第19節 -中央広場-

 昼食休憩を終えて城塞跡から一行は島の中心部へと向かっていた。両脇を木々に囲まれた山道だが、路面は平坦で荒れているところは無くバランススクーターでの移動が継続出来ている。

「間もなく指定座標に到達します。この先が中央広場です。」ルーカスが報告をする。そして間もなく周囲を覆っていた木々が途絶え円形の広場へと一行は辿り着いた。


 広場に差し込む太陽の光が眩しく感じる。ここに続く道中では常に周囲を木々が覆っていた為、辺りは少し暗かったが、この広場は空と地上を遮る木々が無く太陽の光が柔らかく差し込んでいる。

 眩しさに目が慣れるのと同時に四人は周囲を見渡す。中央に石碑のようなものがある以外、これといって変わった様子のものはない。直径五十メートルほどの円形の広場だ。


「変わったものは特に無いな。あるのは中央の石碑だけか。とにかく行ってみよう。」ブライアンの言葉に皆が続く。一行はバランススクーターから降りて広場入り口の脇に置き、それぞれが歩いて中央へ向かう。

「この島はどこも静かですが、ここはそれ以上に…まるで現実から隔離されて別の場所にいるかのように感じます。」ふとフロリアンが言う。

 ここに来る途中まで聞こえていた風が生み出す木々のさざめきも聞こえない。透き通る太陽の光が広場に差し込み空間を照らし出す。今、この地球上には自分達四人しかいないのではないかと思えるほどの静寂。まるで時間という概念が途絶えてしまっているかのような場所に今自分たちは立っている。発する言葉も空間に吸い込まれるように遠くへ離れていくように感じられる。


 少し歩いて四人は中央の石碑らしきものに辿り着いた。五十センチメートルほどの高さの小さな石碑がそこにはあった。石の表面はとても滑らかで綺麗に整っており、無人島で長い時間が経過したとは思えないほど保存状態は良い。そしてその石碑に記されたものを見たルーカスが驚嘆の声をあげた。

「そんな、地形データ採集の時にトリニティから確認した限りでは文字なんて確認できなかったのに!」

 上空からの撮影では確認できなかった文字が確かに石碑には刻まれている。何も記されていなかったことはその場の全員がベースでの会議において確認をしている。記された文字は、まるでつい先ほどそこに表れたかのようだった。文字の細部に至るまで確認できるほど精密に記されている。

「見たことない言語だ。解読出来るか?」ブライアンがルーカスに確認する。

「すぐに該当する言語が無いか検索をかけます。」そう言うとルーカスはヘルメスのカメラを起動し石碑の文字全体の読み取りを始めた。読み取られたデータは即座にプロヴィデンスへ送信され一致する該当言語がデータベースに無いか確認が行われる。


― データスキャン プロヴィデンスよりライブラリ参照

― 該当言語を検索中…

― 言語の特定を完了しました

― 精査 … 翻訳を開始します


 端末から無機質な音声が響く。どうやらデータベースに存在する言語のようだ。該当する言語を発見したらしい。


― データ補正 翻訳完了 ファイルを表示します


 そして翻訳された画像が端末から石碑の少し上にホログラムで表示された。



“ 誓いをもってこの地に立つ者は 私が愛すべき者である ”

“ 微睡みに沈みゆく者にとって 刻の流れは永久に等しく同じである ”



 翻訳された文章を見たブライアンが第一声を上げる。

「何かのメッセージか。しかしこれだけでは読み解くのは難しいな。」

「そうですね。この内容は一体どのような意味でここに刻まれたのでしょう。」ブライアンの言葉にルーカスが答える。フロリアンはその意味を考えようとしたらしいが、すぐに諦めた様子だった。

「玲那斗。何か気付いたことや感じたことはないか?」

「いえ、自分にも分かりません。」ブライアンの問いかけに答えを探そうとした玲那斗だったが、どう考えても答えは出なかった。

 数日前は存在しなかった文字。城塞跡地で出会った少女と、その時機材に起きた異常。少女が身に着けていた石。様々な事が頭の中を駆け巡りうまく考えをまとめる事が出来ない。

「これをわざわざ刻んだ者がいるとすれば、おそらくその人物は何かに気付いて欲しいと思ってこれを刻んだはずだ。この石碑の他にも何かあるかもしれない。念の為この広場をみんなで手分けして調査しよう。一時間ほど調査したらベースへ戻り調査結果をまとめることにする。変わったことがあればすぐに報告をするように。」ブライアンの指示により四人は四方へ散らばり何か他に調査の手がかりになりそうなものはないかを探し始めた。


 それから一時間ほど広場の調査をしたが、特に新しいものを発見することは出来なかった。唯一、その広場を北へ通り抜けた先に何か建造物があった跡らしき小さな空き地が見つかったが、それ以上のものは何も無く、石碑に記された文字だけが中央広場での収穫であった。城塞跡地で出会った少女が何者なのか、この島周辺で起こる現象とどこまで関係しているのかなど不明な点も多く、現在までの情報だけでは問題解決に至ることは出来そうにない。四人は石碑がある中央広場からベースへと戻った後に改めてそれらの情報を調査結果としてまとめ、翌日に城塞跡の再調査の実施を行う事を決定した。

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