第2話 NPC


 部屋に戻る際、颯斗自身の姿が扉窓に一瞬映り込み視界から消えていく。部屋に一歩踏み入ったところで足が動きを止める。ログアウト出来ない現状をシステムの不具合等と何かに理由をつけ先延ばしにしていた可能性の答えになり得るだけに視線を再度扉窓へ移す事への恐怖と戸惑いが身体を硬直させる。記憶が正しければ扉窓に映し出された自身の姿は長年見慣れた姿。ユリウスに初めてダイブした時に悩みに悩んで作成したアバターではなく現実世界での颯斗本来の姿。


 ユリウスへダイブする時、初回を含め身体のスキャニングは行われず自身のデータも一切必要とせず必要なのはプレイする意思だけ。扉窓に映りこんだ自身の姿は本来なら有り得ない。プレイヤーデータを何らかの方法で収集した可能性もなくは無いのだが限りなくゼロに近い。


 颯斗は映り込む姿が何を意味しているのか薄ら理解している。無理矢理にでも理解する事が現時点での最善だという考えに辿り着いたからだ。ゆっくりと視線を扉窓へ移す。願望は儚く散り現実と視線が重なる。そこに映る自分自身は悲観し絶望した表情でもなく何処か楽しげで力強い目で見つめていた。


 現実世界には家族や友人が居て颯斗が居なくなれば悲しむだろうと思う反面、未知の世界への興味や探究心に似た感情も少なからず存在する。そんな感情が颯斗を飲み込むのに時間は掛からなかった。その最大の要因は自身の内にある力をはっきりと感じるからに他ならない。ユリウスで努力し積み上げた力や技が失われていない事が颯斗の支えになっていた。現実世界の颯斗のまま同じ境遇に置かれたなら絶望に支配されていたかもしれない。


 部屋に戻りベッドに腰掛け状況を整理すると辿り着く二つの重要な疑問。この世界がゲームなのか現実なのかという事。ゲームであるなら異変に気がついた両親が強制ログアウトするだろう。だが現実ならログアウト出来ない可能性が高く信じ難いが異世界転移という可能性が現実味を帯びてくる。だがどちらの可能性も確定要素がない以上、迂闊な行動は避けるべきだろう。


「死なない事が最優先だな」


 ユリウスではHPがゼロになると拠点へ転送される。若干ステータス値は減少するものの死ぬ事はないがこの世界が現実なら死ねば生き返らない。死ねばログアウト出来るかもしれないがリスクの高い賭けに他ならない。颯斗は深い溜息を吐きだすと決意に満ちた表情で扉窓の向こう側から登りゆく太陽を見つめる。


 颯斗が生き残る為に幾つか必ず確認しなければならない事がある。最も重要な事が使用可能スキルの把握だろう。使用可能であったとしてもユリウスの時と効果が違うことも考えられる。今現在装備している武器や防具は無く美しく肌触りの良いパジャマを着ている。ベッド周りを見渡してみたが武器や防具の類は見当たらない。セカンドスキル【収納】で武器やアイテムを保管してあるがスキルが使えなければパジャマが唯一の装備になってしまう。武器が枕で装備パジャマという状況を思い浮かべ苦笑いしつつセカンドスキル(収納)を発動させる。


【ストレージ】


 その言葉は自然に颯斗の口を動かし発された。長年使っていたスキルだけに言い間違える筈はないのだが発した言葉は収納ではなくストレージ。目の前の空間には取り出す為の穴が開いていて手を入れ取り出したい武具やアイテムを思い浮かべると取り出す事ができた。


 収納という言葉でスキルが発動しないか試してみたがスキルは発動せずアイテムの出し入れを行う為にスキルを使おうとすると必ず【ストレージ】と言ってしまう。


 ユリウスとではスキル名称こそ違うが効果は変わっていない。取り出した武具は淡い光を放ち鉄斎から受け取った時と同じ様に凄まじい力の波動を放っている。


 鉄斎から譲り受けたマジックボックスは仲間が揃った時に開く約束だった事もありストレージにしまったままにしてある。取り出し装備している防具も鉄斎が製作した作品なだけに見た目は軽装だが高い防御力と耐性が付与されているユリウスでも最高クラスの装備品だろう。


