4.誕生日の呪い

 閏年、二月二十九日の生まれの者にとって誕生日はセンシティブな問題である。


 たとえ『年齢計算ニ関スル法律』に誕生日前日の満了を以て加齢するという定めがあっても子どもにはそんなこと関係ない。『今年は閏年じゃねーからお前だけ誕生祝いなしな!』という心ないクラスメートの言葉に一度ならず傷ついた二月二十九日生まれはぼくだけではないはずだ。くそっ、今思い出しても腹が立つ。


「あれ? 生野、どうしたのん?」


 それだけにうちの親は結構盛大に誕生日を祝ってくれた。探偵団のメンバーが年々減ってどんどん寂しくなっていったけど、それでも頑張って盛り上げようとしてくれていた。くそっ、今思い出しても涙腺が緩んでくる。


「おーい、生野……って泣いてる?!」


「違う! これは汗だ。心の汗だ!」


 叫ぶように言ってから、深呼吸をして、心を落ち着ける。


「……誕生日祝いのケーキを四年に一度しか買わないというのはおかしなことだ。それが二月二十九日生まれの者の生誕を祝うためのものなら、なおさらね」


「これは事件ですよ、探偵さん」


「はいはい。確認したいんだが、注文したのはホールケーキなんだな?」


「うん。サイズは3号」


「……ええと、何人前だ?」


「宴会料理じゃないんだから、何人前とは言わないけど大体二人分」


「了解、次だ。『この時期にはバースデーケーキを注文していない』ってことは、Aさんは別の時期に注文することもあるんだな?」


「うん。自分と家族の誕生日にはいつも注文してるんって」


「家族がいるのか」


「……仮名だから言っても良いかな。お姉ちゃんの話だと、二十そこそこで結婚したんだけど、三、四年で別れて実家に戻ってきたみたい。今はご両親と三人暮らし。ちなみに自分と家族の誕生日にはいつも四号――三人から四人分サイズを買ってる」


 たったこれだけのやり取りで答えを一つに定めるなんてことは、名探偵でもできないだろう。正しくは、答えを一つに定めてはいけない、と言うべきか。


 でも、町田がにこにこ笑顔で黙り込んだところを見ると、どうやら出題編はここまでらしい。


 さて、どうしたものかな。ぼくは話の組み立てを考えるため、しばしの間考え込んだ。

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