第3話 迫る死
颯斗が淡い光を放つ光玉へ手を伸ばす。指先が光玉に触れた瞬間、光が颯斗を包み込む。その光は無数の光の糸になり颯斗が今、装備している装備品に吸い込まれるように消えていく。全ての光の糸が吸い込まれると颯斗を包み込んでいた光は消えていく。
見た目こそ大きな変化はないものの颯斗から感じる力と風格は先程までと比べものにならないほどに変化していた。それを間近で感じるレイス達は創造主の覚醒を目の当たりにしたと思い歓喜に身を震わせている。
覚醒ではないことは当の本人が一番知っているのだが身に着けている武具から感じる力の波動はこれまで感じたことがない程に強く颯斗自身ですらその変化に驚き言葉を失っている。その時、レイスが満面の笑みを浮かべながら颯斗に話しかけてきた。
「颯斗様。ついに覚醒なされたのですね?」
颯斗はレイスの声に無言で頷く。
「次は皆の番だ。光玉に触れ己が魂と力を俺に示せ!」
プログラムだとしても創造主だと信じる人の前での言動はメリハリをつけた方が良いだろうと颯斗は考え思いつく限り創造主と呼ばれるものが言いそうな言葉を言ってみた。悠奈のようにプレイヤー仲間ならば言葉を選ぶ必要もないのだろうが創造主設定なら設定通り進めるのも楽しいかもしれない。
(悠奈が見たら驚くぞ。ここがユリウスなら明日には復旧してログアウトできるだろうし)
颯斗の言葉を聞き九人は光玉に手を伸ばすと九人も颯斗同様に光に包まれる。光の中に居た時間は二、三分の出来事のように感じた颯斗だったが実際には三十秒程の出来事だったようで次々に光玉は消えていき武器を手にした九人が姿を現す。
鉄斎から仲間に渡す武器について何も聞かされていなかっただけ九人全員が武器を手にできないのではないかと思っていたが颯斗の装備と違いスキルレベルに関係なく誰でも持てるようにしてくれたのだとホッとした颯斗だったがレイスの話を聞き驚く。
「颯斗様のお言葉通りでした。まさか武器に品定めされようとは思いませんでしたが使用者だと認められ安堵しております。この竜剣ドラフォルシアと共に颯斗様にさらなる忠誠を誓います」
レイスが手にした武器は竜剣ドラフォルシアという剣で鞘には姿形が違う数頭のドラゴンの彫刻が施されている。剣は鞘から抜かれていないが颯斗が持つ剣に匹敵するほどに強い力の波動を放っている。レイスのドラフォルシアだけではなく九人それぞれが手にした武器からも同様の力の波動を感じる。これだけの武器を目の当たりにしては誰でも使いこなせるという考えが間違いだと気がつく。鉄斎以外のクリエイターなら違う状況だったのかもしれないが鉄斎の創る武器や防具は強力なほど何かしらの条件を満たさなければいけなかった。レイス達が手にした武器もフォーススキルを使用し創られた武器ならば使用者に必要な最低限の条件はフォーススキルが使えるということになる。
(あの変人、またとんでもない武器創りやがったな)
心の中でそうつぶやきながらも国を護る力を与えてくれたことに感謝した。引退してなければ礼の一つも言えたのだろうが今となってはそれすら叶わない。それに今やるべき事は情報収集が最優先事項になる。ここが何処なのか。ゲームなのか現実なのか。どれも確定要素がなく推測の域を出ない。だからと言って籠城も得策ではないだろう。
「皆も知っての通りリュセルフ城は本来あるべき場所から何らかの理由により転移したと考えられるが再転移の可能性はないだろう。だが周囲には国が必ず存在する。それが友好的であるなら良いが敵対国と考えるほうが自然だ。これより城の警戒レベルを維持したまま近隣の情報収集を行う必要がある。何か考えがある者は居るか?」
「それでしたらリュセルフ城の西に人が住んでいると思われる集落がありましたわ。そこで何か情報を得ることができるかもしれません」
話しかけてきたのはサティナ・ファルス。背中に純白と漆黒の羽を持つ天使族の女性で見るからに清楚で聖女と呼ばれていそうな感じがする容姿をしており受け取った武器は見たところ手にしておらず光魔法を得意とすることから魔道具のような武器だったのかもしれない。
「でサティナはどうするべきだと考える?」
「私が集落へ向かい情報収集してまいりましょう。友好的なら仕方ないですが敵対者なら・・・」
