][MMORPG][Weapon]あたりでひとまず検索してみると、
案の定ものすごい数のゲームが見つかった。
『さすがにこんな大雑把な検索じゃ見つけきれな』
Dance with The Weapon 公式サイト
『…あった。ありました。』
「えっ、あったんですか?」
『ええ…このタイトルだと思います。』
「Dance with The Weapon…
確かにさっき言われていた名前に似てますね。」
公式サイトを開いてみる。
「もう1年以上前に始まってるみたいですねぇ。
本当に以前にプレイした事は無いんですか?
忘れていたのが蘇ってきたということは?」
『いえ、間違いなくプレイした事は無いです。
そもそもゲーム機は持ってないですし、
パソコンでプレイするにしても、
ここに書かれているVR用のセンサー類を持っていません。』
「そうですか…ですが気になりますね。
また同じ夢を見るようであれば、ご連絡下さい。
本格的に検査をしてみましょう。」
『そうですね。その時にはご連絡します。』
その後リハビリをこなし、家に帰りついた。
特に意識を失うようなこともなく、夜もいつも通りの睡眠だったがゲームの夢を見ることもなかった。
一体なんだったんだろう。
何事も無く過ごし、1週間後。2度目のリハビリに向かう。
遊歩道を行こうかと思ったが、先週のことを思い出しなんとなく避ける。
人の流れを避けながら大通り沿いをゆっくりと進み、病院に辿りついた。
受付を済ませ、ロビーのソファーに腰を下ろす。
ふーっ…やはり無理に歩くと痛みがある。
目を閉じて深呼吸し
「おかえりなさい!
さぁ、いよいよ Dance with The Weapon の世界での冒険が始まりますよ!」
『…は?』
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