第10話 私のしたことは……

 何で加賀美さんは私を選んだの? 私が何をしたって言うの? 皆が私を憐れむような目で見ている。やめて、そんな目で私を見ないで……助けて、タクちゃん……


「その意見には賛同出来ないな加賀美。ユリはジグソーパズルを解いた。その功績がある以上、今回犠牲にするべきではない」


 タクちゃん! 信じてたよ。


「わかってナいナー浅海は。この部屋の仕掛けも本来ナらライフ消費ゼロで突破出来る作りにはナっていたんだ。だけどユリのせいでそれが出来なくなったからその責任を取るべきナんだ」


「わ、私が何したの!」


 私は加賀美さんを睨みつけた。正直この人は嫌い。杏子にも酷いことをしたし、今度は私を犠牲にしようとしている。


「まず、一つ目の罪はジャクソンに口出しをしたことで、宮下のライフを減らしたことだ。こいつの不用意な発言がきっかけで宮下の頭部が爆破された。宮下のライフが減っていナければ宮下を犠牲にしてこの部屋を突破出来たんだよ」


「そ、そんなのジャクソンが悪いことじゃない! 私が何も言わなくても誰かが見せしめになってたかもしれないじゃん!」


 私は精一杯の反論をする。そんな言いがかりみたいな論法で私が犠牲者にされては困る。


「まあ、運営側もあそこで一人見せしめをする予定ではあっただろうナ。宮下が見せしめに選ばれたのもライフを回復出来るこいつのスキルなら問題ナいと判断したんだろう」


「だったら、私は悪くない! 私は悪くない!」


 ごり押しでも何でもいい。私が悪くないことを皆にアピールしないと、このままでは私が犠牲者に選ばれてしまう。それは嫌だ。


「それがナくてもお前にはもう一つ罪がある。二つ目の罪は、ジグソーパズルを早く解いたことだ。お前が宮下のライフを回復させるだけの時間を奪ったんだ。運営の想定では宮下のライフが減っていてもジグソーパズルの部屋で回復出来る設計にしていたんだろう」


「そ、そんな……」


 私が皆の為を思ってした行動が間違っていたとでも言うの?


「加賀美! 無茶苦茶すぎるだろ! それは結果論であってユリは悪くない! ユリがいなければ、俺達はギブアップでライフを消費していたのかもしれないんだぞ」


「そ、そうですよ! 酷いです加賀美さん! ユリが一生懸命やったことをそんな風に言うなんて」


 タクちゃんと杏子が私を擁護してくれる。ありがとう二人共。信じられるのはこの二人だけだよ。


「でも、事実だろ? この部屋に入りさえしなかったら、あのタイマーは作動しなかった。この部屋に早く入る切っ掛けを作った人物ことが断罪されるべきナんじゃナいか?」


「あたしは加賀美の言うことに賛成ね。ユリって子はデスゲーム経験もゼロのド素人なんでしょ? 結果論とは言え、今回のことで足を引っ張ったし、この中で一番の役立たずってことでしょ? だったら、役立たずの一番軽い命を差し出すべきね」


 名取さんが私を売ろうとしてくる。ひ、酷い。何で皆の為に行動しようとした私よりもまだ皆のために何もしていない名取さんがそんなこと言えるの。


「な、名取さんが犠牲になればいいじゃないですか! 名取さんはライフが六もあるんだから一つくらい減ったって構わないでしょ!」


 私は精一杯の抵抗を見せた。私の言葉に名取さんの表情が崩れて般若のような形相になる。


「はぁ! あんた何言ってんの! 小娘がふざけたこと言ってんじゃないよ! あんた誰に向かって口きいてんの! 二度と世迷言が言えないようにてめえの口を猿轡さるぐつわでふさいでやろうか? あぁ!?」