敵対者ならどうするのか聞き取れなかったが寂しげな表情と言うより嬉しそうな笑みを浮かべている。
「未知の領域でもある場所に一人で行かせることはできない。調べたいことがあるので俺も行く。他の者はリュセルフ城にて待機。ただし不測の事態が起きた場合に限り命令を破棄しレイスの指示に従い行動せよ。サティナは一時間後に準備を整え玉座の間へ」
「はっ」
レイスを残し他の八人は次々と転移していく。時間を作り一人一人と話をしたいと思っているが多くの情報を迅速に集めなければいけない。それは颯斗一人の問題ではなくレイス達NPCにも重要な問題になるからだ。仮にこの世界がゲームでないのならNPCは単なるプログラムではなく種族が違うだけの同じ命を持つ者になる。
「俺とサティナが城を出たら警戒レベルを最大に引き上げ誰も城内へ入れるな。俺やサティナだったとしても絶対に入れるな。三十分おきに連絡を入れるが時間にズレがあれば会敵や戦闘状態にあると考え行動してくれ」
「承知しました。しかしそこまで徹底されるのには何か理由があるのですか?付近に強い魔力は感じられませんが」
「特に理由はないが悪い予感がしてならない。気のせいなら良いんだが」
「サティナが一緒ならば問題はないでしょうしサーチの有効範囲内ですので問題が発生すれば直ちに対処可能です」
レイスの言葉に表情こそ変えずにいられたが内心は動揺していた。颯斗のサーチによる有効範囲は寝室で確認したときリュセルフ城内だけだったのに対しレイスの有効範囲は集落の辺りまでカバーできるらしいのだ。セカンドスキルからは固有スキルと言われ同じスキルでも効果に違いがあるなど全く同じではない。颯斗の数倍の有効範囲があることは敵なら脅威だが味方なら心強い。
「かなりの有効範囲じゃないか?」
「私など颯斗様に比べれば子供の遊び程度」
本心から言っているのだろうが颯斗より有効範囲が広いのは間違いない。サーチはセカンドスキルとして覚えた索敵スキルだが他のスキルと違い成長に合わせ効果の上昇がみられなかった数少ないスキルの一つでサードスキルやフォーススキル覚醒後にも試してみたが有効範囲に変化はなかった。サーチによる索敵能力だけならば颯斗より優れたプレイヤーも存在していたのでNPCではなくプレイヤーなら驚かなかったのかもしれないが颯斗の能力値の約七割ほどを受け継ぐなら攻撃スキルでないことを考慮しても同等の範囲になると考えていただけに三倍ほどの範囲となると通常では考えられないのだ。
転移スキルやレイスのサーチの様に攻撃用スキルや回復、特殊系スキルに変化が起きていることは確実だろう。全てを短時間で把握するのは無理があるが幾つかでも把握できれば今後の展開を有利に進められる。集落へと出発する時刻までは多少時間がある。部屋に戻り幾つか試しておこうと考えていると颯斗に突然コールによる呼びかけがあった。
「助けて。颯斗君。お願い繋がって」
その声から悠奈だとすぐに分かった。
「悠奈なのか?何があった?」
「颯斗君なの?」
息を切らし涙声で繋がった安堵からかずっと泣いていて状況がいまいち把握できない。
「今どこに居るんだ?助けるって何があった?」
「お姉ちゃんとログインしたら運営さんからメール来てて。颯斗君の所に行きたいってお願いしたら知らない森の中に居たの。そしたら魔物に襲われて回復薬もなくなるし」
颯斗は仲間が欲しいと願いレイス達と今がある。悠奈の願いは颯斗に会うことなら近くにいるかもしれない。
「レイス索敵範囲を最大にして魔物に襲われている人間が二人いないか確認してくれ」
「【サーチ】 ・・・ 集落の北東に多数の魔物と人間二人を確認しました。人間と魔物は集落の方へ向かっています」
近いと言っても助けに行くまで時間は必要になる。転移スキルは使えなくないが行ったことがある場所という条件が付く。
「すぐに助けに行く。そこから城は見えるか?」
「森の中だからお城は見えないけど集落があるってお姉ちゃんが言ってる」
「集落へ向かってくれ。俺も集落へ向かうから」
悠奈の姉が持つスキルによるものなのか分からないが集落の場所を知っていた事やリュセルフ城に近くレイスの索敵範囲内だったことは幸運だった。集落の人達を巻き込むことに罪悪感を感じる颯斗だが悠奈を助ける為なら仕方ないゲームなんだからと思う気持ちが罪悪感を凌駕している。
