第3話 デスゲーム経験者達
私の能力はサイコメトリー。物体に触った時にその物体の記憶を読み取ることが出来るみたい。でも一体どうやって使うんだろう……
「皆様自分の能力は確認したカナ? この能力は非常に重要なものだからよく覚えておいてね。他人に教えるのも隠し通すのも自由。自分の利益になると思った方の行動をとってね」
「GM。質問があるんだけどネ。デスゲームって具体的に何するノ?」
加賀美さんが質問した。それは私も気になっていたことだ。
「うーんとね。一言でいえばこちらの試練を皆様で協力してクリアすることかな? ちなみに皆様のスキルを上手く活用すれば必ずクリア出来るようにはなっているから安心してね。その解に辿り着けるかはキミ達次第だけどね」
ジャクソンは不気味に笑い出した。
「それでは、ぼくからは以上です。他に何か質問があれば今のうちにどうぞ」
「はい、ジャ糞ン。質問があんだけどさー。あたしさ、百万貰えるって聞いたからこのゲームに参加したわけ? それってどうなってんの?」
名取さんは命がかかっているこの状況でお金を優先すると言うのか。見た目通り逞しい女性だなあ。私はすっかり百万円のことを忘れてたよ。
「もちろん、ゲームクリアをすれば本人が報酬を貰えます。あ、ちなみにゲームオーバーになっても家族に百万は支払われるから安心して死んでいいよ。そこはちゃんとテストプレイに付き合ってくれたお礼をするよ」
「なーんだ。それなら安心した。こんなクソみたなゲームに付き合わされてタダとかやってらんねーし」
名取さんは自分の茶髪の髪の毛を弄り始めた。お金のこと以外興味ないのかな?
「あ、あの……このゲーム辞退することは出来るんですか? 私お金なんていりません! だからおうちに返してください」
真白さんが質問した。確かに辞退することが出来れば私もお金はいらない。お姉ちゃんの所に早く帰りたい。百万円は確かに魅力的だけど命を張ってまで欲しい額ではないし。
「辞退は出来ません。皆様はこのビルに入った時から既にゲームのコマなんだよ? コマが勝手にゲームの盤面外に出るなんて許されるわけないよね?」
ジャクソンの言葉に真白さんは目を見開いて絶望した表情を見せる。見た目通り儚げで弱そうな女性だなあ。
「よお。ウサギの兄ちゃんよ。質問があんだけどさ。このゲームは期限は決まっているのか? ワシも忙しい身でな。出来るだけ早い期間で終わらせたいんじゃが」
御岳さんが質問する。それに対してジャクソンは何やら考え込んでいるようだ。
「うーむ。期限については皆様が早めに試練をクリアしてくれれば早く終わるんだよね。でも、皆様が試練に手こずるようなら一年でも十年でも百年でもかかっちゃうかも……というのは冗談。遅くても二週間前後で終わる計算だよん」
「そうか……そんなにかかんのか……二週間で百万……やってられんな」
御岳さんはポツリと呟いた。
「他に質問がないようでしたら、そろそろぼくは失礼するよ。では、さらば」
そう言うとジャクソンは自爆してこの世から消え去ってしまった。全く何なんだあのぬいぐるみは。
「さて、改めて自己紹介しようか」
宮下さんが手をポンと叩いて場を仕切ろうとする。
「既に死神君の本名以外は全員知ってるけどね。私達はまだお互いに知らなきゃいけないことがあるでしょ?」
知らなきゃいけないこと? 一体なんだろう。
「皆のデスゲーム経験はどれくらいかしら?」
「デスゲーム経験? な、何言っているんですか? そんなの普通あるわけないじゃないですか」
全く宮下さんはおかしなことを言う人だ。まるでデスゲームが日常的に行われているかのようなことを言っている。
「あの……私一回だけあります」
真白さんが手を挙げて答えた。え? 真白さんデスゲーム経験あるの?
「その……私がやったのはリアル人狼ゲームでして、襲撃と処刑されたプレイヤーが本当に死んでしまうゲームでした……わ、私は運よく吊られも噛まれもしない位置で生き残れて……有能な味方陣営の人に助けられて生き延びることが出来ました」
「ま、真白さん何言っているんですか」
真白さんは大人しそうな容姿の女性だ。でなければ三つ編みなんかにしないだろう。そんな彼女が冗談を言うとは思えなかった。
「一回だけかー。見たことない顔だと思ったよ。でもデスゲームを生き延びるなんて凄いね。貴女素質あるよ」
宮下さんが真白さんの肩をぽんと叩いた。真白さんは何かをぶるぶると震えている。リアル人狼ゲームのことを思い出して恐怖で震えているのだろうか。それともこれから始まる新たなデスゲームに対する恐怖だろうか。
「ねえユリちゃん。貴女は多分経験がないのでしょう?」
「あ、当たり前じゃないですか!」
「そう。残念ね。ここにいる皆は既にデスゲーム経験があるの。私は貴女と杏子ちゃんと死神以外の全員と同じデスゲームをしたことがあるの。言わば顔見知りね」
衝撃的な事実だった。私以外の全員がデスゲーム経験者。というか、宮下さんここにいるほぼ全員とデスゲームしたことがあるってどんだけ経験があるんだろう。
「ふふ。私の経験数が気になる顔しているね。私が過去に経験した回数は百八回。私は百八のデスゲームを生き残った幸運の持ち主よ」
ひゃ、百八回? 想像していたよりも大分桁数が違っていた。
「そ、それって全然幸運じゃないですよ! 百八回もデスゲームに巻き込まれるなんて不運以外の何物でもないです!」
「そうかしら? それは物のとらえ方にもよるね。たった一回のデスゲームで命を落とす人に比べたら百八回も生き残るのは幸運だと思うけど」
確かに理屈の上ではそうだけど……
「ユリ。俺らが宮下を見て嫌がった理由がわかったか? こいつといると巻き込まれるんだよデスゲームに。こいつがデスゲームの常連だって界隈では有名だからな」
タクちゃんが私に宮下さんの真実を教えてくれた。ってか界隈って何!? デスゲームに界隈なんてあるの!?
