第11話 死神の真意

 制限時間を告げる時計は[34:10]を指していた。誰が犠牲になるのか、それがまとまらないまま時間だけがいたずらに過ぎていく。


 まず、この中で確実に犠牲にならないのは宮下さんだ。彼のスキルはリヴァイヴ。最大ライフが二しかない代わりに、特定の時間を過ぎるとライフが回復するというものだ。


 これから先同様の試練が待ち受けていた時、ライフが回復できる宮下さんを盾にできるという点では彼をここで切ることはできない。


 次に安泰なのは名取さんだ。彼女はライフが六もある。タクちゃんが言うには、これから先ライフが三以上削られる可能性が出てきた時に、彼女のライフが必要になる場面が出てくる。一番ライフが多いのに、削りたくないという不思議な現象が起きているのだ。


 そして、最も今回の犠牲者に近い立ち位置なのは私。私はデスゲーム初心者で役立たずの烙印を押されている。しかも、私が良かれと思ってやった行動のせいで、こんな窮地に立たされてしまっている。


 原因を作った私が責任を取るべきなのは、理屈の上では正しいのかもしれない。けれど、私だって死にたくない。銃で撃たれれば死ぬほど痛いだろうし、ライフが削られて死へと一歩近づくのも嫌だ。


「なあ、救世主さんよお。全員を犠牲にしないで済む方法は見つかったのかよ」


 聖武さんが神原さんに絡んでいる。こうなったら通称メシアの彼だけが頼りだよ。お願いだから私の命を救って欲しい。


「うーん。ダメだね。この銃はなんの変哲もない銃だ。銃で扉をぶち壊すっていう発想は良かったけど、威力が足りない。この中で扉をぶち破れるほどのスキルを持った人いない?」


 神原さんの問いかけに誰一人として返事をしない。


「ま、そりゃそうだね。もし、持っていたらもっと早く名乗りでるか……ずっと名乗り出ないで能力を隠すの二択だからね。そんな中途半端なことはしないか」


 扉を破壊してここから出る。その作戦もどうやら実現せずに終わりそうだった。もし、この状況を打破できるスキルを持っている人なら、今すぐ名乗り出て欲しい。


「そ、そうだ。加賀美さん! 加賀美さんのスキルならこの状況なんとかできるんじゃないんですか」


「は? いきなりナニを言い出すわけ? 俺のスキル? 内容も知らないくせに適当なこと言ってんじゃナいよ」


 確かに私は加賀美さんのスキルの内容を知らない。けれど、あのポルターガイストを操った力なら、かなりのパワーがあるだろうし、扉の一枚や二枚簡単に破壊できるパワーはあると思う。私はその可能性に賭けた。


「やめとけよユリちゃん。こいつは仮にこの状況を打破できるスキルを持っていたとしても他人のために使うようなことはしないやつだ」


 聖武さんが私にそう忠告してくれた。そういえば、ゲームが始まる前、聖武さんと加賀美さんはお互いを知っているような感じがしたけど二人は知り合いなのかな? 以前一緒のデスゲームに参加したとか。


「ナんだ。俺のこと良くわかってんじゃん。流石裏切り者の聖武さんだナァ!」


 裏切り者。その言葉を口にした瞬間、聖武さんは加賀美さんの胸倉に掴みかかった。


「やめろ! みんなの前でそんなこと言うんじゃねえ!」


 今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。しかし、被害にあっているはずの当の加賀美さんはニヤニヤとしている。この人の考えていることは私には理解できない。なんだかとっても不気味で怖い。


「へー。殴るんだ。協力型のデスゲームで仲間割れ起こすんだ。面白いネ。殴ってみナよ。聖武さんよぉ」


「てめえ!」


「やめないか!」


 一触即発の空気を一括したのは御岳さんだった。流石に御岳さんに凄まれて聖武さんは委縮してしまったようだ。胸倉を掴んでいた手を放して、加賀美さんを解放した。


「貴様らが余計な争いをしている間にも刻一刻と時が過ぎていくんだ。争っているヒマはねえっちゅうことだ」


「すまねえ。御岳のおっさん。つい、カッとなっちまった」


 聖武さんは御岳さんに謝罪して、部屋の隅の方に自ら進んでいった。どうやら拗ねてしまったようだ。


「このまま話し合いをしても埒が明かねえっつーことだ。いっそ、多数決で犠牲者を決めるってのはどうだ?」


 御岳さんが提案したのは私にとって不利な提案だった。現状、加賀美さん、名取さん、夢子ちゃんの三人にターゲットにされている私はそれだけで選ばれる可能性があった。


「俺は賛成できないな。多数決が有意義なのは民衆全員が聡明な場合だ。この場にいるほとんどは俺の半分の判断力も持ち合わせていない。愚策に走るに決まっている。賢明な人間が責任を持って決めるべきだ」


