第20節 -追想の入口-

 全員で夕食を取った後はいつも通りの自由行動だ。玲那斗は個室に戻って一人考えを巡らせていた。今日、城塞跡から離れた位置にあるあの尖塔で出会った少女の姿を思い返す。少女は自分の名前を知っており、突然あの場所に現れて唐突に消えた。何もかも常識では考えられない事ばかりだ。

 念の為に録画デバイスに記録された映像を見返してみるが肝心なところは全て真っ白な画面になっており焼き付いたように何も見えない。音声も雑音ばかりで何も録音されていないに等しい。ただ最初の一言だけはかろうじて聞き取ることが出来る。


“来てくれたのね”


 何もかもが異常であるにも関わらず、その声を聞くと不思議と心が落ち着くような気がした。

「あれは、夢だったのだろうか。」そう呟き軽く目を閉じる。

 現実に起きたことは間違いない。デバイスに記録された音声からも疑いようのない事実だ。しかし、それを現実と受け止め理解することについては自身の頭がまだ追い付かない。


 再び目を開け個室の灯りを見つめる。明日、あの場所に行けば再び会う事が出来るのだろうか。彼女に会えたとして何を話すのだろう。仮にあの少女がこの島の周辺で起きている出来事の鍵を握っているとすれば、きちんと向き合って対話できれば何かが変わるかもしれない。

 そんな事を考えている内に玲那斗は急な眠気に襲われた。自分の意思とは関係なく意識が遠のいていく。目を閉じる瞬間、あの時と同じ甘い花のような香りを感じ、とても暖かいものに包まれたような奇妙な感覚を覚えながら玲那斗は眠りに堕ちていった。

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