 こ、怖い。名取さんがここまで怖い人だなんて思わなかった。でも、何で名取さんは自分のライフに執着しているんだろう。人より多いのにそれが不思議だ。


「ユリ……残念ながら名取のライフを犠牲にする選択肢は俺達には取れないんだ」


「ほら見なさい。あんたの彼氏も私の味方よ。残念ね。結局男なんて魅力のある女になびくものよ。自分の恨むなら貧相な顔つき、体つきを恨みなさい」


「名取、勘違いするなよ。別に俺はお前に魅力を一切感じてないからな。ただ、お前のライフが貴重だと言っているだけだ」


「名取さんのライフが重要? どういうこと?」


「ユリ。もしもだ。個人のライフが三以上失わなければならない状態が来たらどうする?」


「個人のライフが三以上減る? え? それって名取さん以外なら死んじゃう」


「そうだ。俺達はライフが一ずつ減ると勝手に思っているが、GMはそう説明しなかった。これから先の試練次第では一度に二や三減ることも十分考えられる。その時に全員が生き残るには名取の存在が必要不可欠なんだ」


 言われてみれば確かにそうだ。もし、そのような状況に追い込まれた時に名取さんのライフを無駄に減らしていたら誰かが死ぬことになっちゃう。タクちゃんはそんなことまで考えていたというの? それがデスゲーム経験者の考え方なの……?


「全く。これだから素人はダメね。そういう考えに至らない時点で役立たずのゴミカスよ。私のライフは誰よりも貴重なの。わかったら、さっさとボロ雑巾のように生贄になりなさい」


 名取さんは勝ち誇ったような顔で私を見下してくる。うう、絶対名取さんもそういう考えじゃなかったよ。ただ、自分のライフが惜しいだけだったよあの人は。


「きゃは。皆からヘイト買ってるねーユリリン。ドンマイドンマイ。そんな落ち込まないでよ。まあ、私もユリリンに一票なんだけどねー。だって私犠牲者になりたくないしー」


 夢子ちゃんまで私を犠牲にしようとしてくる。誰か助けて……和泉さん……


「そ、そんな目で僕を見たってダメなんだな! ユリたんはゲームが始まる前、僕に冷たかったんだな。ユーたんって呼んで欲しかったのに呼んでくれないし! それなのに自分がピンチになった時に助けてもらおうだなんて都合が良すぎるんだな」


 ぐうの音も出ない。確かに私は典型的なオタクの和泉さんに冷たい態度を取ったかもしれない。今更反省しても後悔しても遅い……


「で、でもユリたんは僕の好みのタイプだから、もしぼ、僕と付き合ってくれるなら僕が身代わりになってあげてもいいよ。ち、ちなみに僕は初めてなんだからユリたんがリードしてくれると嬉しいな……」


「私、犠牲者になります」


 和泉さんと付き合うくらいなら私は死を選ぶ。私はテーブルの上に置いてあった銃を取った。


「お、おいいい! じょ、冗談だよぉ。早まるんじゃない」


「今度くだらない冗談言ったら、この銃で撃ちますよ?」


 タイマーは現在42:13を刻んでいる。なんだかんだで20分近く議論をしてたことになるんだ。


「ユリくん。その銃を貸して」


「あ、はい」


 私は神原さんに銃を手渡した。この人はメシアと呼ばれている人だし、人当たりも良さそうだし、この中では信用できる方かな。何か銃を色々調べているみたいだけど、この人何がしたいんだろう。


「皆ちょっと僕から離れて。跳弾するかもしれないから」


 そう言うと神原さんはドアに向かって拳銃をぶっ放した。銃声と共にドアに拳銃の弾がめり込んだ。


「あーダメかな。弾は全部で六発。銃を使えばこの扉を壊して先に進むという荒業が出来るかもしれないと思ったけどダメだ。後、五発じゃとても開きそうにない」


 もしかして、この人は今までの時間ずっと犠牲者を出さないで済む方法を考えていたの? 誰が犠牲者かを選ぼうとしていた私達とは随分と違う物の考え方をする人だ。それが彼がメシアと呼ばれる所以なのだろうか。


「無駄だと思うナ。そんなことしても。それより誰を犠牲にするか考えた方がいいんじゃナいか? メシアさんよ」


「そうかな? 時間はまだ四十分はあるし、僕はその間に出来る限りのことはするつもりさ」

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