第19話 突破方法

「さて、ユリ。お前の考えを聞こう。この試練をどうやって突破するつもりだ?」


「えっと……この試練を突破する方法は三つあると思います。一人は正直者がスキルを暴露した上で挑戦権を得る。そして、もう一つは嘘つきがライフ二つを犠牲にカギを取る。そして、最後はスキルを使ってカギを取る」


 私は自分の考えを述べた。すると加賀美さんがニヤニヤとして私を見ている。なんか薄気味悪い。


「そうだ。結局のところその三つが正解だ。だが、二つ目のライフ二を消費するのは論外だナ。俺たち二人は既にスキルを使用しなければカギを取れない組にナっている。ユリ。お前のスキルでカギは取れそうか?」


 私のスキル。サイコメトリー。触れた物体の記憶を読み取る能力。私の能力は実際に触れないと発動できないし、発動したところで物体の記憶を読み取るだけだ。カギの記憶を読み取ったところで既に嘘をついている私は真実の口に食べられるだけだ。


「答えに詰まっているってことは無理そうだナ」


「そういう加賀美さんはどうなんですか?」


「残念ナがら俺も無理だ」


 だとすると、私たち以外の誰かのスキルを使うか、正直者を探すかの二択だ。私はみんなの方を見回した。神原さんと夢子ちゃんはタブレット端末を弄っている。この二人はなにしているんだろう。特に神原さんは頻繁にタブレット端末を弄っている気がする。この端末ってそんなに使うようなものなのかな? 私が使いこなせてないだけで、なにか特別な機能があるのかな?


「んで、ユリ。お前は二つの選択肢のどちらを取るつもりだ? 正直者がカギを取るのか、スキルでカギを取るのか」


「一番平和的解決方法なのはスキルを使ってカギを取ることだと思います。それなら、全員にスキルの情報を共有する時に嘘をついても構わないわけですし」


「ああ。そうだナ。俺もそう思う。だが、その選択肢を取る奴は今のところいナいナ」


「なんででしょう……スキルでカギを取れるなら早く取った方がいいと思うのに」


「その原因は四つ考えられるな」


 加賀美さんは指を四本立てた。


「一つ。単純にスキルの所有者がバカだから、自分のスキルでカギを取れることに気づいていナい」


「その可能性はなさそうですね。みんなはデスゲーム経験者ですから、気づいているはずです」


「そうとも言い切れナいさ。ユリや真白が該当するスキルを持っていた場合、気づいていナい可能性は十分ある」


「それって私たちをバカにしてますか?」


 加賀美さんは私の発言を受けて、「ケヒヒ」と不気味に笑った。やっぱりバカにしてるんだ。私はともかく、杏子は一応デスゲームで生還した実力者なんだから、あんまりバカにしてあげないで欲しいな。


「二つ。スキルでカギを取れることに取れるが発動条件を満たす方法が考えつかない。もしくは満たせない」


「それってどういうことですか?」


「スキルにはそれぞれ発動するための条件が必要になるだろう。例えば宮下の場合だと、特定の時間になって発動するとかな。この発動条件が重すぎて発動したくてもできない。又は確実に発動できる条件が整っていない可能性がある」


「あ、そうか。宮下さんのスキルみたいに発動するのに時間が関わってくる場合。例えば、一度発動したら一定時間スキルを発動できない。これだと、まだ試練に挑戦できませんからね」


「そういうことだナ。もしくはスキルにとても重いデメリットが架せられているケースも考えられる。そしたら、他人に試練をクリアさせた方が得だってことだ」


「デメリット……宮下さんで言うところのライフは最大で二までしかないってことですね。そのせいで、彼だけライフが二からスタートですし」


「ああ。スキルが有能な分、安易に発動できない調整がされているスキルはあるだろう。宮下の実例があるからナ」


 そうか。私は触るだけで発動できるっていう比較的易しい条件だから気にならなかったけど、使いにくいスキルを割り振られている人も中にはいるんだ。


「三つ。スキルでカギを取れる可能性はあるが確実に取れる確証が持てない」


「どういうことですか? それ」


「俺たちはジャクソンから口頭で得た情報でしか、試練の間のことを想像できナい。例えば、そうだナ。体が丈夫にナってどんナ攻撃でも弾くっていうスキルがあったとしよう。そのスキルを使って真実の口を攻略できるかどうか……その答えはわからナい。ナぜナら、真実の口の審判が攻撃に該当するのかどうか確証がナい」


