第5話 裏切りの兆し

 第一ゲームをクリアした私達。部屋には扉があった。恐らく次の目的地はここだろうか。


「皆。提案があるんだけど少し休憩しない?」


 宮下さんがそう切り出した。彼はライフが一しか残っていない瀬戸際の状況だ。一体なぜ彼だけライフが二から始まっていたのだろうか。


「いいねー。私疲れちゃったよ」


 夢子ちゃんが宮下さんの意見に賛同する。


「テメーは何もしてねーだろうが」


 聖武さんが夢子ちゃんに対してツッコミを入れる。確かにカギを発見したのは神原さんだし、開錠したのはタクちゃんだし、別に夢子ちゃんは人質に取られていたわけでもなかった。


「まだ第一ゲームが終わった段階で休憩か? 少し早くないか?」


 タクちゃんが宮下さんの言うことに反対をする。


 宮下さんは右の手首に付けられた腕時計をチラリと見た。宮下さんは左利きなのだろうか……


「お前、さっきからしきりに時間を確認しているが、何か企んでいるのか?」


 タクちゃんが宮下さんに詰め寄る。それに対して宮下さんは一歩後ずさった。何かを恐れているのかな?


「キシシ。もしかして宮下は運営側と繋がっていたりしてネ。さり気なく時間を稼ぐように言われてるのかナ?」


「ユ、ユッキーたんは明らかにデスゲームに巻き込まれた回数が異常なんだな。運営側と繋がっていてもおかしくないんだな」


 皆が宮下さんに疑いの目を向ける。確かに一人だけデスゲームに参加した回数がぶっちぎりで多いのはいくらなんでも異常すぎる。


「や、やだなあ。別に企んでないよ。皆が休憩いらないって言うのなら、私はそれでいいよ」


 宮下さんの顔は笑ってはいるが、何か焦っているようでもあった。そして時計を見てまた溜息を一つついたのだった。


 宮下さんは何かを待っているの? それも時間に関する何かかな?


「まあ、先を急ごう。この部屋ですることはもうないみたいだしね」


 神原さんはそう言うと扉に手をかけて、先へと進んでいった。他の皆もそれに続く。しばらくすると部屋の中には私とタクちゃんだけになった。


「タクちゃん。私達も行こうか」


「なあ、ユリ……お前、宮下のことどう思う?」


「へ?」


 私は急に宮下さんの話題を振られて困った。宮下さんをどう思うかって? それはもちろん……


「男の人なのに無駄にキレイだなって思うよ! あんなにまつ毛が長いのずるい! 女子の私より長いし、私のまつ毛と交換して欲しい!」


「そういうことじゃない。あいつだけ最初のライフが二だったこと……そして時間を確認しすぎていること。これは何か意味があるはずなんだ」


 そうは言ってもデスゲーム経験者でない私にはピンとこない。時間を確認することがそんなに不自然なことなのかな?


「宮下の動向に気を付けた方がいい。奴は俺達が知らない情報を持っているかもしれない……否、もしかしたら俺達と変わらない情報量の方が最悪かもな」


「え? どういうこと?」


「俺達は全員同じタイミングでゲームを開始して、同じ説明を受けた。ということは現状、皆同じ程度の情報量しか持ってないはずだ。ただ、一つの情報を除いてな」


「ただ一つの情報……何のこと?」


 私はタクちゃんが何を言いたいのか理解出来なかった。デスゲーム初心者の私にもわかるように説明して欲しい。


「俺達がそれぞれ持っている違う情報。それは、スキルだ。スキルは個々によって違う。宮下は自分のスキルの情報を得てから時間を頻りに確認するようになった」


 言われて見れば確かに。控室にいた時に宮下さんは一度も時間を確認してなかった。それなのに、ゲームが始まってスキルの説明がされた後にはしつこいくらい時間を確認している。


「もしかしたらあいつのスキルはかなり強力なのかもしれないな。その反面、何かしらの時間の制約がある。後はライフも」


「ライフ……?」


「きっとアイツのライフだけ皆より少ないのはスキルが強力すぎるが故の処置だと思う。そのことがスキルの説明で書いてあったんだろう。だから、あいつはライフが少ない状況を受け入れた」


「た、確かに……普通だったら自分のライフだけ少なかったら文句言うよね? 命がかかってるんだから」


「まあ、今のはただの推論だけどな。外れているかもしれない。ただ、あいつのスキルが特別なのは確かだ。もしかしたら、それで俺らを出し抜こうとしているのかも」


「スキルで出し抜く? このゲームは協力型だよ。出し抜くなんてことあるの?」


 私の質問に対してタクちゃんは溜息をついた。え? 私何かおかしいこと言った?


「ユリはデスゲーム初心者だから知らないかもしれないけど、デスゲーム開催者が見たいものの一つが仲間同士の裏切りだ。協力型のゲームであってもそれは変わらない。全員で協力すればいい場面でも、裏切った方が得な条件を個人に提示すれば裏切る奴は出て来る。そういう奴を俺は何人も見てきた」


 タクちゃんは少し寂し気な表情を見せた。過去にあった嫌なことでも思い出しているのかな?


「囚人のジレンマって知っているか? 二人の囚人に仲間を売れば自分の刑期を短くすると伝える。仲間を売れば仲間の刑期は長くなるが、自分の刑期は短くなる。二人共仲間を売れば二人共刑期が伸びるというやつだ。全体の利益を考えたら、二人共仲間を売らないのが正解だ。だが、その正解に辿り着くのは困難だ。自分が仲間を売らなくても相手が自分を売る可能性があるからな。結局二人共仲間を売って二人共刑期が伸びる最も愚かな選択を取ることになる」


「宮下さんが私達を売る可能性があるっていうの?」


「ああ。可能性の話だ。あいつもデスゲームを多くやっている。人間をそう簡単には信じないだろうな」


 私は少し物悲しく感じた。折角、同じ境遇の仲間と協力してこのゲームを勝ち抜こうとしていたのに、そういう話をされると何を信じていいのか分からなくなる。


「ま、とにかく俺の言ったことはあんまり気にするなよ。外れている可能性もあるしな。とにかく皆の所に行こうか。あんまり遅いと不信がられるからな」


「うん」


 私達は扉を開き、次の部屋へと向かった。

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