第7節 -少女の追憶-

 島の丘の上では一人の少女が太陽の光を反射し金色に輝く髪を海風になびかせながら遠くを見つめていた。


“あの人が来た”


 少女はその懐かしく愛おしい感覚を心に抱いていた。あの人が近づいていると感じた時に胸にこみ上げてきた感情は、とても言葉では言い表せない。長い時を待った。待ち続けた。その長さはおよそ肉体を持つ人間の寿命では計りきることなど出来はしないだろう。


 時を遡る事千年前。その躰が炎に焼き尽くされた後の事だ。気が付くと彼女はこの島のある場所に立っていた。その時、彼女は自身の存在が既にこの世のものではないという事を悟る。

 島の内部では、あの最後の日と同じように絶えず争う人々で溢れている。それはいつになっても終わる気配は無い。どこでこの世界は間違ってしまったのだろう。それとも最初から間違っていたのだろうか。その光景を見て彼女はただ祈る。ただ願う。その命が果てる瞬間と同じように。

 醜い争い。自身の大切なものが育まれたこの地をそんな事の為に穢される事は彼女にとって何よりも苦痛だ。叶うのならばこの不毛な争いをすぐにでも終わらせたい。


“その為の力が必要だ”


 彼女はさらに願い、そして力を、光を欲した。自身が愛した光と同じように、この醜い争いを終わらせる為の光を。そう願う彼女には、いつしか現実世界の常識から逸脱した力が備ることになる。願いの通りに “光を操る力” を手に入れたのだ。そもそも、この世のものではないものとして転生した時点で、彼女にとって現実の物理法則など既に意味は無い。

 彼女はその力を使い、島を穢す全てを追い出した。自身の願いと想いとこの地を守り、いつか訪れるかもしれない再会の時を信じて。


 あの日から千年。地獄の光景が広がる中で願った祈りが今叶おうとしている。その祈りは今でも変わらず、その願いはあの日のまま。絶望の焔にこの身が消されてから、幾万を数えた静寂の夜と孤独の朝を越えて今でも彼女の意思はここに存在している。今もこの場所に立っている。

「ようやく、会えるのね。レナト。」

 穏やかな表情を浮かべた少女は言葉を噛み締めるようにゆっくりとそう呟き、頬を撫でた海風が通り過ぎるのと同時に姿を消した。

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