 ストレージも正常に機能していることにひとまず安堵する颯斗だったが戦闘用スキルに関しては不安を残してしまう。


 ファーストスキルは試す事ができたが上位スキルを試すには室内は狭く断念するしかなかった。強い魔物と戦闘になればファーストスキルだけで勝てる程甘くない。PVPならば尚の事だろう。


 見知らぬ部屋や現在居る建造物にベランダから見えた地形や村、全てが初めて見る光景。一般的なRPGならば生まれた街や村から旅に出るのだろうが森に囲まれた建造物の一室で目覚めたのだから魔王の城スタートなんて事だって有り得る。


【サーチ】


 颯斗が使ったサーチはセカンドスキルで敵意や殺意を持つ者や魔物、高い力を有する者を直径百メートルの範囲で識別し感知することが出来るのだがサーチ範囲には魔物すら感知出来なかった。ベランダから見えた広大な森ならば魔物が生息していても何ら不思議ではないだろう。今現在、颯斗が居る建造物に敵意を持つ者が居なかったのは戦闘を避ける意味でも幸運だった。


 サーチによる索敵にも反応はなく装備も整え部屋を出る準備が終わる。颯斗にとって部屋を出る事が新たな世界での第一歩になる。初めてユリウスにダイブした日のことを思い出しながら一歩一歩ゆっくりと扉へと向かう。高鳴る胸の鼓動が部屋中に響いてる様に感じる程に部屋の中は静まり返り外から何も聞こえてはこない。サーチは敵対者以外の生物も感知出来るのだが敵対者同様に誰一人として範囲内に存在していなかった。


 時が止まった様な静寂の中を鼓動とブーツが床を蹴る音が徐々に重なり鼓動はゆっくりと颯斗の胸へと帰っていき扉の前に立つと静寂のみが背の向こうに広がっていた。


 扉のノブに手をかけゆっくりと扉を開く。そして颯斗は一歩部屋から足を踏み出す。次の瞬間部屋の中から鳥の囀り(さえずり)に似た音が聞こえきた。部屋の中だけではない。部屋から続く回廊の先からも人の話し声が聞こえてくる。先程までと違い声が聞こえる範囲に誰かが居る。


 部屋を出る前に調べた時には小動物の反応すら無かったが突然現れたかの様に人の声が聞こえてきた。颯斗は再度、サーチで敵対者が居ないか確認してみた。


「マジか」


 敵対者や魔物こそ反応はなかったが百人程の人が範囲内に存在しその内の二十人程は間違いなく強い力を持っている。敵意や殺意がない事が救いだが全員と戦う事になれば負が悪い。


 これこそがソロプレイヤーの欠点とも言える。仲間がいたなら敵戦力を分断する方法も可能なのだろうが。


「仲間が居れば・・・」


 その時この世界に来る前に光の中で体験した事を思い出した。颯斗には間違いなく仲間が存在している。NPCと言っても大切な仲間で全員が颯斗に近い力を有している。アイテムボックスに有る鉄斎に貰い受けた武具を装備させれば切り抜ける事も出来るかもしれない。


 だが肝心のNPC達の姿は見えず呼び出し方も知らない。颯斗は魔法騎士で召喚スキルは会得しておらずNPC達を呼び出す為の必須スキルならお手上げだろう。


 セカンドスキルに【コール】という連絡スキルがあるが繋がる事はないだろう。ユリウスではコール使用者と使用許可した相手とのみ会話可能で颯斗が連絡出来るのは鉄斎と悠奈の二人だけだった。引退すると話していた鉄斎がこの世界に来ている可能性は少なくログアウトしているのなら連絡の取りようがない。悠奈に関しては強力な武器を渡したとしても使いこなせないだろうしスキルもファーストすら覚えていないのなら戦闘に加われば間違いなく死んでしまう。ここがユリウスだとしても悠奈を巻き込むわけにはいかない。


 サーチで監視し動きを追っているが颯斗が居る部屋に近づく者は現時点では一人も見受けられない。誰かに気がつかれる前に対策を立てる必要がある。建物内に居る者達の動きは把握出来ると言っても飛翔スキルや隠密スキルを会得していない以上、誰にも見つからず外に出るのは不可能に近く監視されていない事が大前提なだけに楽観的になれない。


 鉄斎に打ってもらった剣を眺めながら幾つか可能性について思案を巡らせるが辿り着く答えは百歩譲ったとしても現実的ではない。それでも試す必要がある。可能性がどんなに低くても行動しなければゼロのままで新たな道が開ける事は永遠に無い。


