第16話 世界の大富豪『クイーン登場』


 「あらあら。やっぱりガールにはまだまだだったようね。では次は私の番ね!」


 ウィリアムの妻クイーンがそう言って前に出てきた。


 「あーあ。パパやママ、兄さんを見返してやりたかったのにぃ!」


 「まあ。その心意気はいいわね。努力を続けるのよ。ガール。キッズもね。私がお手本を見せてあげるわ。」


 クイーンがそう言った。








 「では、次はオレの妻、クイーン・スーパーゲーマーがお相手しよう。テーマは『対戦サバイバルゲーム』、FPSのオンラインゲームだ!」


 「シヴァルツ様・・・次は我におまかせを!」


 「ラスマーキンよ。ではやるが良い。貴様に任せておけば安心と言えよう。」


 「シヴァルツ様。ありがたきお言葉。」




 今回はウィリアムとその子どもたちが、『芸夢』の準備をしている。


 今回の『芸夢』は対戦サバイバルゲーム『メイドインエリュシオン』はFPSのオンラインゲームである。


 自分の得意な機操兵を駆使し、ドローンも使いながら敵を殲滅すれば勝ちとなる。


 吾輩はこの『芸夢』の説明書を読み、おそらくは大魔王ラスマーキンが取るであろう作戦を考えついた。




 それは、大魔王のその探知能力により、殺意の方向線を読み切り、攻撃をかわし相手を攻撃するという作戦であろうなと。


 だが、これは『芸夢』である。その殺意が果たして機操兵のどの部分を攻撃してくるか・・・それはおそらく完璧に読むことはできまい。


 ラスマーキン、お手並み拝見といこうか。大魔王として君臨していたのは、その知略にもあるのだからな。




 「残念だけど・・・この『メイドインエリュシオン』で私に敵う相手は世界に存在しませんよ? あなた方がどこの出身かは知りませんが、覚悟なさい!」


 「ふふふ・・・『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり・・・』。どうぞ、遠慮なくかかってきてください。」


 ラスマーキンが不気味に笑う。




 吾輩の能力・すべてを看過する能力で、この芸夢の概要を見てみる。


 機操兵の装備タイプは、遠距離狙撃タイプ、近距離貫通タイプ、中距離散弾タイプ、中距離破壊力タイプの4タイプの攻撃型と、防御重視装甲とスピード重視装甲にバランス装甲の3つの防御装甲型の組み合わせになる。このタイプの組み合わせにより無数の作戦が有利不利と入り交じることとなる。


 そこに、ドローン操作が加わってくる。無人の援護ドローンとして、やはり上記の組み合わせタイプに、さらに待受け型と特攻型、隠密型、硬鎧型、撹乱型の5タイプがあり、その相性によってさまざまな作戦が組まれることとなる。



 




 例えば、遠距離狙撃タイプ&スピード重視装甲の機操兵に、その相棒のドローンが中距離散弾タイプ&防御重視装甲で錯乱型であれば、ドローンの攻撃を前面に押し進め、敵の位置を補足し、自身の操る機操兵が遠距離から狙撃し敵を討つという作戦が最も効率が良いであろう。


 それに対する相手方がどのタイプかによっては、作戦のウラを取られ不利となったり、逆に作戦にきっちりハマり有利となったりする。


 この相手のタイプの読み合いも必須となるであろうことは推察される、高度な読み合いが不可欠の戦いだ。




 「準備はいいか? クイーン、ラスマーキンよ。」


 「私は決まったわ。」


 「我も準備は完了した。」




 「では両者、位置について! レディー・・・ゴ―ーッ!!」


 ウィリアムがそうスタートの宣言をした瞬間!


