第八話:知事殿下
同日(多分十時過ぎ)
勅書の件からしばらくして……鎮圧の準備を終えた
「では、出撃して参ります!」と
当然、その大広間の上段の間には――
そのすぐ近くには摂政の
ちなみに
その
それほどまでに京賀国は人件費を節約して、軍資金を捻出していたのである……。
これから戦に向かおうとする
「宰相殿下。重ねて……“鎮圧”戦に時間を掛けてはならんぞ!」と注意事項を述べる。
「はい、時間を掛ければ我らの
忌々しげな目で断言する月清。完全に宗主国である『佞邪国』を目の仇にしている。
この理由は後々に明らかになる故に、一旦置いておく。
少なくとも現時点では、月清のみならず。
京賀の君主である陽玄や同じく貴狼を含む京賀国の首脳部一同。
そして鋒陰を含む京賀国の民一同までもが、佞邪国の首脳部に好印象を抱いていないことを――覚えておくに越したことはないだろう。
「左様! 一度奪われでもしたら二度と戻ってくることはないと思ったほうがいい。
万が一に取り返せるとしても、先々の返還交渉はかなり面倒なことになろう……。
だが焦ってはいかん! 少なくとも、焦る必要はない……!
焦らずに
必ずや我らが練ってきたの計画の通り、賊共を鎮圧できる!
さすれば、民や
故に宰相殿下、余分な力は抜いておくことだ……」
貴狼が月清にそう
「失礼
その場の全員に聞き覚えのある女性の声が、外から障子を通してこの部屋に響く。
声の主は、直隷(首都圏)を預かる知事にして、月清の妹である『
「これは知事殿下!
「殿下と摂政閣下に――“御伺いすべき”件が御座います!」と返ってくる。
これに
貴狼は時狼に向かって、大きく手を開いてみせる。この合図は「待たせろ!」である。
そして、「しばし待たれよ!」という時狼の声が聞こえる中、貴狼は――
「宰相殿下、
これに続いて、陽玄も「叔父上、最後まで見送れずに――申し訳ない……」と月清に残念そうな顔を見せる。
今の彼の頭には、万が一でも月清が“帰ってこない”
それを見透かしているのかは定かではないが、月清は
「そのことで、殿下が御気になさる必要は御座いません!
こうして殿下と言葉を交わせるだけでも……
では、これにて――」と優しく声をかけると、笑顔のまま部屋を後にする。
紫狼の「ご武運を……」と声が聞こえる中、月清は外の廊下へ続く障子を開けた。
「兄上……」
そこにはもちろん、彼の妹にして、京賀国の『直隷(首都近辺)知事』である月華の姿が。
彼女は氏が『
齢十五歳にして既婚者で子供もいる。この世界の高貴な女性としては早い
兄の月清と同じく、ウェーブのかかった銀長髪の美少女である。
また気品があり、スタイルも良く、物静かそうな見た目の雰囲気の持ち主でもある。
無論、月清が兄ということは、彼女は陽玄の父方の
「行って参るぞ、月華……!」と出撃の挨拶をする月清。
そんな
これに
すると急に顔を強張らせて――
「その件は分かった。では、留守の件も頼んだぞ!」と月華に告げるや、足早に出撃!
この
「安心して行ってらっしゃいませ、兄上!」と挨拶を送った。
この直後に貴狼が、月華に向かって直接「どうしたのだ、知事殿下?」と訊いてきた。
「はっ!
この畏まった月華の返答を聞いて、今度は鋒陰が――
「ひょっとしてその『一家』って……両親と子供達を合わせて、全員で四人程度ではないか?」と彼女に訊いてみた。完全に心当たりがある者の訊き方である。
すると当の彼女から「何故そのことを……!」という驚きの声が漏れた。
「それと、その『子供達』って、
再度の鋒陰の問いに、彼女は「言われてみれば、確かに……」と心当たりがある素振りを見せて、「それに『息子の母』と名乗る者が貴殿(鋒陰)に似ていた……」と続けた。
「十中八九――お前の家族だな! その『一家』とやら……!」
これら一連のやり取りを見た貴狼が、鋒陰に向かってこのように直言してみた。
すると当の直言された
それから程なくして、
そして、
とはいえ、この時点では誰もそのような
当然、
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