第4話 第一ゲーム開始
私はジャクソンからもらったパッドを弄ってみた。どうやらこのパッドにはメモ帳機能というものがあるらしい。それを使って、一度皆の名前とデスゲーム経験回数をメモってみよう。ついでに判明しているスキルと特徴も偏見交じりでいれとこう……
吉行 ユリ(私)……0回 スキル:サイコメトリー
浅海 卓志(幼馴染)……10回 スキル:不明
鈴木 聖武(ホスト)……5回 スキル:不明
名取 加奈(キャバ嬢風)……6回 スキル:不明
和泉 雄一郎(オタク)……36回 スキル:不明
真白 杏子(三つ編み)……1回 スキル:不明
宮下 幸人(オカマ)……108回 スキル:不明
御岳 紋次郎(ヤクザ)……7回 スキル:不明
神原 知也(メシア)……14回 スキル:不明
死神(不吉な奴)……8回 スキル:不明
加賀美 大地(一番チビ)……12回 スキル:不明
能登 夢子(二番目にチビ)……9回 スキル:不明
平均……18回
平均値を超えているのが和泉さんと宮下さんしかいない。やはり平均値というものはアテにならないね。一人とんでもない人がいるだけで全体が押し上げられちゃうもの。
とにかく私が生き残るには、情報を事細かにまとめていくしかない。これが何かの手助けになるのかもしれないし……
「んで、これからどうするんだ?」
聖武さんが話を切り出した。
「とりあえずこの体育館から出るしかないんじゃない? はー……宮下を見た時にはまた殺し合いが出来ると思ったのに、とんだ肩透かしだナ」
加賀美さんがため息交じりでまた物騒なことを言い出した。この人が敵でなくて本当に良かったと思う。
「…………」
死神と呼ばれている人は相変わらず黙っている。会話にすら入る気がなさそうだ。
「加賀美ちゃんの言う通りにこの体育館から出た方がいいと思うよ。僕も彼の意見に賛成だ。行動しなかったら何も始まらない」
メシアこと神原さんがそう言う。彼が言うことならきっと間違いないだろう。何たって死者を一人も出してない人だからね。
私達は体育館の出口に向かった。その先に待ち受けている恐ろしいものがあるとは知らずに……
◇
体育館を出た私達。視界がぼやけてきて場面がいきなり変わる。一体何なの。ゲームの世界だからっていくらなんでも場面転換雑すぎない!?
しばらく暗闇の空間が続く。視界がハッキリした時には私は見知らぬ天井を見上げていた。この体勢は私は仰向けになって寝ているのだろうか。
あれ? 体が動かない。何かに縛られているみたいに……拘束している縄のようなものが私の体に食い込む。痛い。縛るならもっと優しくしてよ。私そういう趣味ないし!
ふと左右を見ると右側には名取さん。左側には真白さんも私と同じように仰向けに寝かされて拘束されていた。手術台のようなものの上に私達は置かれていて何だか嫌な予感がする。
「な、なに! どういうこと! なんでアタシが縛られてるの!? ちょっとどういうこと!? 責任者出てきなさい! 訴えてやるわ!」
名取さんが騒ぎ始めた。一方で真白さんはぶるぶると震えていて声も出せないようだ。
「うるせーな。静かにしろよ。まだ死んだわけじゃないだろ」
聖武さんの声が聞こえた。首が動く範囲で周りを見回すと、拘束された三人以外の皆は元気に突っ立っているようだ。何で私達だけ拘束されてるの……
「これは恐らくデスゲームの舞台装置なのだろう。だとしたらGMから指示があるまでは下手なことはしない方がいい。俺らはまだこのゲームのルールすらしらないのだからな」
タクちゃんが冷静にそう呟く。うぅ……タクちゃん。早く私を助けてよ。
砂嵐のような音がした後に、壁にかけられたモニターが付いた。そこには、ジャクソン・ラビットの姿が映されていた。さっき爆発したはずじゃ……
『やあやあ。皆様、最初の試練、救出ゲームをプレイして頂き誠にありがとうございます』
「そういうのはいいからさ、さっさとルール説明してくれないか?」
加賀美さんがやる気なさそうな声色でそう言った。この人まだ殺し合いじゃなかったことで萎えているんだ……
『ルールを説明します。この部屋のどこかに人質の拘束を解くためのカギがあります。それを探し出すのが今回のゲームです』
なんだカギさえ見つかれば私達は助かるんだ。デスゲーム経験者の皆なら楽勝でこの試練を突破出来るよね?
『制限時間は五分。それ以内に人質を救出出来なければ、人質に高圧電流を流して処刑します。ちなみに直流ではなくて、交流です』
なんで直流か交流かに拘ってるの……発明王エジソンなの?
『そして最後に大事なことがあります。カギは一つしかありませんが、カギを使用できる回数は二回までです。よって救出出来る人質は二人まで。残りの一人は電流を流されてライフを失います』
え? どういうこと……私達の三人の内の誰かが必ず犠牲になるってこと……?
