第7話 世界の大富豪『大富豪ジェシー・イーグルス』


 「その富める者達はどこにいるんだ?」


 「え? そうだね、ほとんどがIT企業だから、アメージングリッチ連邦国の、『シリコン・マイン』(シリコン鉱山)と呼ばれる地域に住んでいると思うよ。」


 「ふむふむ、世界の地図が、こうなっておるのか・・・。吾輩達がいるのはどこだ?」






 「うん、この辺りだよ。このジャポン(邪馬本)国の首都『トキエド』(東帰穢土)のこの辺り、下層民区だよ。」


 「ほう・・・なるほどの。わかったわ。では、参るか? 大魔王よ。」


 「御意!」




 「我輩達は出かけてくるぞ。ナノカよ。世の中の貧困とやらをぶっ壊してくるぞ。」


 「うん! がんばって! 司馬おじちゃん!!」


 「カラガよ、我はシヴァルツ様と共に行く。我が新しい魔族『家族』の繁栄を約束しよう。」


 「お・・・おぅ・・・。がんばれよ・・・。」




 こうして、吾輩とラスマーキンは外に出て、さっそく、この世界で最も富める者達が住まうというシリコン・マインへ行くことにした。


 「では、転移魔法『ヒラケゴマ』!!」


 大魔王ラスマーキンが呪文を唱えると、目の前に闇の扉が現れた。


 「では、行きましょうぞ。シヴァルツ様。」


 「うむ。」




 転移門をくぐると、そこは突き抜けるような青空に、爽やかな風が吹く、白い建物が鮮やかにきれいな街であった。


 そして、転移門が閉じる。


 「ふむ、ここが、『シリコン・マイン』と呼ばれる街であるな。」


 「ええ、そうですね。あ、ほら、カラガ達のような種族ではないようですね。肌の色が白かったり黒かったり、明らかに別種族のようです。シヴァルツ様。」




 転移で出た辺りは、閑静な住宅街で、『トキエド』では朝早かったが、ここ『シリコン・マイン』では、太陽が真上からやや傾き始めたくらいの時間、お昼すぎであった。


 「ほう、時間の流れが違うのか? こちらはもう昼間になっておるな?」


 「は! 恐れながら、先程、この世界は球体であると地図より確認しております。つまり、あの天の光源・太陽はこの球体のまわりを回っておると思いますぞ。」


 「む・・・! ラスマーキンよ。いつのまにそんなところを確認しておったのじゃ? さすがは魔界の覇者であるな? 油断もすきもあったもんではないな?」




 「いえいえ、破壊神様こそ。さすがと言いますか、すぐに時間の流れが違うと推測されしその頭脳明晰さ。神のごとし・・・あ、神様でありましたな・・・。」


 そう言って、我輩達はお互いを見ながら、大笑いした。魔族ジョークだな。


 「かーっかっかっかっかーーっ!!」


 あたりの人々が我輩達を見て、奇異な目をしている。




 「では、我が探索魔法『ゴカジョウノゴセイモン』!! ジェシー・イーグルスの居場所をここに現せ!!」


 大魔王ラスマーキンが呪文を唱えると、目の前の空間に、映像が浮かび始めた。


 そこには一人の女性が映し出される。一見して奇抜な服装、そして、色とりどりのヘアスタイル、身長は人間の雌にしては高く、吾輩の第一形態と同じくらいはあった。




 「シヴァルツ様! この者の生命波動を特定しましたぞ。転移魔法ですぐ向かいますか?」


 「うむ、昔から、急がば破壊って言うからな。はよ、行くか。」


 「御意!」




 そして、またラスマーキンは転移魔法を唱えた。


 「転移魔法『ヒラケゴマ』!!」


 すると、また我輩達の目の前に闇の転移門が出現した。


 そして、再び、転移門をくぐる。




 その場に居た人たちは、変な格好をした二人組が、消えたことに驚き、ざわざわしていたのだが、そんなことには全くお構いなしの二人であった。


 「OH!! アメージング!!」


 「イッツ・アンビリーバブー!!」


 「ワッ・ハプン!? インクレディブル!!」


 そう口々に叫び、その後、おそらく彼らはマジシャンであったんだろうと結論づけられたのであった。








 ところかわって、ジェシー・イーグルスの邸宅では―。


 その場所はアメージングリッチ連邦国の西海岸・カルーアリキュア州のシリコン・マイン地区でも高台に位置する、絶景が見られる場所に建てられており、

