第237話 本意(1)
「・・ありがとう、」
手で涙をぬぐった。
「また泣く。」
彼女の頭をくしゃっと撫でた。
「・・うれしくて。」
ゆうこはふと微笑んだ。
志藤はその手を握って、彼女の頬にキスをした。
ゆうこは
いろんな不安な気持ちだとか
いうことをきかない身体への苛立ちで
毎日
気持ちが押しつぶされそうだった。
彼に
ずっと側にいて欲しい。
素直に
そう思えて。
ゆうこはそっと自分から志藤に抱きついた。
「え・・」
ゆうこから
そんなことをされたのは
初めてで。
「ずっと・・そばにいたい・・」
ゆうこは泣きながらそう言った。
「ゆうこ、」
彼女の背中を抱きしめる。
そして
そっと唇を重ねた。
もう
絶対に彼女を泣かせたりしたくない。
志藤はその気持ちでいっぱいだった。
翌朝。
志藤は意を決して、北都の前に行った。
「社長、」
北都は仕事をしていて振り向きもしなかった。
それでも構わず、
「社長がどう思っているかわかりませんが。 ぼくは彼女と一緒になって、残りの人生を二人で生きていきたいと思っています。 彼女に子供ができて、体調を崩してしまい、社長を始め会社には迷惑を掛けてしまったと思います。 ぼくはどうなってもいい。 このオケのデビュー公演を絶対に成功させて・・そうしたら。 社長の思うままに・・していただいていいので。」
一気にまくしたてた。
それでも
北都は聞いているのかいないのかわからない態度だった。
「社長、」
少しいらだって志藤はデスクに手をついた。
北都はジロっと彼を睨むように顔を上げ、
「その言葉。 忘れるな。」
ゾクっとするほど
怖い顔で。
怖い声で
そう言って、北都はスッと立ち上がり、部屋を出て行った。
「志藤さん、」
隣の部屋から真太郎が入ってきた。
「あ・・おはようございます・・」
少々呆然としたまま言った。
「すみません・・声が聞こえてしまって。」
「あ・・いえ。 もう・・社長が何に怒ってはるのかが・・わからない、と言うか。」
志藤は戸惑いながら言った。
「こんなことを言うのもなんですけど、」
真太郎はそう前置きをしてから
「社長は白川さんを単なる秘書、以上の気持ちで見ていたのかもしれません、」
「・・はあ?」
意味がわからない。
「社長は白川さんの気持ちを知っていましたから。 本当にあの人には気を遣っていた、というか。 傷つけたくないと思っていただろうし、彼女を絶対に幸せにしてやらないとって、責任も感じていたと思います。」
社長が?
って・・
志藤はその『意味』を考えてしまった。
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