「言われてみればそうですね。そのスキルが強いのか、真実の口が更にその上を行くのかわからないですから。でも、それってジャクソンに訊けば教えてくれるんじゃないですか?」


「バカだナ。やっぱりお前はバカだ」


 何度もバカって言わないで欲しい。実際、私の大学はFランだけれども。


「ジャクソンは俺たち全員揃っている時にしか現れナい。今のところそうだろう? 全員が見ている前で、無敵状態の時は真実の口に噛まれても平気ですか? って訊けナいだろう。自分のスキルが無敵状態になるものだってバラしているようナものだからナ」


「ああ。確かにそうですね……」


「そして、四つ目だ。俺たちの誰かがスキルを使うのを待っている。そして、スキルの内容を探るつもりナんだ。最適解が一つとは限らねえ。この状況を突破できるスキルを持ってる人間は二人以上いる可能性もある」


「確かに……相手のスキルを知るためには、その人がスキルを使っている瞬間を見るのが一番。でも、それだけのために潜伏するなんてあるんですか?」


「ああ。潜伏するメリットは多いにあるんだ。相手のスキルを予測立てることができるし、自分はスキルバレのリスクはナくナる。正に一石二鳥だ」


「うぅ……なんか段々疑心暗鬼になってきた」


 私は頭を抱えた。ここまでの話はなんとか理解することができたけれど、ここからどう打開すればいいのか全く思いつかない。スキルを使って取れる人がいるならすぐに名乗りでて欲しいけれど。ああ、もう。こういう心理戦みたいなの苦手なんだよ。


「まあ、スキル方面では誰かが名乗り出てくれナい限りは進展しナい。ナら、不毛ナことだ。次は別の切り口で考えてみよう。正直者を立てる方法だ」


「正直者……そうですね。ただ、嘘をついていない自信がある人でも、正直者ルートではスキルを全員に暴露しなくちゃいけない。それが嘘なら当然アウトですね」


「ああ。そうだナ。正直者はスキルも明かさナければナらナい。損ナ役回りだナ。俺は嘘つきで良かった」


 なんか嫌な感じだ。この中の誰を正直者にしても、その人のスキルをバラせって言っているようなものだ。こういうのは指名したくない。


「んじゃ、ユリ。お前、誰が正直者だと思う?」


「なんで私に振るんですか!」


「いやー。俺だと色々と角が立ちそうだけど、お前だと、【まあユリだし仕方ナいナ】。みたいナ空気にナルだろ」


「どういう空気ですかそれ!」


 どうしよう。誰が正直者だろう……みんな黙っているからわからないよ。みんなは少しでも嘘に引っかかる確率を下げたいから黙っているはず。だから、みんなは嘘をついた心当たりがないのかな?


「俺は死神を推す」


 さっきまで黙っていたタクちゃんが急に口を開いた。


「こいつが発した言葉は全部記憶している。ジグソーパズル部屋でピースを見つけた時に放った一言。あった……だけだ。その言葉に偽りはない。後はこいつがスキルを暴露すれば問題なく通過できる」


 タクちゃんはスラスラと言葉を連ねている。すごい。嘘に引っかかるとかそういうのを全く恐れていない。


 確かに死神さんこと氏神さんは、口数が少ない。喋ってないってことは嘘を言っていないってことだから、当然正直者のはずだ。


「悪いけど、私のスキルは公表したくない……他を当たってくれ」


 きっぱり断られたー! やっぱりそうだよね。死神っていうくらいだから、スキルもきっととんでもないもの与えられているよね? 言いたくないよね。


「なぜ言いたくない?」


 タクちゃん! ちょっとズケズケと突っ込みすぎじゃない? 死神に祟られても知らないよ。


「私のスキルを知れば、恐らく争いになる……私はそれを避けたい。それが私の嘘偽りない本心だ」


「そうか……お前のスキルがなんなのかは知らんが、デスゲーム経験数の多いお前が言うんだ。知らない方が得策だろう」


 ほっ……なんとか、無事に収まったみたい。死神さんはスキルの公表が無理そうだから、他を当たらないと。

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