第15話 世界の大富豪『ゲーム対戦、ガール』


 「おーっほっほ。キッズ兄さん! 油断したわね。では次は私の番ね!」


 ウィリアムの娘がそう言って前に出てきた。


 「くっ・・・。あんなの・・・反則だよ・・・。」


 「負け惜しみはやめておくことね。キッズ兄さん。まあ、私が兄さんのカタキは取ってあげるわ。」






 「では、次はオレの娘、ガール・スーパーゲーマーがお相手しよう。テーマは『対戦パズルゲーム』だ!」


 「ははは・・・。なんでもよいぞ? あ! シヴァルツ様・・・どうしますか? 次も我が対戦しましょうか?」


 「吾輩が次はやろうではないか。様子を見ていて『芸夢』とやらのやり方も理解したのでな。」


 「さすがは、シヴァルツ様。では、おまかせ致すとしましょうぞ。」




 また今回も、ウィリアムの妻のクイーンが、『芸夢』の準備をしている。


 今回の『芸夢』は対戦パズルゲーム『パズル&ダンジョンマスター』通称『パズダン』である。


 パズルをクリアしながらダンジョンを下層へ早く進む対戦ゲームだ。

魔法や武器を取得してレベル上げをしながら敵へモンスター軍団を攻め込ませるダンジョンマスター的な視点もあり、ダンジョン作成もキーポイントになる複雑な戦略が必要なゲームである。


 吾輩はこの『芸夢』の説明書をひたすら読んでいた。




 「うむ。これって魔王城みたいだな。」


 「あ! そういえばそうですね。シヴァルツ様、やっぱ我が対戦したほうがよいのでは?」


 「ばかものめ! 貴様は勇者に破られておるではないか!?」


 「あ・・・そういえばそうでしたね。ではシヴァルツ様のお手並み拝見させていただきますぞ。」




 「がーっはっはっは! 迷宮最下層のゴーレムのごとく、どっかと腰を据えてそこで見てるがいいだろう。」


 そうこうしているうちに『芸夢』の準備も終わったようだ。


 小娘も位置についている。




 「お互いの『ダンジョンコア』を盗られた時点で決着とする。では、準備はいいか?」


 「ふむふむ。操作の手順はわかった。吾輩はこの『破壊神エッサホイサー』を選ぶとしよう。」


 「私はこの『マスター・ヴァンパイア・野スフェラ』を選ぶわ。」




 「では両者、位置について! レディー・・・ゴ―ーッ!!」


 ウィリアムがそうスタートの宣言をした!


 「じゃ、このアイテム『魔力増幅玉・パワーくん』を使うわ!」


 スタート直後から今度はガールが仕掛けてきた。


 さきほどの兄の失態を繰り返さない・・・そんな気迫も感じられる。




 「ほう。なるほど。魔力を増幅し、なにかモンスターを大量召喚する気であろうの?」


 「へえ。よくわかったわね。私の作戦を読んでいる・・・とでも言いたいの?」


 「なるほど。まあよい。仕掛けてくるが良い。」


 「ふーん。面白いわ。あなた。後悔しても遅いわよ?」





 ガール・スーパーゲーマーは少し興奮を覚えていた―。




 いつも対戦ゲームのほとんどで兄・キッズに負かされていて、もちろん父ウィリアムや母クイーンに勝ったことは一度もなかった。


 だが、この対戦パズルゲーム『パズル&ダンジョンマスター』通称『パズダン』だけは、兄キッズにも父ウィリアムにも母クイーンにも負けはしない。


 なぜなら、現世界チャンピオンはガールだったからだ。




 このゲームだけは絶対、負けない!


