第239話 本意(3)
ひなたの卒業式の夜、南が家まで来てくれた。
ゆうこの母も交えて、お祝いの食卓となっていた。
「ひなた。 おめでとー。」
南は嬉しそうに、もう自分とそう身長が変わらなくなったひなたの頭を撫でた。
「みーちゃんがくれたワンピース、チョーかわいかった! 友達もどこで買ったの~~って。」
「あれイタリア製やもん。 スタイリストさんに頼んで買ってもらったの。」
「南さん、どうぞ。 いつもとおんなじような食事ですけど、」
ゆうこは笑った。
「いつもとおんなじがええねん。 ワインも持ってきたよ。」
「ありがとうございます、」
「真ちゃんもいっしょにくればよかったのに~。」
ひなたは残念そうに言うが、
「真ちゃん、今日はちょっと忙しいねん。 また今度二人で来るね。」
南は笑顔で言った。
「真ちゃんはさあ、もうすぐ社長さんになるんでしょう?」
そんな大人っぽいことを言われた。
「え~? そやなあ、いつかはなるけど。 いつになるかはわからへんよ。」
「すごいねえ。 真ちゃんはさあ、あんなにかっこいいのに、その上社長になるんだもんね。」
「アハハ。 でもなあ、けっこう大変なんやで。」
南はゆうこから注いでもらったワインに口をつけて、
「ひなた。 みーちゃんちの子供になる?」
と、冗談を言って笑った。
「え? ほんと? なりたい、なりたい~~!」
ひなたは無邪気に喜んだ。
「バカなこと言って。 もう、」
ゆうこは笑った。
「だって、真ちゃんちすんごいお金持ちだも~~ん、」
「ひなたはカワイイから。 これからいっくらでも玉の輿に乗れるって。」
南は笑ってひなたの肩を叩いた。
『あたしが育てる!』
あの時
あんな風に思わず言ってしまったけど
こんなに明るく元気に育ったひなたを見ると
あんな軽はずみなことを言ってしまったことが
少し恥ずかしく思える。
「ひなたのパパにこんなこと言ったら、本気で怒るから。 パパはひなた命やし、」
南は志藤のことを思う。
ゆうこも感慨深かげにそんな光景を見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はあ? 籍を入れない?」
ゆうこの母はさすがに驚いた。
「社長にわかっていただけるまで・・。」
ゆうこと志藤は下の茶の間に降りて行った。
「ぼくは・・そんないつになるかわからないことを待つのはと思うんですが、」
志藤は申し訳なさそうに言う。
「あたしは、大人としてケジメをつけたいの。 この軽はずみな行為で、たくさんの人に迷惑を掛けてしまって。 この結婚は、みんなから祝福してもらいたい。 社長には・・特に、」
ゆうこはうつむいた。
父はずっと黙っていた。
志藤はこの人の反応が少し怖かった。
しかし
「ゆうこ。 おまえは正しい!」
いきなり、怖い顔でそう言った。
「は??」
志藤と母は驚いた。
「きちんと社長さんに顔向けできるように。 おめえは仕事をしっかりして! ゆうこも体が良くなったら、また仕事に戻れ。 それで真面目に仕事をして、社長さんにわかってもらえ。」
腕組みをしてそう言った。
「お父ちゃん、」
「結婚はなあ、そんなに簡単なもんじゃねえ。 おれは子供ができたからつって仕方なく結婚したって思われるのが一番イヤだ。 もし、おめえがゆうこのダンナとして、おなかの中の子供の父親として相応しくない男だったら。 ゆうこが未婚の母になっても仕方ないと思う。」
とんでもないことを言い出し始めた。
「ちょ、ちょっと!」
「なら、仕事。 死ぬ気でがんばりな。」
父はそう言った後、そっと家を出て行った。
「お、お父さん、」
志藤は立ち上がったが、
「近所の飲み屋に行っただけだから。 大丈夫、」
母は笑った。
「父は曲がったことが大嫌いですから。 社長がそういう状態ではきちんとするように言うと思いました、」
ゆうこは小さな声で言った。
「に、してもね。 おれはゆうこを未婚の母になんか・・絶対せえへんし!」
志藤は心外そうに言った。
「まあ、そりゃね。 お父ちゃんだってそう思ってるからさ。 志藤さんは仕事頑張って。 こうして毎日のように来てくれるのは嬉しいけど、身体を壊してしまったら、仕事もできないし。 休む時はきちんと休んで。 ゆうこはここにいれば大丈夫だから。」
ゆうこの母の言い分は
もっともだった。
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