第18話 正直者は誰だ
「まあ、大体みな様は予想はついているだろうけど、試練の間の構造について具体的に説明します。まず部屋に入ってすぐ真正面に真実の口があります。真実の口の中の一番奥にカギがあります。その中に手を突っ込んでカギを取れればクリアです。
真実の口は生き物の反応を検知すると、嘘をついたことがある人間の手を咬みちぎります。この時、ライフが二減るわけですね。ここでプレイヤーキャラが死んだ場合、生存者の元に私がカギを届けます。私は、ぬいぐるみだから生体反応はないので手を突っ込みたい放題なのです。あ、ちなみに試練の間には棒状の道具はないし、そういった
ジャクソンの長ったらしい説明を聞く。みんなの顔色を伺ってみると、みんなはなにやら考え込んでいるようだ。今の説明のどこかに付け入る穴がないかを。ただ、そんな中一人。夢子ちゃんだけはニヤニヤとしていた。
「はいはい。ジャクソンちゃん質問があります」
夢子ちゃんが手を上げた。嘘をつけない状態になっても気軽にしゃべってるこの子が恐ろしい。
「嘘の判定ってどうやってつけるわけ? ねえ、そこのところ教えてよ。こっちはアンタたちの試練に命預けるんだからさ。曖昧な答えじゃなくてハッキリとした基準を示してくれないと困るんだよねー」
確かに、それは重要なことだ。嘘をついているかどうか、運営はどうやって判断するのだろうか。
「おお、いい質問ですねえ。逆にこの質問がでたことで安心しましたよ。みな様が訳のわからないものに命をかけるバカではないとわかったので。よ! 流石はデスゲームの達人。仕様確認は生き残るために大切なことですからな」
「いやー。それほどでもあるかな。なんせ私は相当な数の修羅場を潜ってきているからねー」
なんだろう。この違和感。夢子ちゃんから感じる余裕は一体なんだ。夢子ちゃんの口数がやけに多い。いや、この子が余計なことをべらべら喋るのはいつものことだけど、今回は状況が違う。
自分の発言のなにが嘘認定されるかわからない状態でそんなにべらべら喋れるものなの? 現に夢子ちゃん以外のみんなはさっきに比べて口数が減っている。万一の時のことを考えて、少しでも嘘に引っかかる可能性を減らそうとしているんだ。
「嘘認定は、みな様の脳波を調べています。人間は嘘をつくと脳の波長が若干ブレます。そのブレを見て嘘をついているかどうかを判断しています」
「ほうほう。脳波の測定ですかー。でも、それってたまに誤作動起こすやつじゃない? 嘘を言っていないのに反応してしまう人も中にはいると思うけど」
「みな様のような肝が据わっている人たちが、嘘をついているのに反応させない技術を持つことはあっても、嘘をついていないのに反応させるなんてことはありえないでしょう。そこは信頼してますよ」
夢子ちゃんの疑問に尤もらしい返しをするジャクソン。なんかそれっぽいこと言っているけど、機械の不具合は考えないことにしているのね。なんか不安。
「じゃあ、試しに実験してみましょうか。この中で既に嘘ついている自信がある人ー」
「俺だナ」
加賀美さんが迷わず手を上げた。うわあ。本当に嘘ばっかりツイてそうな人が手を上げた。まあ、この人に任せる気はなかったから別にいいけど。
「みな様お手元のタブレット端末をご確認下さい。そこに画面共有で加賀美さんの脳波を移しています。この波形が大きく揺れたら嘘をついていることになります」
私はタブレット端末を見た。確かに何か波形のようなものが移っている。これが加賀美さんの脳の波形なのか。
「それを踏まえた上で、私のこれからする質問に全ていいえで答えてください」
「いいえ」
「まだ始まってません」
「そりゃ失敬。わかった。いいえって答えればいいんだナ」
「はい。では行きますよ。円周率は3.14159265358979323946264338327950288419716939937514である」
「いいえ」
タブレットには何の動きがない。これは真実を言っているってことなのかな?
「はい。そうですね。違いますね」
「ああ。正解は3.14159265358979323846264338327950288419716939937510だからナ」
なんで正解知ってるの加賀美さん……円周率マニアなの?