【コール】


 鉄斎へ呼びかけるも反応は全くない。不思議と応答がある様な気がしていた自分が滑稽に感じる。ソロプレイヤーの限界、仲間の大切さを今更の様に噛み締めても過ぎた時間は戻せない。メニューウィンドが表示されないのでメールを送ることもできない。


「誰でも良いから返事してくれ」


 自然に呟いた言葉は願望。心の声だったのかもしれない。弱々しく発した言葉に応えるものなど存在しなかった。


 本来ならば。


「颯斗様。お目覚めになられたのですね」


 その声は聞き覚えが全く無い。声から男だと分かるが鉄斎の声とはまるで違う若い男の声。ユリウスで知り合いと呼べる男性プレイヤーは鉄斎のみで他のプレイヤーとの接点はまるで無い。


 コールで連絡出来たのなら敵では無い。近くに居るのなら協力できないか話をしようとした次の瞬間、名前等の記憶、情報とも言える何かが頭の中を駆け巡り心へ染みて行く。


「レ・・・イスか? 他の者はどうしている?」


「現在、私を含め九名王座の間に。他の者は城の警備に当たらせております」


 先程まで未知の建造物で目覚め脱出する方法を必死で考えソロプレイヤーの限界かなどと感傷に浸っていたのが恥ずかしくなってくる。颯斗は現在居る場所もコールで話している相手も知っていた。頭の中を駆け巡った情報が与えた変化なのは想像出来る。今話しているレイス・フォルスターはNPCの一人でNPC達の統括する立場にある。


「玉座の間へ向かう。レイス達はそのまま待機していてくれ」


「畏まりました」


 話が終わるとサーチのスキルを発動する。それまでと違い構造物全体が表示されているだけではなく、ここが何処で誰が何処に居るのか手に取るように分かる様になっている。レイス達や居城でもあるこのリュセルフ城の情報を得た事で把握できる様になった可能性が高い。颯斗がそう推測するには理由がある。


 城内の情報以外が全く分からない。バルコニーから見えた村の名前や国、どんな種族が住んでいるのか。今回と同様に外に出れば情報が頭の中に流れ込んでくるかもしれないがリュセルフ城が居城でレイス達が仲間だから知る事が出来たと考える方が自然だろう。


 後付けの記憶だが颯斗に害をなす者は一人たりといないと断言できる。それも今現在の話で今後、敵対勢力が現れれば話は変わるだろうしゲームだとしても現実だったとしても全て友好的など悲しいが有り得ないからだ。


 颯斗は寝室を後にすると玉座の間へ向かう。廊下は幅二メートル程あり正方形にカットされた大理石に似た石が埋め込まれ奥まで続いている。壁や柱には様々な装飾がされていて美しく廊下を歩くだけで海外の王宮のようで圧倒されそうになる。ただサーチで映し出された大勢の人達とは一人として遭遇することはなく話し声すら聞こえてこない。


 幾つかの角を曲がると巨大な鉄扉と二頭のドラゴンの姿が見えてきた。ドラゴンは巨大な鉄扉と同じくらいの大きさで一頭は炎の様な紅色の体と赤い目をしたファイス、もう一頭は水色の体に蒼い目をしたウォルス。ユリウスにも知性があり人の言葉を話すドラゴンは存在したが高レベルダンジョンの最下層のレイドボスなどで颯斗自身も二回だけしか遭遇していないのだが当然の様に二頭の名前を知っている。見た目こそ巨大で威圧感があり最強種と言われるに相応しい姿をしているのだが颯斗には家の前で主人の帰りを待つ愛犬に見えてしまう。


「颯斗様。お待ちしておりました。お通り下さい」


 二頭のドラゴンが鉄扉の前から道を開けるように左右に分かれ首を垂れる。ゆっくりと静かに鉄扉は開かれていく。玉座へ向かう通路の中央には赤い絨毯が敷かれていて左右には巨大な石柱が奥まで続いている。


 絨毯の上を通路の奥へ向かい歩いていくとメイド服を着た女性達が左右に分かれ跪き颯斗が通る道を作る様に整列しているのが見える。NPCだと認識していても美しい女性達が出迎えてくれたのだから颯斗としても嬉しいのだが恥ずかしさが勝ってしまい目のやり場に困ってしまう。