その敷地面積は、『トキエド・ドーム』5個分にもなる広さであった。


 その真中に、彼女らしい趣味の、ファッショナブルでカラフルでヘンテコな建物が建っており、

その一部は金属、一部は石造り、一部は木造、そして、中に自然のバンブー(竹林)があった。




 その三階部分の、彼女の仕事部屋では、彼女がその会社に出勤しなくても、衛星中継システムが常備作動しており、全世界の支社にダイレクトで指示が出せるようになっていた。


 秘書のセクレターゼ・タリーナは、彼女の会社『アマゾネシア』の創業者にしてCEOのジェシー・イーグルスをその目に捉えながら、世界中の支社から送られてくる情報を分析し、ジェシーに伝える役割を果たす。

 ジェシーはスキンヘッドで奇抜なファッション(七色のドレス)を身にまとい、てきぱきと指示を出していた。


 そして、セクレターゼはその隣の部屋で、世界中から送られてきたデータの処理をしていたところだった。

だから、ガラス張りで、クリアな隣の部屋のジェシーの姿を本当にたった一瞬だけ目を離しただけだったのだ。




 しかし、その一瞬でジェシー・イーグルスその人の姿が消えたのだ・・・。


 「何!? ジェシー!? どこへ行ったの??」


 思わず、口に出すセクレターゼだったが、そのガラス張りのコントロールルームに彼女の上司であるジェシーの姿は見えなかったのだ。


 「ワッ・ハプン??」


 またしても、理解が追いつかない秘書セクレターゼは、しばらく呆然としていたのだった・・・。








 ジェシー・イーグルスは、いつも考えていた。


 この世のすべてを、『美』で包み込みたい・・・。


 彼女は彼女が立ち上げた会社『アマゾネシア』がその当初の美容部門だけでなく、世界の物販、物流・ネット通販・美容外科を事実上支配することになっても、

その理念は変わらず持ち続けていた。


 ・・・美しくあれ。それだけが彼女の行動理念だった。




 たとえ、彼女自身の資産が世界一になり、資産総額が1300ビリオンダラー(約14兆円)を超えても・・・。


 美のため、ただそれだけでここまで来たのだ。


 そして、今日も世界中に『美』を届けるために、彼女は自宅にある仕事部屋、通称『コントロールルーム』から全世界に指示を出す。


 彼女の部屋は全面ガラス張りでスケルトンルームになっていて、邸宅のどの部屋から見てもコントロールルームのジェシーが見えるように設計されていた。






 ジェシーのこだわりであり、すべての従業員は『美』の前に平等であり、姿・形を見せ合い、切磋琢磨することが向上の基礎であると考えていたのだ。


 ゆえに、今も、隣の部屋の彼女の秘書・セクレターゼ・タリーナがその美しい笑顔を見せて微笑み、

全世界の『アマゾネシア』の支社から送られてきたデータを処理し、簡潔にまとめた文書をジェシーのパソコンに送信したと合図してきたところだった。





 ジェシーもセクレターゼにほほえみ返し、その文書に目を通す―。


 アジアン・ビューティの波が来ている・・・。ジェシーは直感で文書の情報から感じ取った。


 今度は、ジャポンのトキエド支店からアジアン・エリアにその物流部門を広げ、アジアン・ビューティの波に乗らなければいけない。


 『美』の神様は前髪しかないのだ・・・。うしろ髪が引かれる思いをしてももう遅いのだ。




 と、そんな思考を巡らせていたほんの一瞬だったのだ。


 ジェシーがまわりから目を離したのは―。


 ふと顔を上げたジェシーは、まわりが今までの透き通った空間だったのが、暗黒の空間になっていることにきづいた。

それでいて、ジェシーのいる辺りだけがさきほどと変わりなく明るいままであった。





 しかし、その目の前には、どこから現れたのか・・・二人の異様な出で立ちの男たちが立っていたのだ。


 「ふむ・・・。貴様がジェシー・イーグルスか? 世界一の富める者よ! 吾輩は最強破壊神・シヴァルツ・シヴァイスである!」


 「我は偉大なる破壊神様の使徒・大魔王ラスマーキンである!」


 その二人の侵入者達が名乗りを挙げたのは、ジェシーが気づいたその直後、間髪入れずのタイミングだった・・・。




~続く~



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