「あらぁ。何かあったのかしら?」
準備が整ったのかサティナが玉座の間に転移してきた。颯斗の様子を見て何か起こったことを悟ったのか、おっとりした話口調でレイスに話しかける。
「颯斗様の知人が集落付近で魔物に追われているのです」
「でしたら助けに行かないといけませんわね」
「そうですね。情報収集も兼ねていましたしサティナの翼ならすぐ着くでしょうから。颯斗様はサティナと集落へお向かいください。後の事は手筈通り進めておきますので」
レイスに促されサティナと集落に向かうことにするが颯斗は飛翔スキルを持っていない。馬車のような乗り物では到底間に合わない。ユリウスではワイバーンやドラゴン種を移動に使う者も少数だが存在したがテイマーというスキルが必要になる。何か移動手段を用意するようにレイスに話そうするとサティナが顔を赤らめながら颯斗に話しかけてきた。
「あの・・・ 集落までの移動は私が・・・」
身体をくねらせたり翼で体を覆ったりとモジモジしながら話してくる。声が徐々に小さくなっていき聞き取れないところもあるが移動はサティナに任せてほしいと言いたいのだろう。
「サティナ集落に一刻も早く行きたいんだが頼めるか?」
颯斗の言葉を聞き頬を赤らめ少し震えたような素振りを見せたがすぐに跪く。
「仰せのままに」
サティナは立ち上がると純白の翼と漆黒の翼を広げると颯斗の背中に体を密着させてきた。颯斗でも背中に伝わる柔らかな感触が何なのか想像できる。動揺して言葉が出ない颯斗の耳元にサティナの息がかかる。
「では向かいましょう」
サティナの声がした直後、視線は玉座の間から空中に変わる。飛んだり浮いているのではないことは背中に感じる感触から理解できる。次の瞬間、猛烈な速さで景色が後方へ流れていく。レイスがサティナの翼ならの意味がよく分かる。ワイバーンやドラゴンと比べても圧倒的にサティナの移動速度のほうが速い。集落の北側で木々が倒れ土煙が上がっている場所が見える。
「サティナ。あの土煙に向かってくれ」
「わかりました」
土煙が真下に見え位置で静止し悠奈達を探す。北側から集落方向に木々が倒れされており魔物の雄叫びが聞こえてくる。突然集落の方向から爆発音し白煙が立ち上る。白煙の上空から見下ろすと数人の村人らしき人と悠奈、もう一人も初期装備の布の服を着ていることから悠奈の姉さんだと推測できる。熟練者だと思っていたが悠奈と同じ初心者なのには驚いたが配信停止直前にユリウスを始めるのだから知らなくて当然と言えるのだが集落の位置を知っていた。初心者なら知るはずのないこの場所の事をどこで知ったのか。気になりはするが今は悠奈や集落の人を助けるのが先決だ。
集落へと続く林道に人が集まっているのが見える。人々はそれぞれに剣や槍などを持ち土煙が上がる方向に視線を送っている。その十人程の人達は武器こそ持っているが戦士や冒険者のような鎧や防具の類を装備していない。集落に住む人達の中で戦える者が集まり迎え撃とうとしているのかもしれない。
「颯斗様。集落の者らしき人間のすぐ近く北側にある大樹をご覧ください」
サティナに言われた北側にある大樹を見てみると悠奈達の目の前に魔物達が迫っているのが見えた。大木の裏側に身を隠しているが見つかるのも時間の問題だろう。そこへ巨大な戦斧を持つオークがゆっくりと大樹に向かって歩いていく。
「臭うぜ! 人間のじがも若い女の臭いだ!」
涎を垂らしながら歩く姿は完全なる捕食者と言わんばかりだ。知性もあるのだろうがオークはハイオークと違い知性は低く肉ならば動物であろうと人間だろうと同族であっても腹が減れば食べる魔物と言われている。
「早く村に行かなくちゃ。村に行けば颯斗君が助けに来てくれる。お姉ちゃんだけでも逃げて」
「悠奈を置いて行けないよ!ここに隠れていてもすぐに見つかる。全力で逃げれば何とかなるから」
悠奈達が隠れている大樹は集落の北側にあり集まっていた人達にも近く隙を見て走れば集まっている人達の所までなら行けなくはない距離なのだが初めて遭遇する魔物に恐怖が勝ってしまい悠奈達の動きを鈍らせている。その時、どこからともなく囁くような声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん達、大丈夫?」
