第220話 家族(4)

志藤はその後、真太郎と南の家に行った。



「すごいことになっちゃったんやなあ、」


南は素直に同情した。



「もう・・おっそろしい形相で。 殺されるかと思った・・」


志藤は大きくため息をついた。



「でも。 お母ちゃんが話わかる人やから。 ここは根性出してお父ちゃんにわかってもらうしかないね。」



「ハア・・」




「志藤さんのご両親には、」


真太郎が言うと、



「まだ。 何も。 とにかく彼女のご両親への承諾が一番先やと思ってるし。 ただの結婚を許してもらうって話やないから。 彼女の身体にも障るやろし・・」


志藤はため息混じりにタバコを取り出した。




「あ、少しタバコ控えた方がええって、」


南がそれを制した。



「え?」



「ゆうこの側で吸ったらアカンし。 これを機に『減煙』してみたら?」


と、ニッコリ笑った。



「『減煙』って・・」



「だって。 もうお父さんやん。 自分ひとりちゃうねんで。」



そんな風に言われると


すごくジンとくる。




彼女だけでなく


彼女の中の小さな命にも


責任を持たないとならない。




志藤は思わず


笑みがこみ上げて


恥ずかしそうにうつむいた。




南と真太郎はそんな志藤を見て


二人で顔を見合わせてホッとしたように微笑んだ。




一方


白川家では



母の予想通り、酔いつぶれた父が和馬に抱えられて帰ってきた。




「拓馬、部屋まで運んで。 布団も敷いてあるから。」


母が言った。




「も~~、大変だったんだからな。 泣くわ、喚くわで・・」


和馬はどっと疲れたように座り込んだ。



「まあ、想定内でしょう。」


母は落ち着いていた。




「・・実際。 おれだってショックだったし、」


和馬はふうっとため息をついた。




「いつまでもゆうこを桐の箱にしまっておくわけにいかないでしょ。 あの子だってもう25だし。」




「ゆうこは男っ気なかったしなあ。 オヤジがうるせーから、表立ってつきあったりできなかったんだろうけど。」


母が持ってきたお茶を飲んだ。




「でもさ。 志藤さんっていい人そうだし。 ああいうしっかりした人にゆうこを任せられたら、安心かな。」



「まだ知り合ってそんなたってないんだろ? 大丈夫なのかよ、」



「時間じゃないって。 人間さあ、自分とぴったり合う人って直感でわかるんだよね。 子供ができるほど縁が深い人ってこともあるだろうし。 」



「子供なんかね。 どんな気持ちでいたってできるだろ?」


和馬は呆れて言った。



「あんたねえ。 命は尊いんだよ? この命には絶対に意味がある。 そりゃ、知り合って間もないふたりが結婚したら色々あると思うよ? 今までわかんなかったこともどんどん出てくるだろうし。 でも、普通の夫婦だってそんなことたくさんあるし。 そういうのをひとつひとつ乗り越えて行くのが夫婦じゃない。」



「あいにく結婚してないんで、」



「あんたらがいつまでも一人でいるからさあ。 ほんっとようやく孫ができて。 楽しみ~~~。」


母はひとり喜んでいた。



ゆうこは部屋でベッドに横になりながら


デスクの引き出しにしまってあったフォトアルバムを取り出して見ていた。



家族で撮った写真がたくさんある。



自分が赤ちゃんの頃に


兄たちがほお擦りをするように、抱っこをしてくれている写真や


父が肩車をして嬉しそうに笑っている写真。



家族で休みのたびにみんなで遊びに行った。



二人の兄は本当に優しくて


上の兄の和馬は心配性でいつも自分のことを心配してくれて


下の兄の拓馬は本当に中学高校といわゆる『不良』と言われるような生活はしていたが


自分には死ぬほど優しかった。



高校生の時、学校でタバコを吸っているのを見つかって停学処分になったときは、父と大喧嘩して。



自分も泣いて、きちんと学校へ行って欲しいと言ったら。


それからは真面目に行ってくれるようになった。




男の子からしつこく交際を迫られて困っている時も、拓馬が怖い顔で追っ払ってくれたり。



夜、ほんのそこまでの道まで買い物に行くってだけで


兄たちのどちらかがついてきてくれたり。




みんな


びっくりさせちゃったなあ・・



ゆうこは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

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