第8話 サイコメトリー覚醒
「ぶ、ぶひい! パズルのピースを見つけたんだな。これで六十三ピース目。後一ピースで完成なんだな」
「後、一ピースか。全員で一ピースだけ探すのも難だし、パズルを埋めていく奴とピース探すやつに分かれようぜ」
聖武さんの提案で二手に分かれることにした。私は真白さんと一緒にパズルのピースを探すことになった。理由はこの二人だけパズルのピースを見つけた数が少なすぎるから罰としてまだ探してろとのことだった。私はゼロピース。真白さんは一ピースしか見つけていない。流石デスゲームに慣れてない二人だ。ここでも経験者達と差を見せつけられる。
「けしし。もし、俺らが六十三ピース埋める前にピース見つけられなかったら罰ゲームな」
「ひ、ひい!」
真白さんはすっかり加賀美さんに怯えてしまっている。トラウマを植え付けられたという奴なのだろうか。
「ば、罰ゲーム。裸踊りとかするのかな。ぶひひひ」
「てめえ! ユリにそんなことさせたら殺す! ライフの一つや二つじゃ済まさん!」
タクちゃんが和泉さんの胸倉を掴む。和泉さんは慌てて「冗談だよぉ」と言って取り繕う。私を庇ってくれるのは嬉しいけど、真白さんのことも庇ってあげて欲しい。最近真白さんが不憫に思えて仕方ない。
しかし、私も一ピースも見つけられていない現状はとても情けない。何とかして見つけたいけど、一体パズルのピースはどこにあることやら……
「あ、あの……ユリさん。ちょっといいですか?」
「はい」
真白さんが私に話しかけて来る。大人しそうな女性だと思っていたから積極的に話しかけられて少し驚いた。
「皆、デスゲームを経験したことある人達ばかりで、そういう人達ってどこか倫理観が壊れてそうで怖いって思うんです」
「ああ、わかる」
特に加賀美さんは絶対倫理観とかそういうのなさそう。平気で人殺しそうだし。
「わ、私、加賀美さんと御岳さんが特に怖くて……加賀美さんは私に意地悪するし、御岳さんは単純に顔が怖いし」
「わかる。御岳さんの顔怖いですからね」
私は真白さんと意気投合する。真白さんもデスゲーム経験数は一と私とそう変わらない数値だ。正直、このメンバーでタクちゃんの次に親近感が沸いているのが彼女だったりする。
「あ、あの……だから、これまでデスゲームに参加したことがないユリさんのことは信用出来そうな気がするんです」
私はそう言われて嬉しく思った。真白さんに信用されているのかと。
「なんかそう言われると照れちゃうな。ねえ、私達友達にならない?」
「友達? いいんですか?」
「友達同士に敬語はいらないでしょ? ほら、私のことユリって呼んで」
「ユ、ユリ……」
真白さんは少し困惑しながらそう言った。何だか他人を呼び捨てで呼ぶのが慣れてないみたいだ。
「うーん。少し硬いかな。でも、いいか。よろしくね杏子」
私は真白さんの下の名前を呼ぶことにした。杏子。とても可愛らしいいい名前だ。
「あ、杏子……私のことを杏子って呼んでくれるの? 嬉しい……」
杏子は顔を真っ赤にする。何だか可愛い。杏子のことを守りたくなる。彼女の方がデスゲーム経験数は上だけど。
私は杏子と一緒に部屋中を探し回った。もう色々なところは探し回ったけど、最後の一ピースが見つからない。本当に六十四ピースもあるのだろうか。
ん? 今なんか踏んだような気がする。足元をどかしてみるとそこにはパズルのピースがあった。
「あった!」
私はパズルのピースを拾い上げた。初めて触れる白いジグソーパズルのピースの感触。私はそれに触った瞬間、脳内にとんでもない情報量が流れ込んでくるのを感じた。
な、何この情報量は……そ、そうか。これがサイコメトリーの力なんだ。
私は全てを理解した。今までパズルのピースに触れてこれなかったから気づかなかったけれど、私のこのスキルがこの状況で一番適したものであることが理解できた。
「皆どいて!」
私はパズルの前に集まって思案している皆をどかした。パズルのピースはまだ四隅しか埋まっていない。この状況じゃパズルのピースが完成する頃には日が暮れてしまうであろう。
「どうしたユリ?」
「パズルの最後の一ピース見つけた」
「けしし。よくやったナ。そのピースだけ置いてどこかに消えナ。デスゲーム初心者に解けるようなパズルじゃないノさ。これは」
私は私を邪見に扱おうとする加賀美さんを睨みつけた。私のこのスキルがこのゲームを攻略するカギなのになんてことを言うんだこの人は。
私は黙って、このパズルの一ピースをパズルのボードにはめ込んだ。形が寸分も狂っていない。正解の場所に一発で置いて見せたのだ。
「な!」
皆が目を丸くして驚いている。さっきまでこのパズルのピースすら見つけられなかった鈍い私がいきなり正解を導き出したのだから。
私の能力はサイコメトリー。物体の記憶を読み取る能力。このパズルは最初は完成された状態だった。それを一度バラバラにしたのだ。つまり、自分がどこの位置にいたのかを記憶しているのだ。
私がやったのはその記憶を呼び覚ましてあげることだけ。この子達は自分がいるべき場所を記憶している。
「ユ、ユリたんにパズルの才能があったなんて意外だな!」
「ユリ……お前」
タクちゃんが私を見て驚いている。恐らく彼は感づいているだろう。私がスキルを使ってこのピースをハメたことに。だって、私はパズルの類が苦手だから。それは幼馴染のタクちゃんもよく知っていること。その私がパズルを解いたのはスキル以外の何物でもないだろう。
「皆。パズルのピースを私に集めて。後は全部私がやるから」
「あ、ああ。わかった」
聖武さんが持っているピースを私に預けてくれた。このピースの場所はここだ。
私は熟練の絵画修復師のように、パズルを修復していく。最初から答えを知っているパズルほど簡単なものはない。
私がピースをハメてから、ものの三分も経たない内にパズルは完成した。そうすると扉の方からカチャとカギが開く音が聞こえた。
「ユリ凄い! ユリのお陰で皆のライフが減らずに済んだね」
杏子は私の手を握って喜んでくれた。褒められて嬉しい。やっぱり杏子は良い子だ。友達になりたい。
「さあ、皆行きましょう。次の部屋に」
皆は私がパズルのピースを早く解いてくれて助かったという顔をしていた。ただ一人、時計を見てため息をついた宮下さんを除いては……
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