アルトナイトキャブル

エリー.ファー

アルトナイトキャブル

 たくさんのお客様に入っていただき、厚く御礼を申し上げます。

 こんな男の言葉をなんだかわかんないけれども、こうやって多くの人がやって来てだ、ねぇ、良いだ、悪いだ、ねぇ、そんなことを言うんでしょう。

 不思議なもんだよねぇ、本当に。

 なんで、誰かが必死にやってるのを見てね、悪いなぁ、とかそんなことが言えるもんだって、そう思うんですよ。えぇ。

 見てて分かるでしょう。ねぇ、ここに壁がある訳もないんだから、そりゃ伝わりますよ。あぁ、今日のお客は納得してねぇなぁ、でも、まぁ、センスがねぇんだろうから、仕方ねぇか、なんてね。

 思うんです。

 こっちは。

 だってね、落語家ってのは意外と繊細な生き物でしてね、やっぱり傷つくんですよ。こう見えて。

 どう見えてんだか知らないけどさ。

 でもね、仮にうけなかったとしてもだよ。ねぇ、また明日、そんでもって来週とかその次の年だってそうだ、うん。やんなきゃいけない。

 やんなきゃいけないって。

 分かるでしょ。

 落語だよ、落語。

 ねぇ。

 ねぇ、全くそうなんだよ。

 本当に。

 温い。

 うん、温いね茶がね。

 後で、前座ぶんなぐってやる。

 虫の居所が悪いんですよ、あたしは、ねぇ。

 でも、特別ってわけじゃあないんだ。ねぇ、常にですよ。弟子共は常に戦々恐々何を言い出すんだ、何を言われるんだって常々思ってる。

 そういう中で、こうね、俺がぐわっと喋る訳よ。

 そうすっと、緊張の中だけども弟子たちは聞きほれる訳だ。

 この俺の言葉に。

 あんたらもそうでしょ。

 駄目だね。

 客にこういうこと言っちゃいけない。

 四年に一度なんていうので、オリンピックの話をするやつはセンスないね。

 考えてもみなよ、四年に一度ってテーマでオリンピックって、当たり前すぎるだろ。普通だよ、普通。皆やるよ、そんくらい。

 前のやつがそうだった。あ、そうなの、前にやったやつが、四年一度でオリンピックの話したの。

 あぁ、あいつはセンスないから。

 あぁ、しょうがない。

 そればっかりは。

 ねぇ。

 センスなくてもある程度、形だけ身につけてそれっぽくやりやがるでしょう。今のやつは。そういうとこなんだよ、そういうとこ。ねぇ、そこが気に入らないの。

 四年に一度というテーマだとしたら、そうだなぁ、例えば季節が、ねぇ、春夏秋冬が一年ごとに来る世界だったら、どんなことが起きるか。

 春の年は客の入りがいいよ、ねぇ。夏の年はクーラーを求めて、どっと体のくせぇのが入ってきやがるだろうなぁ、本当にくせぇやつは、つまみだしゃいい。で、秋の年はいいんじゃないの。秋は、いや、秋って季節がねぇ、ねぇ、好きなんですよ。本当に、俺は秋が一等好きなんだよ。だから客が全然入らなくてもここで落語やりたい。

 ねぇ。

 冬ですよ。

 問題は、ねぇ。

 冬。

 寒いでしょ。

 まずねぇ、外なんかでないよ。

 来やしない。

 寒空の下で空っ風に吹かれて体をちいちゃくしながら石畳の道を歩いてくるんだろう。想像しただけで、凍死しちまうよ。もう、冬が嫌になってきやがったなぁ、畜生。

 今はおこたに、アイスクリーム、そんでもって、漫画、小説、映画にゲーム。

 これに勝るものはありませんなぁ。

 ねぇ。

 だから、春の年と、秋の年と夏の年の稼ぎで冬の年を越えればいいと、ねぇ、そういうことになる訳ですなぁ。

 いやぁ、とにかくだよ。

 寒かったら、だーれもこんなとこ来ないよ。

 だからね、来ない方が良い。寒い日は来ない方が良い。

 あぁ。あれだよ。

 客が来ないんじゃないよ。

 俺が来ないってこと。

 てなもんで、おあとがよろしいようで。

 

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