『それではゲームを開始します。はい、よーい、スタート!』
デスゲームが始まった。五分以内に私達が救出されないと電流が流されれて死ぬ……私のライフは三つあるけど、こんな序盤で無駄にライフを減らしたくない。それに仮に復活出来たとしてもゲームの世界の中の話でも死ぬのは嫌だ。とっても怖い。
「あったよカギが!」
開始早々三十秒で神原さんがカギを見つけてくれた。流石メシアと呼ばれているだけのことはある。デスゲームに慣れている人が味方で本当に良かった。私は心からそう思った。
「カギを見つけたのはいいんだけどよぉ。誰を斬り捨てるか決めた方がええんじゃないか?」
御岳さんが冷徹なことを言う。この状況じゃ仕方ないんだけど、斬り捨てられる可能性のある人からするとあまりいい気分ではない。
「この中でライフを失ってもいい人~手上げて~ あ、そうか。拘束されているから手を上げられないんだった。ごめんごめん」
夢子ちゃんが空気を読まずにそう言った。仮に手を上げられる状況だとしても上げるわけない。これから先どんなデスゲームが待ち受けているのか知らないのに自分のライフを犠牲に出来る人が何処にいるんだ。
「ねえ、ナトリン。ナトリン」
「は? ナトリンってあたしのこと?」
「そだよー。ナトリンはさあ、ライフが六もあるわけじゃん? その分死ににくいわけじゃん? だったら自分が犠牲になろうって思わないの?」
夢子ちゃんが名取さんに対してとんでもないことを言い出した。確かに理屈の上ではそうかもしれない。名取さんだけ贔屓にされているのかライフが多いんだ。一つくらい減ったってそれでも皆に比べて好条件なんだから……
「絶対に嫌! このライフを差し出すくらいなら死んでやるわ!」
名取さんが本末転倒なことを言い出した。
「俺は名取は辞めといた方がいいと思う。こいつのライフが六なのはきっと意味がああることだ」
タクちゃんが名取さんを庇いだした。え? タクちゃん。私を庇ってくれないの?幼馴染だよね? 私達。
「それどころか、ここにいる全員を犠牲にするつもりはない。神原。カギを貸してくれ」
「あ、ああ。いいよ」
神原さんはタクちゃんにカギを手渡した。そしてタクちゃんは私の方に向かってくる。
「待ってろ。ユリ。今すぐ拘束を解いてやるからな」
「タクちゃんありがとう……」
そう言うとタクちゃんは私の拘束具を止めている錠にカギを差し込んで開錠してくれた。拘束から解き放たれた私はすぐに立ち上がり、伸びをして体の緊張を解す。
「き、きみは何をやってるんだな! 相談もなしに勝手に……」
「いいから黙って見ていろデブ」
「ぶひい」
和泉さんはタクちゃんに一蹴されて委縮してしまった。
タクちゃんが次に向かったのは名取さんの方だ。その光景を見た真白さんの顔が青ざめていく。自分が見捨てられると思って絶望しているのだろう。
「ほら、名取。拘束を解いてやったぞ」
「ふ、ふん。お礼くらいは言ってあげるわ。ありがとう」
名取さんの拘束を解いた瞬間にタクちゃんが持っているカギが弾けて消えた。二回使ったことでルール通り消えたのであろう。
「そ、そんな……ど、どうして私を見捨てて……」
真白さんが今にも泣きだしそうな表情をする。私は助かったけど、真白さんは見捨てられて可哀相に思う。
「誰が見捨てるって言った? お前も助けてやるよ」
そう言うとタクちゃんは真白さんに近づいていく。そして、拘束具の留め具に手を当てると、カチャリとした音と共に真白さんの拘束具が外れた。
「え? な、なんで……」
何で助かったのか不思議がる真白さん。私も何で真白さんが助かったのか気になる。
「運が良かったな真白。俺が味方でな……」
「ぶ、ぶひい、す、すごいです! 浅海たん! 三人共救出するなんて……一体どんな手を使ったんですか!?」
「さあな。お前らだってスキルを秘密にしてるんだろ? だったら、俺もお前らにスキルを教える義理はないな」
和泉さんの質問に対してそう答えるタクちゃん。タクちゃんのスキルが何なのかはわからないけど、タクちゃんがスキルを使って私達を助けてくれたのは間違いないことだった。
「ユリ……ちょっといいか?」
タクちゃんが私の耳元に近づいて囁く……
「俺の能力はメタモルフォーゼ。触った物に変身する能力だ。俺は爪の一部をカギに変身させて真白を助けた」
タクちゃんが私にスキルを教えてくれた。え? 何で私にスキルを教えてくれたの? スキルって秘密にしておいた方がいいもんじゃないの?
「何で教えた? って顔しているな。お前を信頼しているからだよ。ユリ」
私はそう言われて嬉しく思った。そっかー。私信頼されているんだ。あ、そうだ。タクちゃんのスキルも判明いたことだし、パッドのメモ機能を更新しておこう。
浅海 卓志(幼馴染)……10回 スキル:メタモルフォーゼ
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