 颯斗は彼女どころか女性とまともに話すらした事がないのだから無理もない。本来なら手ぐらい振った方が良いのだろうが颯斗にそんな余裕など少しも存在していない。ただ正面を向き歩くという一点にだけ集中している。


 その女性達を過ぎると金色のフルプレートメイルに身を包んだ兵士達が女性達と同じ様に左右に分かれ道を作っている。その兵士達の背後にはドラゴンや妖精、獣人やエルフといったゲームでは見慣れた種族が跪き頭を垂れている。そして玉座へと視線を移すと跪く九人の姿が目に入る。その九人から感じる力はその他の魔物達と明らかに違っていた。


 颯斗は相手の強さが分かるスキルなど持っていないのだが、その九人の力は不思議と感じる事ができる。今初めて会うにも関わらずこのリュセルフ城内に居る全ての者から感じるのは絆に似た感情。その感情に颯斗も違和感を感じるのだが初めて仲間できた事での高揚だと思い違和感を心の奥に閉じ込める。


 跪き頭を垂れる九人の内の一人が颯斗に話しかけてきた。その男はレイス・フォルスターといい宰相の地位を持ち九人の中でも抜きに出た力を持っている。天龍族である為、見た目こそ颯斗より少し年上に見えるが千歳を優に超えているのには驚きを隠せない。長い銀色の髪を肩あたりで纏め瞳は全てを見透かしている様な深いブルー。コールで話した一人目のNPCだ。


「お待ちしておりました。転移スキルで来られると思っていたのですが全ての者が颯斗様の心遣いに感動しております」


 レイスの言葉に実感が全く湧かない。転移スキルが使用可能な事すら知らず感動と言われても歩いて玉座の間へ来たこと以外に心当たりがない。そのままレイスに促され玉座に座り辺りを見渡す。


 颯斗が昔、テレビ番組で見た熱狂的なアイドルのファンが姿を目にしただけで涙し倒れる人達。今まさに目の前に広がるのは同様の光景。倒れる者こそ居ないが全員涙を流している。


「皆へ御言葉を」


 レイスの発言を機に玉座の間に静寂が訪れる。


(いやいや。いきなり話振られても何も思いつかないし無茶振り過ぎるだろ!)


 何か話さなければ今の状況が変わる事がないのだが言葉が何も浮かんでこない。大勢の前で話す事が得意ではなかった颯斗にとって今の現状は正に生き地獄と言っても過言では無い。


 だがそんな生き地獄は突然終わりを迎えることになる。


「颯斗様は目覚めらて間も無く本来ならば謁見すら叶わぬ状態。だが我々を安堵させるべく御姿を現されたのだ。完全覚醒に至れば御言葉も頂戴できよう」


 レイスの機転とも勘違いともとれる発言により皆納得したようで口々に感謝の言葉を颯斗に投げかけている。若干心苦しさを感じるものの切り抜けた感が勝る。


 九人のNPCを残し他の者はレイスの転移スキルにより玉座の間から一人、また一人と姿が消えていく。九人以外の転移が終わると九人の中で最も幼く見える少女がレイスに話しかけてる。


「ねぇ。颯斗様はいつ完全覚醒するのかな?」


 その少女の名はルーナ・ヴォルク。茶色の髪にエメラルドグリーンの目、見た感じ十二、三才と言った所だろうか。


「ルーナって本当に鈍いんだから!」


 レイスとルーナの話に割り込んできたのはルーナの姉、ソレイユ・ヴォルクだった。顔は瓜二つ、髪の色こそ同じだが腰の辺りまで伸びており目はブルー。性格は真逆のようで大人しい妹と強気な姉といった構図が見て取れる。


 そのやり取りを呆れた表情で眺めるレイス。深い溜息を吐きソレイユとルーナに話しかける。


「ソレイユやルーナに限らずこの場に残った者は今も感じる筈です。創造主たる颯斗様から受け継いだ力と絆を」


 颯斗を創造主だと話すレイス達NPCの会話に驚愕するも未覚醒という話の流れから会話に入ることすら出来ずにいる。聞いた説明通りなら颯斗の七割ほどをここにいる九人は有している事になるが種族等も違う九人にどう受け継いだのか単純な能力値だけでは判断し辛い。