 タクちゃんが挑発するような言い方で御岳さんの案を却下しようとしている。多分、私を庇おうとしてくれているんだと思う。多数決なら高確率で私が選ばれてしまうからだ。


「じゃあ、アンタが責任もって誰を犠牲にするか決められんの? そいつに恨まれる覚悟があるっていうの? ないならしゃしゃり出てこないでくれる? 色男」


 名取さんがタクちゃんに反論している。名取さん的には私を犠牲にする気満々なのだろう。


「うーん……他に隠し扉やスイッチのような類のものはないね。やっぱり、銃で誰かが自殺しない限りは扉が開かない仕組みなのか。否、諦めるのはまだ早い。まだ30分を切った段階だ。やれることだけのことはやろう」


 神原さんは相変わらず、犠牲者を出さないために突破口を探しているし……みんなが誰を犠牲にするか話し合っている場でマイペースすぎない?


「お前なにやってんだ!」


 タクちゃんの大声で全員がハッとした。なんと今まで議論に参加してなかった死神が急に銃を持ち始めたのだ。全く無警戒だった。無動作におかれた銃を死神と呼ばれた人が持つ。最悪のシナリオアが浮かんだ。死神はこの銃で私たちを撃ち抜いたら? それでみんながライフを失い、銃弾も尽きて自殺もできなくなったら……?


 パァン! と渇いた発砲音が聞こえた。血飛沫と共に、一人の人物がその場に横たわった。予想だにしないことが起こったのだ。


 なんと死神が自身のコメカミを撃ち抜き拳銃自殺をしたのだ。全く犠牲者候補に上がらなかった人物の謎の自殺。一同は完全に静まり返っている。


「えー。死神ちゃん。早まらないでよ。僕、まだ出口探してたのに」


 呑気なことを言う神原さん。ゲームとはいえ、ライフが削られるだけとはいえ、人が死んだ現場に立ち会っているのに、相変わらずケロっとしている。流石はデスゲーム経験者。肝の据わり方が違う。


 銃弾で受けた衝撃からか、死神のフードはボロボロになってしまった。死神が復活した時、フードを脱ぎ捨て死神の姿がついに露わになった。


 黒髪に黒目で、顔は頬が痩せこけていて目にクマが出来ていてとても不気味だ。ただ、もう少し肉付きが良ければ、普通にアリな感じの顔立ちだ。


 死神は無言で立ち上がり、扉の前に立った。そして、ゆっくりと扉を開けて一人でどんどん先へと進んでいった。


「あいつ……何なんだよ」


 聖武さんがそう呟いた。確かに死神が何をしたかったのか私にはわからなかった。このまま何もしないで待っていれば、犠牲になったのは私になっていたであろう。それなのに自ら、生贄役を買って出るだなんて。何が目的なんだろう。


「チッ。気に食わねえな」


 と吐き捨てるタクちゃん。一体何が気に食わないんだろう。一応、死神のお陰で私は助かったわけだし、少しは感謝してあげても良くないかな。


「まあ、とにかく犠牲者が自分から名乗り出てくれる一番丸い形になって良かったねえ! 良かったよお! それじゃあ、さっさと次のフロアにいこー!」


 夢子ちゃんは死神の後に続いて先へ進んでいった。みんなもそれに続いて次のフロアへと進んでいく。そして、取り残されたのは私とタクちゃんになった。


「タクちゃん。私たちもそろそろ行こう?」


「なあ、ユリ。お前、死神をいい人だなんて思うなよ絶対だからな。警戒することに越したことはない。用心を怠るな」


「え? ああ、うん。わかった」


 タクちゃんは何を危惧しているのだろう。私には理解できなかった。



・現在の状況


吉行 ユリ(私)……0回 スキル:サイコメトリー 残機:3


浅海 卓志(幼馴染)……10回 スキル:メタモルフォーゼ 残機:3


鈴木 聖武(ホスト)……5回 スキル:不明 残機:3


名取 加奈(便乗クソビッチ)……6回 スキル:不明 残機:6


和泉 雄一郎(オタク)……36回 スキル:不明 残機:3


真白 杏子(私の友達)……1回 スキル:不明 残機:3


宮下 幸人(オカマ)……108回 スキル:リヴァイヴ 残機:1


御岳 紋次郎(ヤクザ)……7回 スキル:不明 残機:3


神原 知也(若干、天然入ってる?)……14回 スキル:不明 残機:3


死神(名前に反してちょっといい人?)……8回 スキル:不明 残機:2


加賀美 大地(サイコパス)……12回 スキル:不明 残機:3


能登 夢子(テンションがおかしい)……9回 スキル:不明 残機:3

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