第238話 本意(2)
「それって。 社長は彼女に恋愛感情を抱いていた・・ってことですか?」
志藤は意味不明なまま真太郎に言った。
「う~~~ん。 それは、わかりませんけど。 まあ・・微妙な・・」
意味深なことを言われて、
「まっさか・・二人の間になんかあったとか?」
本気で心配する志藤に
「それはないでしょう。 まあ・・恐らくあの人は母以外の女性になびいたりすることはないですから。 でも、白川さんのことは特別に思っていたとは思います。」
「ようわかりませんが。 社長は個人的恨みで怒ってはるて言うことですね?」
志藤は怪訝な顔をして真太郎に言った。
「・・の可能性もあります。 ぼくにもあんまり心の内を見せる人じゃないし。 正直・・悔しいんだと思います。」
なんや、それ。
志藤は気が抜ける思いだった。
「白川さんが突然、妊娠して結婚てことになったら、まあ・・恐らく今まで通りに仕事はできませんから。 志藤さんを東京に呼んだのは社長ですし、いろいろ複雑なんでしょう。」
「そうですか・・」
志藤はヨロっとして棚に手をかけて、ぐったりとした。
「でも。 きっとわかってくれますから。 今はクラシック事業を成功させるよう、頑張っていきましょう。」
真太郎はニッコリと笑った。
ゆうこはその晩も自宅にやって来た志藤から
その話を聞かされて。
「ほんま。 けっこう子供っぽいな。 あの人は、」
ため息をつきながら言った。
「単なる『ヤキモチ』やん。 それって。」
志藤は思わず文句を言うが
ゆうこはそれを聞いてジッと固まってしまった。
「ゆうこ?」
「やっぱり。 社長は許して下さらないんですね・・」
何だか落ち込んでしまったようだったので、
「そんなの。 とにかく子供が生まれるんやし、おれたちが結婚するのはもう決めたことやん。 社長がいくら反対したって・・」
彼女の背中に手をやって、励ますように言った。
「それで。 もう一日も早く籍を入れたほうがいいと思うねん。」
志藤の言葉に
「・・・・」
ゆうこはうつむいて黙ってしまった。
そして
「入籍は社長が笑顔でこの結婚を喜んで下さったら・・したいんですけど。」
と、志藤に言った。
「はあ?」
「あたしは、社長が許してくださらなかったら・・籍は入れられません、」
とんでもないことを言い出した。
「って! もうゆうこのお父さんとお母さんも、ウチの両親も了解してくれたんやで? なんで、社長のGoを待たなアカンねん!」
志藤は大いに焦った。
「社長はあたしにとっても大事な方です。 その社長に反対をされては・・」
「反対はしてへんて。 あの人がおれになんか知らんけど、敵対心むき出しにしてるだけやんか、」
「いえ。 あたしは社長の気持ちも裏切ってしまいました・・」
どんだけ
真面目やねん・・
正直そう思ってしまった。
志藤は彼女の手を握って
「おれは。 一日も早く籍を入れたい。 ・・・明日は何が起こるかわからへんから。」
真剣な顔でそう言った。
「え・・」
ゆうこはすぐに
志藤が亡くなった恋人のことを思い出していることがわかった。
手のひらからするっと
こぼれてしまった幸せのことを
彼は一生忘れることはないんだろう。
でも・・
ゆうこはふっと微笑んで
「あたしは。 どこにも行きませんから。」
その手を握り返した。
「ゆうこ、」
「どこにも。 行かない。」
自分の不安も心配も
全てわかっているかのように言う彼女が
愛しくて
かわいくて
たまらなかった
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