 ガールはそれほどこの『パズダン』にハマって熱中して腕を磨いていたのだ。


 世界ランカーの誰にも追随を許さないその圧倒的なプレイ。それはあらゆるパターン認識を覚え、またどのタイミングで何を育てて、いつ攻撃を仕掛け、いつ防御するかまでタイミングを読み切っていたのだ。兄キッズもさすがにここまでこの『パズダン』にこだわってはいない。私だけだ。私こそが世界ナンバーワンなのだ。




 そして、今、目の前のやつらはそんな兄をさきほど打ち負かした。


 そして、その仇討ちを私がやるのだ。この得意の『パズダン』で・・・である。


 兄キッズもさすがに私を見直すだろう。もちろん、父も母も・・・。私を振り返る。私を見直すのだ。


 興奮するのも無理からぬ事だった。




 「はい! 『マスター・ヴァンパイア・野スフェラ』の大技! 『吸血鬼爆誕』!! 喰らえ!」


 吸血鬼である『マスター・ヴァンパイア・野スフェラ』はその魔力が最大になった時、吸血鬼を大量に生み出すことができる。そして、一気に相手のダンジョンを攻め落としに行けるのだ! しかも不死身! そして、吸血した相手のガードモンスターを配下に加え、さらに吸血鬼軍団を増殖させるという無限増殖コンボ!


 これを最短で使うために最初に全ゴールドをはたいて、『魔力増幅玉・パワーくん』を購入しておいたのだ。


 『魔力増幅玉・パワーくん』を使うことによって、相手側のどんな攻撃もその魔力が溜まり切る前にこちらの『吸血鬼爆誕』が決まるのだ。


 この必殺攻撃を受けて、耐えきれるダンジョンマスターは・・・いない。




 「勝った! 第2ゲーム完っ!」


 ガールは勝利宣言をした。


 「果たしてそう上手くいくのかの?」


 「え!? あれ? 私の吸血軍団が・・・なにかにぶつかって止まってる? なに? なにが起きてるの?」







 「ふふふ・・・。吾輩が召喚した攻撃モンスターは、ティアマトだ。攻撃モンスターであるが、攻撃には向かわせず、この我輩の拠点で『防御』表示のまま待機させておいたのだよ。」


 「なんですって? 防御モンスターではなく・・・攻撃モンスターを防御待機させていたの? 攻撃させなきゃ役立たずじゃないの?」


 「だが・・・、勝手に貴様の攻撃モンスター『吸血軍団』が吾輩のティアマトに攻撃を仕掛けてくれておるのだ。」


 「だけど・・・。吸血鬼は不死身だし、吸血で配下に加えることができるはず!」




 「それは防御モンスターに限って・・・であるな。攻撃モンスター同士にはその吸血は適用されない。ほれ? さっき読んだ説明書にもそう書いてあったぞ?」


 「あ! そうだったわ。だけど、普通、相手陣地を守っているのは防御モンスター。攻撃モンスターは一目散に相手ダンジョンに向かっていくから・・・。」


 「そうだ。通常は攻撃モンスター同士が戦うことなどないのであろう? だが、吾輩は貴様の作戦を見切っていた!」


 「な・・・なんですって!?」


 「ふふふ。初代勇者めはそういう小賢しい技の持ち主であったからな・・・。吾輩も学んだのだよ。」




 「だけど・・・。だからといって私の『吸血軍団』が負けるわけが・・・。」


 「このティアマトというモンスターは魔力吸収のスキルを持っておるのだ。そして、魔力を吸い尽くされた吸血鬼はいったいどうなるか?」


 「あああ!! まさか!?」




 画面いっぱいを覆い尽くさんとしていたガールの攻撃モンスター『吸血軍団』が、どんどん消えていく。


 半分になり、また半分になり、またまた半分になり、そして数匹になり、最後の一匹になり・・・。


 今、その最後の吸血鬼もティアマトの魔力吸収にやられた。


 「あ・・・あぁ・・・そんな・・・私の無敵の『吸血軍団』が・・・。」




 「ふん。そして、今、吾輩の攻撃モンスター・ティアマトに攻撃の指示を与える!」


 「私の・・・防御モンスターは・・・もはや出せない・・・。最大の攻撃がかわされた今、もはや打つ手はないわ・・・。」


 「そうであるな。吾輩のこのティアマトは・・・膨大な魔力を備えておるぞ?」


 「ま・・・負けだわ。私の。」




 「ウィナー! シヴァルツ!」


 「ガールとやら。悪くなかったぞ。貴様の作戦もな。だが、吾輩はこの戦いの前にこの説明書をひたすら読み込み、貴様の作戦の裏をかいたのだよ。」


 第2ゲームの勝敗は破壊神に軍配が上がったのだ。





~続く~



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