第14節 -少女の声-

 夕食を済ませ、ベース内での自由行動となった後、玲那斗は個室で隊長からヘルメスへ転送された資料に目を通すことにした。端末の生体認証を終えて資料データの読み込みを開始する。


― データ参照 歴史項目【リナリア公国】 ファイル確認 追加データが存在します

― 当該データの一部は機密指定されています シャドウファイルを検索

― 権限:ジョシュア・ブライアン大尉により付与確認

― 使用者:姫埜 玲那斗 少尉 機密データロック アンプロテクト

― 全データの閲覧権限を確認しました データの展開を開始します

― 全データの展開を確認 取り扱いには十分注意をしてください


 ヘルメスに表示されたデータを順に目で追っていく。


 リナリア公国。他国との交易により栄えた国。領土拡大戦争レクイエムの戦火によって消滅したとされる。当時の君主であるガルシア公が統治していた西暦1035年に他国の侵略と海賊による襲撃を受け崩壊。ガルシア公含む王家は王妃である妻と娘、使用人を含む全員がその戦火により死亡したと推定されている。公国崩壊後から今に至るまでリナリア島を領土としている国は無い。

 この辺りまでは今までも閲覧できていた情報だ。続いて追加項目を読み進めていく。追加項目の中にも気になる内容は含まれてはいなかった。次にリナリア公国の国章として使用されていたという画像データに目を留める。


 花のような紋章。画像データを確認した玲那斗は改めて隊長が話してくれた言葉を思い返した。


「公国の紋章は確かに俺が持っている石の模様に似ている。ただの偶然か、それとも。」

 自分の持つ石を手に取りかざしてみた後、改めてヘルメスに表示されている紋章を見ると、その右側部分と全く同じ模様だという事が見て取れる。とても偶然とは言い難い。自分の持つこの石と歴史に何か関係があるのか、それとも自分自身と何か関係があるのか。なぜ今回の調査において自分の同行が絶対条件に指定されていたのか。もし、仮にこの石の存在だけが重要だったならばそれだけを利用することも考えられたはずだ。自分にはこれらの情報に対して思い当たる接点は浮かばない。


 頭の中で答えの無い疑問を考え続ける。いくら考えても結論がでるわけではないが、考えずにはいられない。

 自分がここに来ることは必然だったのか、それとも偶然だったのか。必然だったのならばそこにはどんな意味があるのか。自分はここで何をすべきなのか。目を閉じて深呼吸をする。


 この地に来てから自分には探すべきものがあると心の中で感じてはいるが、具体的に見つけるべきものが分からない。深く深呼吸をした後に溜め息をつく。

「きっと明日からの調査ではっきりするさ。」そう自らに言い聞かせて玲那斗は簡易式のベッドに潜りこんだ。

「明日からが本番だ。早めに休むことにしよう。」

 そして玲那斗は眠りについた。



 深夜、ふと目が覚める。誰かが呼ぶ声が聞こえた気がした。

「気のせいか…」そう思った時、はっきりと自分を呼ぶ声が聞こえた。


“レナト、私の愛する人。ようやく貴方に逢える。”


周囲に人がいるようには感じられない。女性の声。微睡みの中で夢を見ているのだろうか。言葉ははっきりと聞き取れるが意味が呑み込めない。


「誰かいるのか?」小声でつぶやく。


“レナト、約束の塔に来て。私はそこで待っています。あの時からずっと。”


その言葉を最後に声は聞こえなくなった。微かに花のような甘い匂いを感じた気がした。

「あの時?約束の塔?」今のは幻聴だろうか。夢を見ていたのだろうか。なぜか思考がまとまらない。ぼんやり視界に映る景色が現実なのか夢なのかも定かではない。そのまま、また眠りの世界へと堕ちていく。



 赤黒い炎が見える。どこかの建物の中、一面を炎が覆う地獄のような光景の中に一人の少女が横たわっている姿が見えた。その姿を自分は俯瞰している。とっさにその子へ手を伸ばそうとした刹那、玲那斗ははっと目を覚ました。起床時刻だ。

「夢…か。珍しいな。」思った以上に疲れているのだろうか。起き上がって支度を始める。いよいよ今日から本格的な調査の始まりだ。

「約束の塔か。」あの声が言っていた言葉が気になった。調査が進めばわかるのだろうか。身支度を整えて玲那斗は集合場所である会議室へ向かった。


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