第9話 犠牲者会議
ジグソーパズルの扉を抜けた先にあった部屋は、テーブルが一つあってそこの上に拳銃が置かれていた。この拳銃は一体何なんだろう。
『ピンポンパンポーン。ジャクソン・ラビットが十六時をお知らせします』
聞き覚えのある嫌な声がアナウンスで流れた。実に不愉快な声だ。
『犠牲者会議の間へようこそ。今までキミ達は頑張ればライフを維持出来るという状況でライフを失わずにクリアしてきましたが、今回はなんと! 誰かのライフが必ず一減ります。それを防ぐ方法はありません!』
その言葉に全員に緊張が走った。誰かのライフが減る? それを防ぐ方法はない? スキルを使ってもダメなことなの?
『ルールを説明します。この部屋に入った時点でカウントダウンが始まってます。一時間を計測してます。ドアの上にあるタイマーを見て』
ドアの上にあるデジタルタイマーには59:12と記されていてそれが1秒ごとに減っていっている。
『今から一時間以内に誰かがテーブルの上にある拳銃を使って自殺をして下さい。ちなみに他殺はダメです。やっても構いませんが殺された人のライフが一減るだけで次の扉は開きません。拳銃を使って自殺者が出た時初めて扉が開くようになっております』
「GM。質問がある。自殺の定義はなんだ? 例えば俺が和泉に対して自殺しろと脅迫して和泉がそれに応じて自ら引き金を引いて命を絶った時、それは自殺になるのか? 他殺になるのか?」
「な、なんで僕なんでしゅか! ぷんぷん!」
和泉さんがタクちゃんに向かって頬を膨らませる。確かに自殺の定義は聞いた方がいいかも。本人が自殺だと思っていてもそれが他殺認定されたら、ライフを無駄に失うだけだし。流石タクちゃん冷静だ。
『質問に答えるよー。まず、自殺の定義とは本人の意思とは関係なく、引き金を引いた人の手によって当人が死亡すれば自殺と認定されます。浅海様の例では、和泉様に無理矢理引き金を引かせても、引き金を引いた時に出た弾によって自分が死亡すれば自殺として扱われます。跳弾した弾が自分に跳ね返ってきた場合も自殺認定されます』
「つまり。本人が自殺する意思があっても、自分じゃ怖くて引き金を引けないから誰か引いてって頼んだ時は他殺として扱われるってことだナ。つまんネ。介錯してやろうと思ったのニ」
加賀美さんには絶対拳銃を持たせたくない。この人に持たせたらロクなことが起こりそうにない。
『犠牲者を選ぶ方法は皆様にお任せします。投票によって決めてもいいし、自薦、他薦は問いません! 難だったらじゃんけんで決めてもいいよー』
「じゃんけんは論外じゃな。きっちり話し合いで決めるべきじゃ。誰の
『あ、ちなみに一時間以内に誰も自殺者が出なかった場合はこの部屋に毒ガスが撒かれて全員死にます。今、ライフが一しかない宮下様はここでリタイアだねー。可哀相だねー』
宮下さんの顔が青ざめる。彼にはもう後がない。何としてでも他の誰かを犠牲にしようとするはずだ。
『毒ガスで全員のライフが一減った後に扉が開くからそこは心配しなくていいよー。ライフを一減らすだけで済ますか、十二減らすか一つに二つだね。じゃあ、誰が犠牲者になるのか選んでちょ。バーイ』
それだけ言うとブツっという音と共に放送が途切れた。私達の間に気まずい雰囲気が流れる。今まで協力してきた仲間をここで一人犠牲にしなければならない。
「一時間……何で……」
宮下さんが絶望した表情を見せている。一時間という数字に何か引っかかりがあるのだろうか。タクちゃんの言った通り、宮下さんのスキルは時間に関係があるものなのかな?
「あのさ。俺ここで誰を切ったらいいのか思いついちゃった」
加賀美さんが挙手をした。通常なら誰を犠牲にするのか言い出すのは恨みを買うから嫌がるものだけど、この人の場合は喜んで犠牲者を出すであろう。
「それはね、宮下。お前だよ!」
加賀美さんに指さされた宮下さんは動揺する。何で? 宮下さんはライフが一しか残ってないんだよ? その状況で死んだら本当に死んじゃうんだよ。
「な、何で私? あ、あなた状況わかってないでしょ? 私はこれ以上ライフを失ったら死ぬの!」
「だからこそだ。ここで犠牲者に選ばれた者が生存していたら後々に遺恨が残る。こいつらは自分を犠牲にしてまで生き残ろうとしたんだナって。そうなったらさー俺達の協力関係もおしまいナんだよ。でもさー。犠牲者に選ばれた奴がここで死んだらその遺恨は全く残らナいわけじゃん? そいつ死んでんだからさ」
加賀美さんその理論は滅茶苦茶だよ。そのために人の命を斬り捨てていいものなの?
「加賀美の言うことには一理あるな。ここで犠牲者に選ばれた者が俺達の味方でいてくれるとは限らない。肝心な時に裏切る可能性だって出て来る」
タクちゃんまで何言ってるの? 人の命をゲームの駒みたいに……これがデスゲーム経験者の考え方なの?
「ほらネ。聞いたか宮下。お前はここで脱落するんだよ」
「でもな。俺はその選択を取るつもりはない。何故ならまだ宮下のスキルを俺達は知らないからだ。もし、宮下のスキルが有能なもので生かす価値があるならここで斬り捨てるべきではない」
「きゃは。要約すると死にたくなかったら宮下のスキルを教えろってことね。浅海、お主も悪よのう」
夢子ちゃんはケラケラと笑っている。人の生死がかかっている状況でよく笑っていられるなあ。その精神が凄いよ。
宮下さんは溜息をついた後に観念したような表情を見せた。やはり自分の命は惜しいのだろう。スキルを隠すなんてことは言ってられない状況だ。
「わかった。私のスキルを教える。私の能力はリヴァイブ。毎日、零時と十二時と十八時になった時にライフが一回復するの」
ライフ回復のスキル? ライフは減る一方だと思ったけど、増えることもあったんだ。あれ? ってことは宮下さんはライフを失いさえしなければ鉄壁? 無敵じゃん。
「それだけじゃないよね? まだ隠していることはあるだろ?」
神原さんはパットを見つめた後に、宮下さんを問い詰める。この人は一体何の根拠があって言っているのだろう。
「隠していてもいずれバレることになるからもう正直に言うね。このスキルの欠点は最大ライフが二までしかないこと。つまり指定の時間を経過しても三以上にはならないの」
「なるほど。嘘は言っていないようだね」
神原さんはパットを見て何やら一人で頷いている。何一人で納得しているんだろう。
最大ライフが二。ってことは、宮下さんが初期ライフが二だったのはこのスキルのせいだったのか。
「私のライフが回復するまで後、二時間かかる。だから私はここでライフを失うわけにはいかないの。お願い。私以外の人にして。もしライフが回復したら次は私が皆の盾になるから」
「ナるほどネー。その言葉に嘘がナければ宮下を失うわけにはいかナいナ。最大ライフが二しかナいって言うのも宮下の状況と一致している。信頼出来る情報だ」
なんとか宮下さんが死を免れたようだ。良かった。私自身の命がかかっている状況とはいえ、やっぱり他の人にも死んで欲しくないよ。
「ということは次の犠牲者候補を決めないといけないナ。ナあ? 吉行 ユリ」
え? 何で加賀美さん私の方を見ているの? 何かニヤついていてとても不気味なんだけど。
「俺が次に推すのは、お前だ。吉行 ユリ!」
「わ、私!?」
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