閏年限定バースデーケーキ事件

mikio@暗黒青春ミステリー書く人

1.放課後

 放課後の教室はいつになくざわついていた。


 新型ウイルス感染症が国内でじわじわと広がる兆しを見せる中、ぼくらが通う高校もついに明日――三月三日から休校ということになったのだ。


 ふってわいたような高校一年最後の放課後。そして、明日からの長い春休み。原因がウイルスだから後ろめたさはあるのだろうけど、教室内が浮かれムードになっているのは否定のしようがなかった。


「どしたよ生野いくの。こんな時に難しい顔しちゃってさー。遊び仲間がいなくて寂しいのん? 寂しいのん?」


 と、同級生の町田まちだが、風邪も新型ウイルスもよせつけなさそうな脳天気な声とともに、ぼくの頭に両腕を乗せてきた。


「重い重い重い」


「……女子高生相手に重い三連呼ってひどくない?」


 ぐいぐいぐい。


「だあっ」


 勢い余って彼女の豊かな胸がぼくの頭に触れるよりも前に、脱出を図る。


「ちぇー」


 頭の後ろに手を回して、口をとがらせる。


「……お前こそぼくなんかと話してて良いのか? さっき女子たちがファミレスに行くとか言っていたが」


「『なめらか』でしょ? 行くよ、もちろん」


 コミュ強め。


「でも、部活がある子もいるから夕方にしようって。というわけで、あたしは生野と一緒に家に帰ることにしました!」


「合意形成のプロセスはどこへ?」


「良いから良いの! 良いから行くよ!」

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