第7話 白いジグソーパズル

 洋館の次に訪れた部屋はなんとも殺風景な部屋だった。周りの天井や壁は白一色。机や椅子も置いてあるけどそれも白だった。完全に保護色になっていてよく見えなくて困る。この部屋デザインした人の色彩センスを疑う。


 壁にはめ込まれたモニターが映し出される。そこにいたのはあの憎きジャクソン・ラビットだ。また私達に指令を出すというのか。


「やあやあ。皆様お集まりで。今の所、最初の宮下さんの爆破以外ライフを失っていないようで何よりです」


 確かに私達はこれまでライフを失いかねない危険な目に遭ってきた。特に真白さんは拘束されるし、ポルターガイストに狙われるしで散々な目に遭っている。


『皆、デスゲームにも慣れてきたかな。あ、全員デスゲーム経験者だから慣れるもクソもないか。ごめんごめん』


「GM。全員デスゲーム経験者ってどういうことだ? ユリはデスゲームを経験してないぞ」


 タクちゃんがジャクソンに突っかかる。それに対してジャクソンは首を傾げる。


『ほへ……。ああ、吉行 ユリさんは姉の吉行 日葵さんの代理で来たわけですね。日葵さんは過去に二回程デスゲームを経験してますよ』


「そ、そうだったの!?」


 知らなかった。お姉ちゃんにそんな過去があったなんて。何で私に教えてくれなかったのそんな大事なこと。


「吉行 日葵……一度だけ一緒にデスゲームをしたことある。とても賢い子で彼女の知恵に救われたこともあった」


 流石百八回もデスゲームを経験している宮下さん。お姉ちゃんともデスゲームしたことあったんだ。


『基本的にこのテストプレイはデスゲーム経験者がどれだけこのゲームに適応できるかをチェックするためのものだからね。まずはデスゲームのプロの目で見てこのゲームのレビューをして欲しいんだよ』


「最低最悪のゲーム。☆0」


 加賀美さんが辛辣なことを言っている。彼は参加者同士の殺し合いをしたかったらしいからこのゲームはつまらないのだろう。


「私はこのゲーム面白いと思うよー。☆5上げちゃおうかなー。なーんてウソ。私も☆0でしたー」


 夢子ちゃんも加賀美さんに便乗して☆0レビューを食らわす。自分の命がかかったゲームに高評価を出す人間がどれだけいるのだろうか。


『デベロッパーより 貴重なご意見ありがとうございます。今後の参考にします。これからもThanatos Fantasyをよろしくお願い致します』


「テ、テンプレで返してきたんだな」


「どうでもいいけどよー。次のゲームさっさと説明してくれねえか。時間の無駄なんだよ」


 聖武さんが呆れたような表情を見せる。


『やる気満々だねー。いいでしょう。このゲームは六十四ピースのジグソーパズルを完成させる部屋だよ! パズルのピースはこの部屋の隅々まで探せば全部見つかるよ。ただし、パズルのピースの色は全部白。保護色になってるから探しにくいかもねー』


 うわ、最悪。白いジグソーパズルって宇宙飛行士の試験にもなるくらい難易度が高いものじゃなかったっけ? ただでさえ難易度が高いのにパズルのピースがバラバラでしかも保護色で見つけにくいとか嫌がらせの三重奏やで。


『このゲームには期限はありません。一日でも二日でも気の済むまでやってくれても構いません。ただしギブアップする場合はライフを一支払えばこの部屋をクリア扱いで通ることが出来ます』


「な、なるほど。これは忍耐力が問われるんだな。忍耐力さえあれば必ずクリア出来るけど、それがないならライフを失うことになると。ちなみに僕は早漏だから忍耐力はないんだな」


 和泉さんがしょうもない下ネタを言い始めた。女子がいるんだからそういう発言は控えて欲しい。


「GM。質問がある。ライフを支払う場合、誰がライフを支払うことになるんだ」


「それは最初にギブアップをした人です。両手を上げてギブアップと叫んだ人のライフが減ります。あ、そうそう。ギブアップを他人に強要する行為はもちろんオーケイだよ。力のある人間が力のない人間を犠牲にするのもアリよりのアリ」


 タクちゃんの質問に対してジャクソンが回答する。え? 何なの。ギブアップの強要? 例えば私が諦めたくなくても、御岳さんとかに脅されたら私がライフを失うハメになるってこと?


『では、ルール説明が終わったところでゲーム開始しよう。まずはパズルのピースを探すところからがんばってねー!』


 そう言うとモニターの電源がぷつりと落ちた。この真っ白な部屋で真っ白なピースを探すという地獄の作業が始まるのか。


「手分けして探しましょう。十二人もいれば、きっとパズルのピースもすぐ見つかるはず」


 宮下さんが両手を叩いてそう提案する。そうだ。ライフを犠牲にしないためにもここは皆が協力しないといけないんだ。


「皆! 頑張りましょう! 私も頑張ります!」


 私は気合十分にそう言った。しかし場が白けている。えー白けているのは部屋だけにしてよ。


「デスゲーム未経験者が何張り切ってんのー? バッカみたーい」


 夢子ちゃんの辛辣な言葉が胸に刺さる。ぐ、心が痛い。


「ユリ君。パズルのピースを探す行為からこのゲームは非常に心が折れるゲームだ。あんまり楽観的に考えない方がいいと思うよ」


 神原さんに優しく諭されてしまう。うぅ……皆を励ましたかったのに裏目に出た。


「ぶ、ぶひい! まずは一ピース見つけたんだな」


 和泉さんがテーブルの下に貼り付けてあったパズルのピースを剥がして見せびらかしてくる。ドヤ顔がとてもうざい。


「たった一ピースで騒いでんじゃねえよ。まだ六十三ピースも残ってんだからよ」


 聖武さんは和泉さんに冷ややかな視線を送る。しかし、和泉さんはそれを全く気にする様子もなくドヤ顔を維持している。図太い。見た目と同じく神経も図太いよこの人。


「あった……」


 聞き覚えのない声が聞こえる。声がしたのはローブを来た死神だ。ってか、死神の声初めて聞いた気がする。ここまで一言もしゃべったことがないってド陰キャかよ。


「おー。角っこのピースじゃん。やるねー死神」


 夢子ちゃんは死神に突っかかっている。夢子ちゃんは死神を恐れていないのかな?それに対して死神はローブの下から見える表情がどことなく照れているように感じる。何か恐ろしいキャラ付けとのギャップで少し可愛らしく思える。死神も女の子には弱いのだろうか。流石陰キャ。

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