「ってか、タクちゃんもデスゲーム経験者なの?」
「ああ。俺は十ゲームしている。そのいずれも全て黒幕をぶちのめしてやったからな。そこで付いた異名は黒幕殺しの浅海だ」
く、黒幕殺し……何か恰好いい。ってか、十回も十分凄い数字なはずなのに、宮下さんの経験数を聞いてからはあんまり凄くなく感じる。
「ぶふぉお。宮下たんが先に経験数を言うから皆の数字がショボく聞こえるようになっちゃったじゃないか。僕の三十六回だって十分凄い数字なんだぞ」
和泉さんが会話に割って入ってくる。三十六回!? こんなすぐ死にそうなオタクキャラなのにそんなに生き残ってるの? この人。
「ちなみにぼ、僕はどんな状況にも対応できる通称オールラウンダーと呼ばれているんだな」
それはどうでもいい。
「きゃーオールラウンダーなんて恰好いい素敵ー」
名取さんが両手を組んで和泉さんをよいしょしている。こんな見え透いたお世辞に引っかかる人はいるのだろうか。
「ふふん。それほどでもないですけどね。へへへへへ。名取たんに褒められて僕嬉しいです!」
見事なまでの鼻の下の伸びっぷりである。こんな単純なハニートラップにかかる人っているんだ……
「私ーまだデスゲームした回数って六回しかないんですよー。少ないですよねー? だから和泉さんに守ってもらえると嬉しいなー」
六回しかないって、十分多いでしょうが。街頭アンケートでデスゲームに巻き込まれた回数訊いてみろって言うんだ。殆どの人がゼロか一って答えるよ!
「そ、そうなんだ。か弱い女の子なんだね。ぼ、僕が守ってあげるからね」
「キャー頼もしー」
何なんだろうこの人達は……
「六回って十分多いっつーの」
聖武さんがまともなツッコミを入れてくれた。良かった。まだここにまともな感覚の人がいた。これが普通だよ。デスゲームなんて普通皆やらないよ。
「俺なんて五回しかやってねーっつーの」
この人も普通じゃなかった。
「ワシは七回だ。二桁三桁行ってるのに比べたら情けない数字だが、こちとらそっちの筋で生きてきた者だ。デスゲームとは比べ物にならないくらいの修羅場は潜ってるつもりだ」
ひえー。御岳さんってやっぱりそっちの筋の人だったんだ。顔が怖いと思ったー。
「俺はデスゲーム経験数は十二だ。参加者同士殺し合うゲームが好みかナ。今回は全員で協力するタイプだから殺し合い出来なくて残念だナ」
加賀美さんが物騒なこと言い出した。この人可愛い身長と顔して何言ってるの!? ナチュラルなシリアルキラーなの!?
「私は八回かなー。十回かなー。ドゥルルルル。なんとその間の九回でしたー!」
夢子ちゃんが一人で勝手にテンションを上げている。デスゲームに参加した回数ってこんなに盛り上がる要素あるの!?
「僕が過去に参加したデスゲームは十四ゲーム。そのいずれも死者数ゼロで押さえている。それ故か、皆僕のことをメシアと呼ぶんだ。救世主だなんて少し恥ずかしいけどね」
神原さんが頭を掻きながらそう言った。凄くいい情報を聞いた気がする。
「あれ? ってことはメシアの神原さんがいるなら、私達勝ちゲーじゃないですか? 死ぬ要素ありませんって」
私のその発言に真白さんの顔が明るくなった。しかし、他の皆はそうでなかった。皆の輪から外れているローブの男性を方を見てため息をついた。
「それがね。今回ばかりは僕のメシアの力でもどうなるかわからないんだ……だって、あのローブの彼は死神だからね」
「死神……?」
私は死神という言葉を聞いて不吉な予感を覚えた。明らかに穏やかじゃない仇名を付けられている彼は一体何者だろう。
「奴は死神と呼ばれている男だ。本名は不詳。奴のデスゲームに参加した回数は八回。そのいずれも自分以外全員死亡という恐ろしい経歴を持っている」
タクちゃんが淡々と情報を吐き出していく。
「え? 自分以外全員死亡……?」
私はその言葉を聞いて絶望した。そんな縁起の悪い人が同じ参加者だったなんて。
「私も運よく百八回のデスゲームで死神は避け続けてきたけど、今回でついに当たったの。死神は噂でしか聞いたことがなかったのに……」
宮下さんが絶望的な表情をした。それ程までに死神は恐ろしい人なのだろうか……
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