第6話 ポルターガイストくん

 次の部屋は真っ赤な絨毯が引き詰められて壁にははく製が飾られている洋館のようだ。とても広い部屋で中央には長方形の長いテーブルが設置されている。


 テーブルの上にはナイフやフォークや皿などが置かれていて、ここは食事をする場所のようだ。


「へー。中々趣味いいじゃん。あたしこういう洋館に住んでみたいな」


 名取さんはこの部屋が気に入ったようだ。しかし、御岳さんは渋い顔をしている。


「そうか? ワシはどうもあのはく製が気に入らんな。ワシはこう見えても動物好きじゃから、ああいうのを見ると可哀相になってくる。ったく、趣味の悪い部屋だ」


 動物好きか。御岳さんも意外な一面があるんだな。と言っても御岳さんの動物好きは高級そうな猫を撫でているマフィアの首領ドンが似合うけど。


「けしし、えー動物のはく製ならまだマシじゃん。人間のはく製じゃないだけネ」


 加賀美さんが笑いながら笑えないことを言う。この人はマジモンのサイコパスなんじゃないかな。っていうか普通に動物虐待してそう。偏見だけど。


「に、人間のはく製とか怖いこと言うのやめてください」


 真白さんは冗談でもそういう話を振られるのは嫌なんだろうな。見た目通り本当に純粋な人だ。


 金属がすれる音がどこからともなく聞こえてきた。何かがかたかたと動くようなそんな音だ。テーブルを見るとナイフとフォークが揺れ動いている。


「な、なんだぁ! これは! ゆ、幽霊!? 俺、幽霊とかオカルト系のやつ本当にダメなんだよ! た、助けてくれ~」


 聖武さんが情けない声を上げて名取さんの後ろに隠れた。全く、大の男の人が情けない。


「ちょっと、女の子の後ろに隠れるなんてどういうつもり? あんたそれでも男なの!」


 名取さんが聖武さんを叱責する。眉の字が八の字に吊り上がる怒っているようだ。私だってもしタクちゃんが同じように私を盾にしてきたら同じ反応すると思う。まあ、タクちゃんに限ってはそういうことをしないと思うけど。


「みんな気を付けて。ポルターガイストのお約束としては危険物が人間に飛んでくるというものがある!」


 神原さんがそう言うや否やナイフとフォークが私達目掛けて飛んできた。それほど速いスピードではないから避けようと思えば避けられる。だけど数が多い。このままでは一発、二発くらいは当たってしまうであろう。


「ユリ。俺の後ろに隠れていろ」


 タクちゃん。やっぱりタクちゃんは私を守ってくれるって信じてた。


「そして、ユリ。皆の動きをよく観察するんだ。この状況を切り抜けるにはスキルを使うしかないからな」


 そっか、皆が自分のスキルを教えてくれる気がないなら、スキルを使わざるを得ない状況にこそ観察が必要なんだ。そして、皆のスキルが何なのかを見極めると。


 ナイフとフォークが四方八方から飛んでくる。皆がそれを躱していく。流石はデスゲーム経験者達。運動神経が常人のそれとは遥かに違う。


 特に和泉さんの軽快な動きを見ているのが面白い。まるでブレイクダンスでも踊っているかのような動きで動けるデブっぷりをアピールしてくる。あんな太いものがあの動きをするなんていくらなんでも面白すぎるでしょ。


 タクちゃんは飛んでくるポルターガイストのナイフをキャッチした。そしてそのナイフを使ってタクちゃんに向かって飛んでくるナイフやフォークを次々に弾き落としていく。か、格好いい。流石タクちゃん。


「きゃ……」


 真白さんが転倒してしまった。デスゲーム経験数一回と一般人とそう変わらない実力しかない真白さんにはこの試練は酷だったのかもしれない。倒れた真白さん目掛けてナイフやフォークが飛んでくる。


「やれやれ……」


 加賀美さんがそう呟くと真白さん目掛けて飛んでいたナイフやフォークが一斉に誰もいない壁にダーツのように突き刺さった。


「い、今のってスキルだよね?」


「ああ。そうだ。何のスキルかは知らないが、加賀美はスキルを使って真白を助けた」


 私の発言に対してタクちゃんがそう返した。意外だった。参加者同士での殺し合いを所望していた加賀美さんが真白さんを助けるなんて。


「立てるかい?」


 加賀美さんが真白さんに向かって手を差し出す。こんな紳士的なキャラだったっけ?


「はい。ありがとうございます」


 真白さんは加賀美さんの手を取った。その瞬間、壁に突き刺さっていたナイフやフォークが再び動き出した。否、それどころか部屋中にあるナイフやフォークが真白さん目掛けて飛んできたのだ。


「い、いや!」


 真白さんは完全にパニックになっている。加賀美さんはそれを見てケラケラと笑っている。どういうことだ。


「加賀美の野郎。いい性格をしてやがる。真白を一度助けたと見せかけて、再び自身のスキルを使って窮地に陥れようとしたんだ」


「え? な、何のために……」


 タクちゃんは渋い顔をする。加賀美さんが何の目的があってこんなことをしているのかがタクちゃんにもわからないのだろう。


「面白いからじゃなーい? きっとカガミンには倫理観ってものがないんだよ。私と同じで面白いならそれでオッケーみたいな感じかなー」


 夢子ちゃんが私達の会話に入ってくる。面白いから……? たったそれだけの理由で真白さんは窮地に立たされたの?


 ナイフやフォークが真白さんに当たる寸前でぴたりと止まった。そして、ナイフやフォークは床にカランと落ちていく。


「どう? ビックリした? これが殺し合いのゲームなら、真白。お前は死んでいたノ」


 加賀美さんが真白さんの肩をポンと叩く。真白さんはその場に座り込み、放心状態になっている。


「ハハ、ハハハ……」


「あーあ。壊れちゃった。でも、忘れないでネ。俺が気まぐれでお前を助けたあげたことを。これで俺に借りが出来たよ」


 加賀美さんの借りってすごく嫌そう。私だったら彼に絶対貸しを作りたくない。


「ユリ……俺は加賀美のスキルの発動条件がわかったかも知れない」


「え? 本当?」


「ああ。まずは加賀美は最初に壁を触った。そしてその触った箇所にナイフやフォークが集中して突き刺さった」


「そ、そうなんだ。私全然気づかなかったよ」


 タクちゃんに観察しろって言われてたのに、そういう細かい所は全然気づかなった。やっぱり私には経験が足りてないのかな?


「次に奴は真白を触った。触られた真白にナイフやフォークが集中して飛んできた。これがどういうことかわかるか?」


 そう言われても私にはピンとこない。エリート学校に進学したタクちゃんにはわかってもアホ学校に進学した私にわかるとは限らないのに。


「アイツのスキルの条件は恐らく対象に触れることだ。だから、ユリ。加賀美には絶対触られるな。それから自分から触りにいくのもやめておけ」


「うん。わかった。気を付けるよ」


 触った対象をどうこうする能力かー。触った物に変身出来るタクちゃんのスキルとなんか似てるね……なんて言って加賀美さんと同じ扱いするとタクちゃん怒るだろうなー。


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