 目の前のリアルスクリーン、立体ビジョンのゲーム画面で、ラスマーキンの機操兵とクイーンの機操兵がお互いの陣地から、相手方陣地へどんどん進んでいく。


 お互いのドローン兵も別れて二手に分かれそれぞれ進んでいく。




 クイーンは、相手方ラスマーキンの陣地との間にある森林地帯で、自らの機操兵を隠れさせる。お互いの陣地との間で必ずここを通るであろうと読んでいた。


 普通の作戦ならドローンを攻め込ませ、自身の機操兵は待受ける作戦がよいであろう。


 だがしかし、クイーンは相手の望外の攻撃をすることに長けていた。


 待ち受けるのはドローンのほうで待受型なのだ。そして、近距離貫通タイプ&スピード重視装甲である。待ち受けた場所から一気に距離を詰め、一撃破壊する。


 そして、陽動こそ自身の機操兵が行うのだ。中距離散弾タイプ&防御重視装甲だ。そう簡単に補足されたり、倒されたりはしない。




 クイーンは早くもラスマーキンのドローン兵を発見した。なんと、ラスマーキンのドローン兵は防御重視装甲だ。


 「ちっ。散弾攻撃じゃ、効かないか。だけど、機操兵はその後方・・・にいるはず。相手方、補足!」


 「ふふふ。どうしました? 逃げるだけが作戦ですか?」


 ラスマーキンのドローン兵がその中距離破壊力型の攻撃を繰り出す。




 「ふふ。いったん退却だわ。立て直すわ。」


 「させませんよ! このまま一気に貴様を攻め落とすとしよう。」


 ラスマーキンのドローン兵がどんどんクイーンの機操兵を追っていく。


 そして、あらかじめクイーンのドローン兵が伏せてある地点をも通り越して、攻め込む。


 まだ、クイーンのドローン兵は伏せたまま隠れている。


 後から来るであろうラスマーキンの機操兵を仕留めるためだ。ここまでは、クイーンの読みどおりというわけだ。




 「一気に行かせてもらうぞ!? クイーンよ!」


 ラスマーキンのドローン兵がクイーンの機操兵を追い詰めた・・・かに見えた。


 だが、なんとクイーンはそこで、機操兵をスタート地点に戻した。そして、機操兵とドローン兵の操作を切り替えた!


 つまり、さっきまで伏せていたドローン兵が機操兵となり、スタート地点に戻り、待ち構えているのがドローン兵となったのだ。




 「どうだ! そして! おまえの機操兵はすぐそこにいるんだろう?」


 そう言って、伏せていた機操兵を起動させ、スピード重視でそのさきの森林地帯へ攻め込む。


 そこに・・・いた! ラスマーキンの機操兵だ!




 「もらった!! この攻撃で貫通だ! 防御重視装甲でもこれは耐えられない!」


 「な・・・なんだと!?」


 ラスマーキンも思わず声を漏らした。ラスマーキンの機操兵が・・・殺られる!!




 

 バアアアァアアァアアアーーーーーンッ!!


 一撃!!


 一撃必中の攻撃が、先にラスマーキンの機操兵から発せられ、クイーンの機操兵の装甲を吹き飛ばした!




 ラスマーキンの機操兵のタイプは、遠距離狙撃タイプ&スピード重視装甲だったのだ。


 しかも、動きながら攻め込もうとしていたかに思えたラスマーキンは、実はそこで待ち構えていたのだ。


 なぜ? ここで襲撃が来ることを完全に読んでいなければ、クイーンの急襲に対応することはできず、殺られていたはず。




 しかもスピード重視装甲でなければ、対応は間に合わなかったであろうし、遠距離狙撃タイプで無ければ、先に攻撃を食らわされていたのはラスマーキンのほうだったろう。


 「我の勝ちのようだな・・・。貴様がここで襲撃をしてくることは、読めていたのだ。」


 「まさか! この『メイドインエリュシオン』で待ち伏せの相手の場所がわかるわけがない!」


 「だが、貴様はここで待ち受けていたのは事実。我はそれを逆手に取ったというわけだ。」


 「くっ・・・。私の負けだわ。読み合いで負けたのは、初めてだわ。」





 吾輩は、思わず叫びそうになったわ・・・。


 イカサマではないか!! ・・・とな。


 なぜなら、ラスマーキンの操作しているコントローラーのまわりを怪しげな影がうごめいたのを見逃さなかったからだ。




 あれは、魔界の魔物・・・『魔影獏魚』だろう。さっき、ラスマーキンのヤツが唱えた呪文は、悪魔召喚の呪文・・・『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり・・・』。


 それによって呼び出された『魔影獏魚』は情報収集の魔物。どこへでも忍び込み、情報を収集する。


 おそらく、この『芸夢』のシステム自体に忍び込み、その操作された情報をラスマーキンに伝えたのであろう。


 最初から、仕組んでいたのだ・・・。ラスマーキンめ。さすがはずる賢い大魔王・・・プライドという文字はヤツに存在しないのであろう。


 バレなきゃイカサマではないのだ。恐るべし・・・大魔王。





 いずれにしても、吾輩たちは3連勝したのであった―。




~続く~



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