「では次の質問です。加賀美 大地は実際の人間が操作しているプレイヤーキャラだ」
「いいえ」
私の持っているタブレットに大きな反応があった。波形が大きく動いている。これは、加賀美さんが嘘をついたってことだ。加賀美さんはプレイヤーキャラだから答えは「はい」にならなければならない。なるほど。ちゃんと正常に作動しているようだ。
「次の質問です。ジャクソン・ラビットはかっこいい」
「いいえ」
脳の波形には穏やかなものになっている。波形が全く動いていない。
「おいこら! なんで波形が動かないんだ!」
「当たり前だろ」
「というわけで、この機械は小数点以下の確率で誤作動を起こしてしまうようです。いやー参った参った」
「いや、起こしてナいぞ」
なにこの茶番……
「まあ、それは置いといて。みな様は肝心な質問をしてませんね。というか、この質問が真っ先にでると思ってましたよ」
肝心な質問? なんだろう。大体の疑問は出尽くしたと思っているけど。
「あれ? もしかして、みな様。自分のスキルをバカ正直に話すつもりでした? 実はこのスキルを明かすに関しても嘘をついていいんですよ。まあ、つけるものならねって感じですけどね」
スキルに関して嘘をついてもいい。それに関しては完全に盲点だった。みんな、後の試練の内容のせいでスキルを正直に話さなきゃいけないという前提でものを考えていたからだ。
でも、それがわかったところで、なんの解決にもならない。だって、部屋に入るためにスキルのことで嘘をついたら真実の口に断罪されてしまうのだから。
なんのための仕様なのかよくわからない。一体このゲームの製作者はなにを考えているんだろう。
「いやー。嘘をついてもいいだナんて。いい情報を得たナ。けひひ」
いい情報なんだ……というか、既に嘘をついた扱いになっている加賀美さんが無駄に饒舌になってる。
「あ、そうだ。質問いいか? カギの材質について訊きたい」
「カギは純度100%の銅製ですね」
「チッ。銅か……」
なんで加賀美さんカギの材質に拘ってるの!? 違いがわかる男なの?
「まあ、必要な情報は出そろいましたかね。では、私はこれで失礼します。この試練を突破できるかは、みな様の誠実性か、はたまたは知恵で突破するのか。それはみな様次第でございます」
そう言い残すとジャクソンは爆発してしまった。でも、ジャクソンは気になることを言っていたな。知恵で突破? もしかして、この試練ってなにか抜け道のようなものがあるのかな?
「さて、この中で確実に嘘をついた経験があると言えば俺だナ。さっきの脳波の実験で嘘ついちまったからナ」
それに関しては同意見だ。加賀美さんが試練の間に言ったら確実にがぶがぶされてしまうだろう。
「だから、俺が議題を進行する。異論はナいナ?」
誰も異議を唱えない。加賀美さんが進行するのは少し不安だけど、ここは彼に任せるしかない。
「まず、確実に嘘をついている奴を除外していく。そいつに挑戦権を与えても無駄にライフが減るだけだからナ。ライフは個人の所有物って考えは捨てろ。みんなの共有財産でもあるんだ」
凄い。加賀美さんが真っ当なこと言っている。確かに全員でゲームクリアを目指すにはライフの管理は重要だ。個人の独断で減らしていいものではない。
「そうだナ。俺の記憶が正しければ、ユリ! お前は嘘つきだ!」
「わ、私!?」
え? 私嘘なんてついていたっけ? 私、完全に正直者でいた気がしたんだけど。
「昨日のことを思い出してみろ。お前は拳銃の部屋で、和泉に迫られた時に自分が犠牲にナると言った。だけど、結果的にお前は犠牲にナっていナい。犠牲にナるつもりもなかっただろ? つまり、これは嘘ってことだ」
「あ……」
言われてみれば確かにそうだ。私は拳銃を持って、犠牲者になると言った。だけど、それは本当に冗談につもりで言ったことだし、でもそれは嘘ってことになるよね。こんな軽いことでも嘘になるなんて。果たしてこの中に本当に正直者はいるの……?
「っつーわけで、ユリ。お前は既に嘘ついてるから失格。喋っていいぞ。嘘つき女」
「なんかその言い方腹が立ちます」
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