子供の声でどこからともなく聞こえてくる。辺りを見ても見えるのは悠奈達を肉としか見ていないオークと大樹、村へ続いていると思われる道と木々。人の姿は全く見えない。
「ここだよ!ここ!!」
声のする方を目を凝らしてみてみると草むらに人の目が四つ見える。
「お兄ちゃん。やっと気がついてくれた」
「俺が作ったアイテムが凄過ぎたんだな」
草むらには全身に木の枝や草をつけた男の子と女の子の姿があった。草むらに溶け込んでいて人の目を欺くには十分かもしれないが魔物やオークの様に鼻が利く魔物には意味をなさないのは初心者の悠奈ですら知っている。
「何をしてるの? ここは危険だから早く逃げて!」
「お姉さん達を見捨てて逃げたんじゃ父ちゃんに叱られちゃうよ。それに父ちゃん達も近くに来てるし村を護る四大樹は魔物から村を守ってくれてるから安心なんだぜ」
そんな会話をしていると突然何かが弾けるような音が悠奈達のすぐそばから聞こえてた。音の方を見てみると空間に亀裂のようなものが見える。
「ぜっかく柔らかい子供の肉も食えると思っだのに。なでだぁ」
「バカオークなんかじゃここから先には行けないもんね」
草むらに隠れていた少年が飛び出してきたが体は震えておりオークに見つかったことが怖かったのだろう。勇気を出して飛び出たまでは良かったのだがオークを馬鹿にした言い方が更なる恐怖を生むことになる。
「おではバガじゃねぇ!!」
雄叫びと共に振り上げた戦斧が振り下ろさせるたび先程の亀裂が確実に大きく広がっていく。
「結界が破られる。早く村の人に教えた方が良さそうよ」
姉の言葉に頷くしかない悠奈は怯えている兄妹の手をそっと握ると優しく話しかける。
「結界が破られそうみたいなの! 早く皆に伝えないと大変なことになっちゃう。私の友達も助けに向かってる。とっても強いお父さんと私の友達がいればきっと大丈夫だよ」
「お兄ちゃん。お姉さんの言うとおりだよ。早く皆に伝えようよ」
「今そうしようと思ってたんだ!」
少年は道を走り始めた。少女と悠奈達もその後に続いて走る。一分程走ったところで大樹の方向からガラスが割れるような音と怒り狂ったような雄叫びが聞こえてきた。それと同じくして十人程の武器を持つ大人達と出会った。少年達が一目散に駆け寄っていった男の人は筋肉質で両手持ちの剣を手にしている。先程の音や叫び声から結界が破られたことは知っているようで全員に余裕がなくなっている。
「お前達何故こんな所にいる?皆と隠れていろと言っただろう!」
「四大樹の加護があるから大丈夫だと思ったんだ。でもお姉さん達を助けたんだ」
兄妹の父親と思われる人が悠奈達に近寄り話しかけてきたがその表情は険しい。
「旅の人か?知っての通り自己紹介すら時間もないし魔物も目と鼻の先だ。悪いが守ってやる余裕がない。だからお願いがある。このことを村に伝えて妻や子供達と一緒に逃げてくれ。時間は俺たちが」
そう言うと兄弟の父親は悠奈を兄妹たちの方へ突き飛ばす。突き飛ばされた悠奈が起き上がり父親の方を見ると狼に似た魔物ウォーウルフの牙を剣で受け止めていた。本来なら森の奥に住んでいて群れで狩りをする。魔物の肉を食べることで力を増すと言われており人間を食料どころか魔物を呼ぶ生きたエサぐらいにしか思っていない。それがどういう訳かオークと人間を襲っている。
「早くいけぇ!」
兄妹は涙を流しているが声は出さずじっと父親の姿を見ている。これが最後になるかもしれないと知っているかのように目に焼き付けているようにも感じる。そんな兄妹に狼にウォーウルフが飛び掛かるのを見て悠奈は無意識に体が動きウォーウルフの側面に体当たりをした。武器を持っていない悠奈にとって最初で最後の攻撃だったがウォーウルフにダメージは与えられていない。
「今のうちに早く」
そう悠奈が言うと同時にウォーウルフは悠奈に飛び掛かる。一瞬見せた隙を見逃さずその牙は真直ぐ悠奈の首元へ向かう。一瞬の出来事で体が硬直したように動かずゆっくりと口を開きむき出しになった牙が向かってくのをただ見ることしかできなかった。
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