「あぁ。俺は凄え力を感じるぜ。身体の中から溢れてくるみたいだ」


 レイスに話しかけて来たのは颯斗と同じ歳ぐらいの少年で銀色の髪と犬に似た耳と尻尾がある。不思議な事にレイス達の名前は知っていたのだが少年の名前が全く思い出せない。情報が抜け落ちたのか理由は定かでないのだが他者と同様に強い絆を感じる。その事からも颯斗の力を受け継いだのは間違いない。


 名前は思い出せないが少年の尻尾には見覚えがあった。颯斗が家で飼っている犬の尻尾によく似ている。可愛がっていただけに会えないのは寂しくもある。


「カイ」


 無意識、癒しの対象だった愛犬を思い出した事での気の緩み。颯斗にはたかが一声だが九人にしてみれば大きく待ちわびた一声。一斉に九人の視線が颯斗へ向かう。


 話に入るタイミングを失っていた颯斗だけに失敗というより好機。玉座に座り話さず身動きも取れず居るのにも限界が来ていただけにレイスにまだ未覚醒だと言われる前に話さなければと慌てて話を始める。


「カイ。お前はいつも元気だな!」


 颯斗は今、確かに少年をカイと呼んだ。先程まで名前が思い出せなかったが今は知っている。少年の名はカイ・シュベルザー。


 この世界に来て現実だと思う事もあればユリウスの様なゲームに似た現象も起きている。カイの名前も名付けイベントだと思えば辻褄が合うのだがゲームだと言い切れない。


「颯斗様!」


 カイは名前を呼ばれ真剣な表情で跪く。颯斗はカイへ視線を向けると本能なのだろうか尻尾が揺れ動いている。


「レイス状況を教えてくれ?」


 颯斗自身も知らない情報が多過ぎる。この世界の事だけではなくリュセルフ城周辺すら分からず早急に調査する必要がある。ユリウスで建国した場合、十日程の猶予期間中は他国から侵攻される心配はないが大ギルドに所属していたり強国の同盟国でない場合、猶予期間終了後に侵攻される。


 颯斗の様な無名のプレイヤーが建国し生き残るには強国との同盟が最も効果的なのだが国としての価値がなければ同盟を締結出来ない場合もある。


「颯斗様の目覚めと同時にリュセルフ城の転移を確認しました。再転移の可能性を考慮し城内の防衛レベルを最大に引き上げ全方位にスキルによる索敵を行っておりますが敵対者、及魔物は確認されておりません」


 目覚めと同時に城が転移したというレイスの話。颯斗が寝室から出た時、大量の情報が頭の中に流れ込み止まった時間が動き出した様に感じた事。点が線になるまで圧倒的に情報が不足している現状では何か一つ判断を誤ると取り返しのつかない事態を招きかねない。


 ただ一つだけ颯斗には確信している事がある。それは知識でもなければ積み重ねた経験でもない。この場所がリュセルフ城のあるべき場所。そして颯斗が育て守る国だと心に刻まれている。颯斗が知る唯一の現実。


「この場所以外への転移は今後発生しないと思う。この世界、この場所から全てが始まる。皆の力を俺に貸して欲しい」


「我々九人を初め国中の者達の力、命、全て颯斗様の為にのみ存在しているのです」


 レイスの言葉に全員が頷いている。プレイヤー同士で国を作るのなら裏切りにも注意しなければならなかっただろう。だが彼らには当てはまらない確かな絆を感じるからだ。ただ洗脳スキルには警戒しなければならないだろう。


「信頼できる仲間か・・・」


 颯斗はポツリと呟く。ソロプレイヤーとして研鑽の日々を過ごしてきたが今この時点をもって終わる。今、見るこの景色や預かっていた武具を仲間達に渡す瞬間を鉄斎に見せたかったと颯斗は心底思った。


「今から俺の仲間が作った最高の武具を渡す。それを持ち国を民を守って欲しい」


 颯斗はストレージから鉄斎の武具が入ったアイテムボックスを取り出す。するとアイテムボックスから九つの光玉が飛び出しレイス達九人の前で眩い光を放ち空中に浮かんでいる。


 更にアイテムボックスから大きな光玉がゆっくりと出てくると颯斗の前で止まり停止した。すると颯斗の剣が淡い光を放つ。共鳴しているかのように他の光も淡い光を放ち始める。


 颯斗は淡い光を放つ光玉の中へ手を入れる。

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