第15節 -星の城と約束の塔-

 島に上陸して二日目は前日の会議での決定通り、全員がそれぞれの持ち場を調査した。ルーカスは城塞跡と中央広場へのルート確認を、フロリアンは大気状況の調査を、ブライアンと玲那斗は海岸の調査を行った。

 その日の調査では城塞跡と中央広場へのルートに問題が無い事や周囲には他に調査対象となりそうな特筆すべきものは見られなかった事、また移動にかかる実時間の測定が出来た事を始めとして、大気状況には前日に調査した結果と比較して目立った変化が無かった事、海岸では異常と見られるような結果は何も出なかった事が判明。城塞跡地と中央広場では変わらず磁場の乱れが起きている事が確認出来たが、機構が持つ機材や人体には影響を及ぼす事はないものと判定された。

 また、現地より五キロメートル離れた座標に浮かぶ “存在しない島” についてはトリニティでの探査結果、当該ポイントではただの海面が広がるばかりで何も見受けられず問題解決に繋がりそうな情報は皆無であった。


 夜に再び四人で報告及び会議を行い、翌日に本格的に城塞跡と中央広場を調査することを決定。その後は夕食を取り各自が部屋で就寝、三日目の朝に至る。


 翌日、各自が支度をして朝食を終えた後、昨夕の会議を元にした城塞跡と中央広場の調査計画をまとめ、一行は島の中央部へと向かっていた。

 三日目である今日、いよいよ現地調査を行う予定だ。ルーカスの確認により道中に障害となるものなどが無いと確認できた為、荷物運搬は自走追随型ドローンに任せ、各自が機構の調査用に調整が施されたバランススクーターを使用し目的地へと移動中である。

 出発してからおよそ一時間。特に障害になるようなものもなく、完璧にルーカスの調査通りの道筋で進むことが出来ている。もう間もなく件の城塞跡に到着するだろう。


「もうそろそろ第一の目的地へ到着だな。」ブライアンの言葉に他の三人も身を引き締める。城塞跡から少し離れた位置に尖塔が見える。城があった時代の名残だろうか。

「間もなく第一の目的地に出ます。」ルーカスの言葉通り、すぐに大きな広場へと出た。一行はスクーターを止め辺りの様子を確認する。目の前の広大な土地には城塞と思われる建物の名残がいくらか残っており、現代の建築でいうところの三階建てに相当する建物であったことが窺える。上部の損壊が激しく、レクイエム戦争の折におそらく投石機での攻撃により崩落したものだろう。建物や城門など打ち壊されたと思われる個所を除き、長い年月を海風の影響も受けていたであろうにも関わらず保存状態は良い。

「特に変わった様子は見受けられません。無人島なので当然ではありますが、しかしここまで静かだとそれが変わったことのようにも思えます。」フロリアンの言うとおりだ。島へ上陸してからの静けさに慣れてしまっているからか、もはや気に留める事すらなくなっていたが野生動物すらいないというのはやはり違和感がある。聞こえてくるのは風が通り過ぎる音と、その風によって辺りの植物が揺れる葉擦れの音だけ。一通り周囲を見回した後にブライアンが計画通り指示を出す。


「では調査を開始する。四人それぞれが別々の場所を調査する方式を取ることにして、二時間後に現在地へ集合することにしよう。全員、ヘルメスに異常は無いな。特に変わったことがあればすぐに通信を入れるように。」

「自分はあの尖塔がある方角を中心に見て回りたいのですが。」玲那斗は先日の夢が気になっていた。 ”約束の塔” それが何を示すものかは分からない。しかし、この地において【塔】と呼べるものに心当たりがあるとすれば今目の前に見えるあの尖塔をおいて他に無い。

「良いだろう。玲那斗は尖塔の方角を。ルーカスは左方向へ。フロリアンは右方向。俺は中央を中心に調べる事にしよう。」全員が同意をする。

「決まりだな。ルーカス、偵察型小型ドローンで建物内部のデータ採集も頼みたい。出来るか?」

「可能です。撮影したデータを元に合成できるようプログラムしたものを飛行させておきましょう。」ルーカスがブライアンの言葉に応じる。

「助かる。あと運搬ドローンを監視モードへ変更しておいてくれ。この島に俺たち以外は何もいないのは分かるが、念の為だ。ではこれより調査を開始する。各自の位置もヘルメスで随時確認するように。」

 全員が頷き、それぞれの持ち場へと散っていった。いよいよ調査開始だ。玲那斗は尖塔の方角へまっすぐ向かった。

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