2.帰り道

 ぼくと町田は家が近所で、親同士も仲が良かったので、物心つく前から一緒に遊ぶ仲だった。


 絵に描いたような幼なじみのぼくらだったが、歳を重ねれば互いに同性の友達も増えていくわけで、小学校に上がる頃にはもう、互いの家に行くことはほとんどなくなっていた。


 それだけに、小学三年生の夏にぼくが立ち上げた少年探偵団に、町田が入団を希望してきたときは少なからず驚いた。


 きっと入ってみてがっかりしたことだろう。周りにいるのはぼくを含めて男ばかり。はじめのうちは秘密基地作りとか迷い猫探で盛り上がっていたけど、いつの間にか誰かの家でゲームをやる集まりになっていったし。


 その探偵団もぼくらが六年生になるころには、ほとんど団員がいなくなっていた。最後まで残ったのはぼくと町田の二人で、ぼくの方から「もう探偵団って歳でもないか」と解散を持ちかけたのが小学六年生の二月。町田はそれに、にへらと笑って「だよねぇ」と応じたものだ。


 中学の三年間、ぼくは町田とあまり話をしなかった。クラスが違ったからというのは多分言い訳なのだろう。高校に入って同じクラスになってからも、ぼくから積極的に話しかけることはなかったから。


 今の町田は美人で、社交的で、さりげなく気を遣うのが上手くって、それで女子グループの中心人物の一人になっていた。対するぼくは休み時間に推理小説ばかり読んでいる根暗男である。今さら幼なじみ顔して話しかける資格なんてありはしない。


 でも、町田は時々こうやって、帰る方向が同じであることを口実にして、ぼくに話しかけてくる。


「……で?」


「で、って?」


「町田が一緒に帰ろうと言うときは大体いつもろくなことがないからさ」


 ぼくが言うと、町田は「うふ、わかる?」と言って満面の笑みを浮かべた。


「あたしのお姉ちゃん、駅前の『ソレイユ』でバイトしてるでしょ」


「聞いたことあるかもな」


「今年で五年目なんだけどさ。この休みに、少しおかしなことがあったんだって」

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