第12話 休憩部屋
扉を開けた先は寛げそうな場所だった。ふかふかそうな大きなソファーに漆黒のテーブルが設置されている。テレビのようなモニターや本棚もあり、キッチンもついている。入り口から向かって前と左右にはそれぞれ扉がついている。
そして部屋の中心には、あの憎きジャクソン・ラビットが鎮座していた。彼? はおせんべいをバリバリと食べながら背中を向けている。
「あにゃ? やあやあみなさまお揃いで。やっとあの扉を開けたんですか? 遅かったですねー」
ジャクソンがこちらに気づき、向き直り喋り始めた。この部屋は一体なんなんだろう。また次の試練が始まるのかな?
「GM。今度は俺たちになにをさせるつもりだ?」
タクちゃんがジャクソンに問いかける。するとジャクソンはニヤリと口角を上げた。
「いえいえ。流石にここまで試練を突破して疲れたでしょう? ここは休憩スペースです。お好きなだけお寛ぎください」
「信用ならねー」
聖武さんが茶髪の頭を掻きながらそう言った。
「まあ信じるも信じないもあなた方の自由です。ただ、人間には集中力の限界というものがあります。緊張感はいつまでも持続するものではありません。それは、VR上で仮想の肉体を持っているあなた達も例外ではありませぬぞ。休める時に休んでおかないと次のゲームで支障がでるでしょう」
「確かにウサギの兄ちゃんの言うことにも一理あるのお。休憩を十分取らないせいで脱落した。そんな無残な最期を遂げたやつをワシは何人も見てきた」
御岳さんは顎を触りながら納得した。
「まあ、そうですね。一応ここまでの成績を振り返ってみましょうか。現在ライフが減っているのは、宮下 幸人様と
氏神? 誰のことだろう……ああ、ライフが減ってるのは宮下さんと死神しかいない。彼の本名は氏神って言うのだろう。自己紹介してくれないからわからなかった。
「ジャクソンちゃん。質問があるけどいいかな? ライフを一つ以下に抑えるってことは減ったライフはゼロの状態でここまで辿り着くのは可能なのかい? 例えば、自殺者を出さずにさっきの扉を超えるとか」
神原さんがそう問いただした。神原さんはまだライフを減らさずに突破できる方法があったかに拘っているようだ。
「はい。当然可能ですよ。まあ、ネタバレしてしまえばあの扉は拳銃を十二発撃ち込めば破壊される仕様になってました。拳銃の弾は六発しか入ってないのになんでこんな設計をしたか……心当たりある人がいるんじゃないですかねえ」
ジャクソンはニヤリと笑った。心なしかタクちゃんの方を見ている気がする。そうか……タクちゃんのメタモルフォーゼなら、手の一部を拳銃に変身させれば十二発以上の弾丸を用意することができたんだ。
タクちゃんは唇を噛み締めて悔しそうな顔をしている。無理もない。自分がこの突破口に気づきさえすれば誰も犠牲にならずに済んだのだから。
でも、タクちゃんが悪いわけじゃないよ。扉に十二発も弾丸を撃ち込めば突破できるだなんてあの時は誰も考えつかなかったと思う。特にタクちゃんは私を守るために必死で、みんなを説得させることに頭を使っていたから。
むしろ私にも責任はある。タクちゃんの能力を知っていながら、銃を複製させることを思いつかなかったのだから。
「なるほど。ありがとうジャクソンちゃん。いい情報だったよ」
「はにゃ? もう既に過ぎた情報をいい情報だと? どういうこと?」
「うん。お陰でこの中の誰かが物を複製する、もしくはそれに準ずるスキルを持っていることがわかった。次の作戦を立てやすくなったってことさ」
神原さんは笑いながらそう言った。凄い。この人はもう次のことまで考えている。流石は救世主と呼ばれただけのことはある。みんなを助けるために頭を使っているんだ。
「他に質問ある方はいますかー?」
「質問ナんだけどさ。この休憩室にいつまでいていいとか、最低何時間滞在しナきゃいけナいとかあるノか?」
「いい質問ですねえ。この休憩スペースにはベッドが用意されています。右側の扉が男性用。左側の扉が女性用の寝室に繋がっています。みなさまにはそこで一晩以上過ごして頂きます。もちろん何泊しても自由です。でも、最低一晩は泊まってください」
加賀美さんの質問に答えるジャクソン。となると次の疑問が湧いてくる。
「ねえ、なんで一晩泊まらなきゃいけないの?」
私はジャクソンに質問した。ゲームマスターに質問するのはなんか玄人らしくて気分がいい。私もこの短期間で成長できているのかな?
「それはですねえ。この先の試練の難易度調整のためです。みなさんのこれまでの試練での行動データを元に次の試練の内容を微調整する必要があるのです。そのための時間が欲しいわけですねー。ギリギリでクリアできる難易度設定じゃないとゲームって面白くないでしょ?」
試練の難易度調整……下方修正してくれるならありがたいけど、もし上方修正されたら嫌だな。
「あはは。難易度調整だってー。なら、次の試練は難しくしていいよー。じゃないと張り合いがないし」
夢子ちゃんがとんでもないことを言い出した。誰かこの子を止めて欲しい。
「わ、私は簡単な方がいいです」
杏子がそう主張した。彼女もデスゲーム経験数が少ないし、みんなに比べれば臆病な方だ。簡単な方が助かるだろう。
「じゃあ折衷案で普通目な難易度に調整しておきます。ご意見ありがとうございました」
「GMさん質問いいですかな? 一晩泊まるということはシャワーを浴びたいのですが。僕はこう見えて綺麗好きなんです。シャワーを浴びずに寝ることはできないのですよ」
和泉さんが疑問を投げかけた。確かに、女子的にはそういうのはあった方が嬉しい。デスゲーム中に呑気なことかと思われるけど、やっぱり気になる。
「シャワールームは寝室に備え付けられてますよ。それにしても和泉さんが綺麗好きとはね。顔は汚いけど。まあ豚は綺麗好きとも言うしねー。顔は汚いけど」
「ぶひー! 失礼なことを二回も言った! ママは僕のことイケメンって言ってくれてるんだぞ!」
「あ、そろそろ時間ですね。名残惜しいですが、ぼくはこれでドロンさせていただきます」
「ドロン……? 古! ジャクソンの中身絶対おっさんじゃん」
名取さんが容赦ない一言をジャクソンに向けて放った。ジャクソンは心なしか悲しそうな表情をして爆発四散して消えた。
「な、なあ。ドロンって古いんか? わし今でも普通に使うのに古いんか?」
どうやら二次被害を受けている人もいたようだ。御岳さん、顔は怖いのにお茶目なところあったんだね。ちょっとだけ親近感が沸いた。
「ふひい。僕はとりあえずシャワーを浴びてきますね。男性陣のみなさんいいですかな?」
「俺は構わない。好きにしろ」
「僕も後でいいよ。和泉ちゃん。先に入ってきなよ」
タクちゃんと神原さんが和泉さんを優先した。流石懐が深い。私だったら和泉さんの後のシャワーは絶対嫌だ。
「あ、しまった」
聖武さんが思い詰めたような顔をしている。何があったのだろうか。
「ジャクソンに質問し忘れたことがあった。くそ……俺はなんでこんな大事なことを」
大事なこと? デスゲームの根幹にかかわることだろうか。場にシリアスな空気が張りつめる。
「男でも女部屋入れるのか聞いておくべきだった! くそ! もし、ルール違反だったら夜這いかけられねえじゃねえか!」
全員から冷ややかな視線を受けた聖武さんだった。特に女性陣からは汚物を見るような目で見られている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます